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映画館の経営について考える

この数ヶ月、僕は下北沢に誕生する映画館『K2』の立ち上げに没頭していた。
そして、先日の1月20日、遂に『K2』は開館!!

記事にして頂いた一部を抜粋したが、テレビや新聞を始め、本当に多くのメディアに取り上げていただき、そしてマンボウ発令にも関わらず、日々本当に多くの方にご来場頂いている。本当に有り難い限りです・・・・!

1月24日に映画フィッシュマンズの上映後に、手嶋監督×フィッシュマンズのリーダー茂木欣一さんの
トークショーを実施しました!記念に半目でパチリ。

気づけば、この数年間、第一次緊急事態宣言下での「ミニシアターエイド基金」をはじめ、この数年は映画館という文化施設に様々な形で関わってきた。

そして、そんな色々な体験も踏まえて、下北沢に誕生する『K2』では、
”コモンズ”をビジョンに掲げることにした。

社会という曖昧模糊でグラデーションがあり、それでいて大きい主語であるものと接続するには、「We」が公共性を宿している集団となっている、つまりユニバーサルな視点が介在していること、そしてそれは必然的に「コモンズ」になっているはずであると言えるのではと思います。
映画館「K2」のコンセプトとして、下北沢の文化的”コモンズ(共有地)”を掲げさせていただきましたが、まさに文化の公共性である映画館を、下北沢に関わる人たちが主役となる”コモンズ(共有地)”として運営していくことで、きっと下北沢に、そして映画文化に貢献することが出来るのではないかと考えたのが、ビジョンに掲げさせて頂いた理由ですが、振り返って見ると、”WE”が”社会”と言い切るには、コモンズの形成が前提なのではないかという仮説がそこにはあったんだなと思いました。

その想いには、MOTION GALLERYでこれまでやってきたこと、そしてやはりミニシアターエイド基金での経験があり、
ミニシアターという存在が、その地域のなかで如何に重要な文化発信拠点となっていたか、そしてならなくてはいけないのかということを肌で実感したこともやはり関係がある。

第一次緊急事態宣言の時のミニシアターの危機感、そしてミニシアターエイドなど様々な映画ファンからの応援や励ましを通じて、なんとか当面の危機から脱したのではないか、とはいえコロナ禍が収まらないなかではやはり来場者は減ってしまっている中でどうこれからを考えていくのかが課題であろう。そんな中で『K2』を始めとした新しいミニシアターが立ち上がっていくニュースはきっと新しい活気を生み出せるはずだ!とう思っていたし、そんな想いとともに、1月20日の開館を後少しと迎えていたときに、まさかのニュースが駆け巡った。

それは「岩波ホール」の閉館というニュースだった。

たまたまそのニュースを知った時に居合わせた映画人の皆が言った。


「巨星墜つ」感が凄い。


岩波ホールとは、やはりアートハウスとして強い存在感があった映画館であり、このニュースを聞いて多くの映画人が同じ様に感じたことだと思う。
キュレーションの効いた良質な洋画作品を、単館で、そしてヒットの有無に関わらず原則ロングランする、上映し続ける。それはまさに文化を生み出している場所であったといって過言ではないし、そしてとても難易度が高いことだったはずだ。そして、そんな岩波ホールが存在し続けていることは、観客としてももしかしたら製作者としても「良質なアート作品がありさえすれば(作りさえすれば)、流行やヒットに左右されずに発信してくれる場所がある」という強い文化的安心感が生まれていたと思う。経済性への偏重が加速している今ならその想いはなおさらである。そういう意味では、ひとつの歴史のある映画館が閉館した、ということに留まらず、なにか文化が経済に屈服したような印象さえ持ってしまうニュースだ。

個人的には、少し前のミニシアターブームを牽引した渋谷の「シネマライズ」の閉館と双璧をなす強い衝撃を受けた。

一般的にはアート系作品/文芸作品などは高齢の観客の割合が高く、そこはまさにコロナ禍で外出が減っているため、興行を直撃しているとは聞いていた。岩波ホールはまさにその様な作品にフォーカスしているため取り分けダメージが大きかったことは想像に難くない。だけれどもあの「岩波ホール」。その財政的背景や歴史などから、まさか閉館するなんて夢にも思わなかった。

一旦何があったのか。

メセナに限界 岩波ホール閉館の真相

見落とされがちだが、雄二郎氏の言葉に従えば、ホール事業は企業メセナだった。同社は2013年にメセナアワードも受賞した。ただ「赤字もある程度なら何とかするが、限度はある。企業は適切な利潤を元に経営するもの。確保できなければ、部門ごとに整理するしかない」と力社長。賃料が右肩上がりだった創業時とは経営環境も大きく異なる。閉館の決断はメセナの限界を示す。

そんな中、日経新聞から、その内情について詳しく報じる記事が出た。
その内容は、なるほどと思わされる内容であると同時に、今後の文化施設の運営について考えさせられる内容だった。

岩波ホールという存在が「メセナ」であったと単純に言い切っていいのかは疑問があるが、少なくとも映画館の危機は決して、コロナ禍による動員減だけで図れるものではないということに気付かされた。コロナ禍が様々な産業に悪影響を及ぼしているのであれば、当たり前かもしれないが、映画館単体の収益だけが継続性の判断に影響を及ぼすわけではないのだ。そう考えると、シネマライズの閉館など「映画館単独でのユニットエコノミクスの成立」が現実的ではないよねという現実の中で、岩波ホールの様に映画館単体でのユニットエコノミクス成立が必須ではない様々な事業の中で存在している映画館が最適解なはずであったが、コロナ禍では逆回転してしまっているのかもしれない。

小田急線の線路地下化によって生まれた”新しい土地”に出来た下北線路街の中に出来る『K2』。ある意味では、「再開発」「まちづくり」にミニシアターという存在が必要だと実感される結果を生み出せれば、今後の全国での再開発事業のなかで映画館というのが収益性の観点からは少し外れた立ち位置で、必要施設としてデフォルトになるかもしれない。そうするとまた様々な場所に映画館が生まれ、映画文化が広がっていく。そんな野望の様なものが自分の中での『K2』に取り組むモチベーションの一つであったが、その前提となるのは映画館単体でのユニットエコノミクス成立があってこそなのだと改めて実感させられた。前述の通り、映画館単体でのユニットエコノミクス成立はかなり難しい。

企業メセナから、クラウドファンディングへ、
箱ビジネスから、メディアビジネスへ

今『K2』で取り組もうとしているアクションは、ユニットエコノミクス成立に向けて、有る種の刷新も含まれているかもしれない。

一方ヴィジョン面では、改めて岩波ホールに強い影響を受けていたことを改めて思い知った。

「客が入らないからといって、打ち切らない。命懸けで作っている人もいるのだから。それは買い切り制を続けた岩波書店風の固い考え方だったかもしれない」と律子氏。本や音楽と同じように映画の商品寿命が短くなり、あっという間に消費される昨今の文化状況への抵抗でもあったろう。

『K2』で実現したい編成としては、なるべく丁寧に、ロングランを通じて作品を届けていくあり方だ。それは、昨今あまりに回転が早すぎて、劇場で見逃してしまう人も少なくないし、その高回転を支えるためにはきっと業務負荷も高くなっているだろう。映画がファストファッションになることから距離をおいた映画館運営を行いたいな、そのためにメディアビジネスのような事業の組み立てを行い、来場者数に左右されない活動の実現を、と考えていたのだが、まさにそれは岩波ホールのあり方に憧れていたのだなと思う。

実は、僕がクラウドファンディング・プラットフォーム『MOTION GALLERY』   を立ち上げたのは、岩波ホールで映画を見たことに大きな影響を受けている。
世界的な高評価を受けつつも、アート作品であるからこそ疑わしい収益性が故に、何年も日本で公開されなかった作品があった。当時フランスの映画人と会話するとその作品を見ていないことに驚愕された。これは世界の潮流を見ることすら出来なくなりつつある日本の文化的危機だなあと思ったものだが、その数年後劇場でその作品を見ることが出来た。岩波ホールだった。作品の素晴らしさはもとより、満員の観客の姿、そしてこの上映を実現してくれた岩波ホールへの感激が止まらなかった。そして同時に思った。「疑わしい収益性」とはなんだったのか。こんな負の「鶏と卵」を少しでもなくしたい。そして岩波ホールのようなスタンスのプレイヤーの一助となれる様なサービスを作りたい。それが『MOTION GALLERY』を立ち上げようとしたときの一つの大きな理由であった。

それを考えると、『K2』でやろうとしていることのビジョンの根底が、岩波ホールのあり方に影響されているのは必然なのかもしれない。

まだ『K2』は始まったばかりで、何をか言わんやの状態であるし、ビジョンの前にまずは安定運営の確立という状況ではあるが、岩波ホールへの憧憬を胸に、これから頑張っていきたい。

最後に、企業メセナからクラウドファンディングかもと書いたが、
まさに今、箱ビジネスから、メディアビジネスへの転換など、この『K2』が行う様々な挑戦を行うために、クラウドファンディングを実施中であり、あと24時間で終了・・・・!!!!!

ぜひとも応援よろしくお願いいたします!

頂いたサポートは、積み立てた上で「これは社会をより面白い場所にしそう!」と感じたプロジェクトに理由付きでクラウドファンディングさせて頂くつもりです!