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ECBの読み方~利下げ局面入り~

利下げ局面入りの宣言
今回は珍しく早打ちのような解説をしてみたいと思います(一応、欧州の専門家でもありますゆえ・・・)。どなたでもお読み頂けます。

既報の通り、ECBは7日開催された政策理事会で主要政策金利を▲25bp引き下げることを決定しました。利下げは2019年9月以来、4年9か月ぶりです。既にスイスやスウェーデンなど先進国中銀の利下げプロセスが始まっていますが、ECBもこれに加わった格好です。預金ファシリティ金利は4.00%から3.75%へ、主要リファイナンスオペ金利は4.50%から4.25%へ、限界ファシリティ金利は4.75%から4.50%へ引き下げられます。

ちなみにトリビアですが、すっかりECBの政策金利は預金ファシリティと見なされる報道が多数になっておりますが、これは元々の政策金利であった主要リファイナンスオペ金利が実効下限制約に直面する中、致し方なく、預金ファシリティ金利に注目が集まり、マイナス金利導入(14年6月)と共に同金利が主役になったという歴史的経緯があります。この辺りは下記の本が詳しいです。非常にマニアックな本ですが、大学・大学院の教科書として使って頂いているとのお話を頂いています:

今回、最初の記者からは「利下げのコミットが早過ぎたのではないのか」という指摘が見られました。筆者もそう思います。1月からECB政策理事会は「年央には決断できると思う」と毎回述べてきました。結果、済し崩し的に6月利下げをマーケットは織り込んでしまいましたが、4-5月に出た経済指標が軒並み強く、今回の利下げについては「無理してやった」という評価も若干ですが付き纏います

これについてラガルドECB総裁は質疑応答の中で「先行きにおける全体的な我々の自信(overall our confidence in the path ahead)」が過去数か月で高まったゆえに利下げに踏み切ったと断じており、結果としてフォワードルッキングに情報発信してきたことの正しさを強調しています。

もちろん、今後に関してはデータ次第である旨を添えていますが、利下げ局面(the dialling-back phase)に入った可能性について「可能性は高い(There’s a strong likelihood)」と言及しています。ペースはどうあれ「次の一手」が利下げであることは陰に陽に会見を通じて認められたと言えるでしょう。

利下げペースは?
注目の利下げペースに関しては、下馬評通り、スタッフ見通しが改定される会合(projection round meetings of the Governing Council)が適しているのかという質問が見られています。ラガルド総裁は「それだけとは限らない」と言質を与えていませんが、現実問題として「多くの情報が入手可能になったから利下げした。今後の決断にも多くの情報が必要」といった趣旨を連呼している以上、3・6・9・12月が政策修正のタイミングとして選ばれやすいのは間違いないでしょう

もっとも、今回のECBスタッフ見通しを見る限り、ユーロ圏消費者物価指数(HICP)は2026年に入らないと2%近傍には落ち着いてこない想定になっています(冒頭記事の中に予測表が付いております)。そうした中、3・6・9・12月という刻みで順当な利下げが可能なのかは相当に疑わしい部分も残りそうです。現に、声明文の中では「We will keep policy rates sufficiently restrictive for as long as necessary to achieve this aim」と政策金利の高止まりを正当化するような表現も見られており、最も多くても3か月に1回というのがECBの利下げペースと受け止めておけば良いでしょう。

そして、こうした軌道は9月以降の利下げ着手を織り込むFRBと大差ない軌道であり、それゆえに欧米金利差に沿ってユーロ/ドル相場も膠着感を強めている印象があります。今回の会見はタカ・ハト両面のバランスを取った印象が強かったものの、域内金利やユーロ相場の反応を見る限り、それほどどちらかと言えばタカ派と受け止める向きは多そうです。

試されるECBの賃金想定
当然予見された反応ですが、会見では「賃金が過去最高にまで加速しているのに利下げを行った理由を説明して欲しい」と質す記者が現れています。同じ記者はかなり踏み込んでおり、「ECBは年後半の賃金低下を予測しているが、追加利下げに際してはその低下を確認する必要があるのか」とも重ねています。

これに対し、ラガルド総裁は「利下げを下す前にdeflationのリズムを確認することを期待していた」と認めた上で、最近の賃金の騰勢がドイツを筆頭とする一部の国の一時的要因(2021~23年に失われた購買力を取り戻すための一時的な協定)であり、2025年以降に持続性を持つような要因ではないとの分析に言及している。よって、「2024年末に向けて賃金が下がり、2025年には賃金が大幅に下がる」というのがECBのメインシナリオであり、だからこそ利下げ軌道に入ったことは正しいという基本姿勢を示しています

この点は1~3月期妥結賃金と同時公表されたECBブログにおけるスタッフ分析をなぞったコメントであり、過去のnoteでも見たように、これ自体に説得力は感じられます:

実際、下記データを見る限り、賃金低下予測の確度は高そうに思えます:

いずれにせよECBは今後の賃金低下にかなりの自信を持っており、今後は毎月発表されるHICPのサービス部分や求人広告の賃金、および3か月に1度公表される妥結賃金、そして年後半に公表開始が予告されているECB賃金トラッカーなどを踏まえながら、ECBの仮定を検証する作業がそのままECBウォッチの確度を高めることに繋がっていきそうである。

それにしても、ECBやFRBが「データ次第」を連呼することで市場が適時適切な織り込みを勝手に進めてくれるという展開を上手く活かしている一方、為替市場の動向に応じて情報発信を調整している感もある日銀の慌ただしさがどうしても目に付きます。金融政策運営が為替市場に注目されてしまった中銀の難しさを感じざるを得ないところです。

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