デジタル時代におけるニュース消費の習慣づくりへの注目
先週のニュースで話題になったことの1つに、ニューヨーク・タイムズを過去8年間牽引し9月に退任を予定しているマーク・トンプソンCEOが、米CNBCのインタビューで述べた、「20年後の2040年にはNYT紙の紙版の発行の終了する」と示唆するコメントがありました。
「タイムズはあと10年は確実に、そしてたぶん15年以上、印刷されるかもしれない。ただ、20年後も印刷されているとしたら、私には大変な驚きだ」
将来紙版の新聞の発行頻度が減少、或いはなくなる、という指摘や予測は今までもあったものの、過去8年間で64万部から570万部までデジタルの有料購読者を獲得し、直近4~6月期には史上初めてデジタル版の売り上げが紙媒体を上回るという歴史的な偉業を成し遂げた直後のコメントとして、とても現実味が感じられるものでした。
*グラフ:ロンドンに拠点を持つ業界団体のFIPP(International Federation of Periodical Publishers: 国際雑誌連合)が今年の7月に「Global Digital Subscriptions Snapshot - July 2020」と題した世界のデジタルメディアの有料購読者数から抜粋したデータにNYTの最新情報を追記したもの
将来紙の新聞が仮になくなると仮定した際、今後「私たちが日々のニュースをどのように消費するのか」というテーマは、1人ひとりの読者として、またニュースパブリッシャーとしても、重要な課題になっていくことと思われます。既に電車の中で新聞紙を器用に折りたたんで読むビジネスパーソンは減り、スマホで読むことは一般的になりつつある中で、有料購読をしてもらうためのロイヤリティの高い読者をどう獲得するか、ニュース消費習慣の実態把握、或いは新たな習慣づくりのためのプロダクト開発の試みが、今後進んでいくのではないかと思われます。
注目が集まるeメールニュースレターとポッドキャスト
毎年6月に公開されるデジタルニュース業界における毎年恒例の調査レポート、英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所による「Digital News Report 」の中でも触れられているのが、eメールニュースレターとポッドキャスト(オーディオコンテンツ)への注目です。
SNSやキュレーションアプリ、そしてスマホの通知機能経由で飛び込んでくるニュースを消費する、という行動は実際多くの人が経験していると推察します。一方、特に欧米圏の国において、朝、夕、週末等の決まった時間に自分が信頼するニュースメディアから届けられるポッドキャストやeメールニュースレターを習慣的に消費する人がとても増えていることが「Digital News Report 」では報じられてます。また、こうして習慣的に接触するメディアを結果的に有料購読する、という傾向も明らかになりつつあります。以下のオンラインウェビナーでは、「Digital News Report 」の共同執筆者であるロイター・ジャーナリズム研究所のニック・ニューマン氏が「ニュースレターとポッドキャスト:習慣の力」と題し、具体的な行動様式の変化や各社の取り組みなどが紹介されています。
個人的に最近気になっている各種メディアの取り組みをいくつかご紹介してみたいと思います。
①ニューヨーク・タイムズの「ニュース・クイズ」
米国東部時間の金曜日朝10時30半(日本時間の金曜日夜11時半)にメールニュースレターで届けられるのがニューヨーク・タイムズによるその週に話題になったニュースについての理解度を問うクイズです。11問あるうちの今週の1つ目のクイズは、米国副大統領候補に選出されたカマラ・ハリス上院議員の母親の出身国は、という質問でした。正解の「インド」と答えた人は日曜日夕方の時点で150,037人の全回答者中96%であることが表示され、回答直後に関連記事、サマリー動画が表示されるしくみになっています。今回自分は11問中8問正解することができましたが、理解度を上げるためにニュースを読もう、というインセンティブが働くしくみになっています。
②日経電子版が提供するアプリ『歩数番』
日本経済新聞社とメドピアグループが共同展開する歩数記録アプリ「日経歩数番〜島耕作バージョン」は、毎日の歩数(体力)、そして日経電子版の読んだ記事数(知力)に応じて、毎日ポイントを獲得することができるアプリです。
有料購読者だけでなく、登録することで会員となっている約900万人が利用可能な無料サービスで、知力と体力の合計獲得ポイント数が2,500に到達すると500円分のAmazonギフトカードへの交換ができる、というしくみです。私もコロナ禍で運動不足になりがちだった今年2月後半にアプリをダウンロードして使い始めたのですが、現在2,396点で、約6ヶ月をかけてやっと500円分のポイント獲得を実現できそうです。金銭的なインセンティブに加え、健康維持、そしてニュースに触れることの習慣化にとても役に立っている、と感じるサービスの1つです。
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自分自身、日々国内外の情報をウォッチする中でこれといった確立した習慣ができているとはまだ言えないのですが、近年の各メディア企業の様々な取り組みには新鮮な発見が多く、とても興味深いです。ぜひ今後もこうしたトレンドを引き続き注視していきたいと思います。
お知らせ:
新しいメディアのあり方について考える「あしたメディア研究会」が開催するオンラインセミナーに、ゲストとして登壇する機会を頂きました。もしこうしたテーマに興味をお持ちの方がいらしたらぜひご参加ください。
8月27日(木)20:00-22:30
『コロナ禍における海外の「ニュース消費」最新事情を読み解く!』
https://peatix.com/event/1583358/