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アートシンキングにまつわるみんなのギモン

お疲れさまです。uni'que若宮です。

先日、渋谷スクランブルスクエアのQWS(キューズ)にて、まもなく発売される自著『ハウ・トゥ・アートシンキング』の出版直前アクティブ・ブック・ダイアローグ®(以下ABD)を開催しました。(出版社さんのイベントレポはこちら↓)

参加者のみなさんに書籍を読んでいただいた後のダイアローグ(対話)の中でアートシンキングに関する疑問や質問をいただいたので、その点について書いてみたいとおもいます。


ABDは参加型のあたらしい読書法

ABDについては、『ティール組織』で友人の編集者が積極的に行っていたり、ソニックガーデンの倉貫さんが著書『ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談」』で積極的にされていてずっと興味をもっていたので、自著でもぜひやってみたいと思っていました。今回は、ワークショップデザイナーの元木一喜さんがファシリテーターをしてくださることになり、念願のABDができました。

ABDの詳細は下記公式サイトをご確認ください。(やり方もオープンソース的に公開されています)

ざっくりいうと、本を分担して読む読書会なのですが、メインプロセスは下記です。

⑴「コ・サマライズ」
本を持ちよるか1冊の本を裁断し、担当パートでわりふり、各自でパートごとに読み、要約文を作ります。
⑵「リレー・プレゼン」
リレー形式で各自が要約文をプレゼンします。
⑶「ダイアログ」
問いを立てて、感想や疑問について話しあい、深めます。


ABDの発明は、本を分担して読んで、それぞれのパートを参加者それぞれがサマリーにし、それをプレゼンし合う、というやり方です。各自は初見でその日書籍のほんの一部分しか読まないのですが、サマリーをつくることで自分のパートの理解が深まり、かつ、他の人のプレゼンを聴くことで短時間で本の全体像が把握できるのです。

さらに本の概要が全体共有できたあとで、ダイアローグ(対話)もでき、他の参加者と意見を交わす中で多面的に書籍を理解することができます。

ご参加いただいた、なつみっくすさんの感想レポートはこちら↓


アートシンキングにまつわるいくつかの問い

各テーブルでグループ対話をしてもらったところ、たくさんの「問い」が出てきました。

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会場で回答できなかったものもあるので、これらの問いに関して僕なりに答えてみたいと思います。


1.自分を掘っていくのは怖いのでは?/自分を掘るのが痛くて怖い人はどうしたらよいの?

アートシンキングは「自分」を起点にして価値をつくるため、自分を掘るプロセスを通ります。しかし、無理やりに掘らなくてもよいのです。かさぶたのように無理に剥がせば傷になってしまうこともあります。(アーティストはある種、痛みを覚悟でそれを掘っていく人たちですが)

痛みを堪えて無理に掘るというよりも、本来の「自分」を起点にできると、肩こりがとれるようにむしろ楽になります。人は「役割」や「肩書」などの社会的分節や「あるべき」「ありたい」像を自分だと思い込み、息苦しくなっていることがあるからです。その兆候は「イライラ > ワクワク」という状態になってること。

自分を守っているつもりが、肩に力が入って息苦しくなっていないでしょうか?他の人と比較して嫉妬にイライラしていないでしょうか?
そんな時は社会性を一度脇に置き、理屈もなく好きなこと、ついやってしまうこと、どうしてもやめられないことなど、「自分」の「いびつさ」を受け入れ、それに委ねてみましょう。パフォーマンスがあがります。自分を無理に掘る、というより否定していた"いびつさ"を認め、活かすのがアートシンキングです。


2.アートシンキングに向いていない人っているの?

究極をいうと、アートシンキングに向き不向きはないと思っています。

「アート」というとすごくクリエイティブでなければならないように思われますが、自分起点のユニークな価値、という時、「ユニーク」とは「風変わり」とか「新奇性」という意味ではありません。uniqueのuniは「1つ」ということ、つまりその人のあり方がどうやら「(他に同じものがなく)1つっぽい」ということです。大事なのは「"あたらしさ"より"らしさ"」です。確実にオペレーションをこなせるとか、ものすごくルーティンワークが得意、というのも十分にユニークですし、その「自分」を発揮できていればそれはアートシンキング的です。

一方、向き不向きではなく、「アートシンキング的じゃない状態」というのはあります。やたら役職や学歴に執着したり、相手を否定しマウントをとったり、自分ごと化せず評論したり、フレームワークをひけらかしたり。こういう状態の時、ひとは「自分」らしさとは遠いところにあります。「他分」が支配的で、その固い殻の中に閉じこもっており、触発も感じません。しかし、そういう人でもモードチェンジすることはできます。


3.ビジネスにアートや遊びは必要?/安全管理や品証のような仕事でもアートシンキングって必要?

「仕事」と「遊び」は対立するものと考えられがちですが、ビジネスにも「遊び」や「余白」は必要だと考えます。どんな精密な機械にも「遊び」があるように、それがないと却って脆弱になったりレジリエンスがさがります。

管理や品証など一見保守的な業務も、必ずしも画一的でなければならないわけではありません。本当に画一的な単純作業なら機械のほうが得意でしょう。安全性は担保しながらも自分らしい”工夫”することは可能です。「余白」や「遊び」というのは検査の精度というより業務を工夫する可能性にあります。そして小さくても自分なりの工夫をすることで仕事は楽しいものになり、パフォーマンスが上がります。


4.アートシンキングで生まれたアイディアをどう評価するの?/会社は数値でしか判断できない!

企業で事業をやっていると、会社からの「評価」も考えなければいけません。アートシンキングはイノベーションを生む0→1フェーズで最も有効ですが、そもそもイノベーションというのは既存の価値軸で評価ができないものです。アートシンキングなアイディアも時にクレイジーで、他の人には理解できません。

iPhoneでも、Airbnbでも、それが登場したときには大多数の人が否定しました。アートシンキングなものの価値は、事後的にしかわかりません。むしろ、評価されなくてもそれを実行し、その実行によって既存の評価軸を変えていくのがアートシンキングです。やらずにいられない、理屈では説明できないエネルギーがあってこそ、社会の軸そのものを変えていくことができるのです。

とはいえ、留意すべきポイントが2点あります。ひとつは、企業の場合、個人の「自分」ではなく、企業の「自分」に根ざしたことをやるということ。企業をひとつの人格と考えた時、その企業ならではの、その企業らしい事業を考える事が大事です(事業のコアバリュー)。
もう一点は、数値といってもユーザー数とか売上でなく、事業の成長に合わせた数値で評価することです(事業のフェーズ) ⇒新規事業について詳しくは過去COMEMO参照


5.期限や時間、守らないとだめ?

そもそも自分の資産の範囲でできることであればそれほど気にしなくてもよいでしょうが、ビジネスの場合ステークホルダーが多いのでそうも行きません。もしくは会社にキャッシュが余るほどあれば、期限を延々引き伸ばすこともできるでしょう。しかし普通、企業では会計年度がありますのでいったんは「締め」がきます。

「締め」がある事自体は必ずしもアートシンキングの敵ではありません。アート作品もどこかで「締め切り」を設定するから作品をつくり終えることができます。世に出すタイミングも大事です。ただ、「締め」たらすぐ価値や成果が出るか、というとそうではありません。
また、期限や計画を立てて取り組んでも何も生まれない時期というのもあります。そういう時はやってはみたけどやめる、とかいったん保留、というのも大事です。目先のゴールを設定せず、インプットや散歩をしながら、触発を受けてエネルギーを貯めましょう。


6.文化ってなんだろう?

いろいろな定義があると思いますが、僕は「単なる合理を超えて、多様性を生み出す様式の複合的総体」だと思っています。たとえば「食」が「食文化」になるには、そこにいろいろな工夫を受け入れる土壌ができて、多様性が育ってこそではないでしょうか。単なる合理や効率性のみを重視した食事が「食事」とすら呼べない時間になっていくように、可能性の束を減らして画一化してしまうことは「文化」からは離れると考えています。


7.「正解」を離れられたきっかけは?

直接のきっかけは「オレが正解」とチームメンバーにも押し付けるような仕事をしていて、大きな失敗をした経験です。そもそも無時間的に万人に当てはまる正解はないのだ、とその失敗で気付き、それ以降少しずつ「正解」への呪縛を解いてきました。


それぞれのアートシンキング

ABDをやってみて著者として色々な発見がありました。自分ではごく自然なことと思って書いていても人によっては当たり前ではないんだな、ということもありましたし、ここは伝わりづらいし誤解されやすいんだな、と気づいたこともあります。

しかし何より面白かったのは、読む人が「恋愛」や「子育て」のことなど、自分自身に引きつけて読んだ感想を聞けたことです。そのような感想をきいて、本があたらしい生命を得たような気がしました。

「アートシンキング」は画一的な正解をくれるものではありません。理論書として暗記したり、テキストを批評的に読むのではなく、読者の方それぞれが、自分の関心事や仕事、そして人生の悩みに引きつけて読むのがもっとも効果的だと思っています。今回のABDが、そしてこの本が、みなさんそれぞれのアートシンキングを見出すきっかけになったら幸いです。

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