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大学発ベンチャーの多様な在り方:事業開発型の大学発ベンチャーを増やそう(前編)

「研究開発型」と「事業会社型」の大学発ベンチャー

新産業とイノベーションを生み出す担い手として、大学発ベンチャーは日本全国にある国立大学を中心に高等教育機関にとって重要事項となっている。それに伴い、行政や金融機関との連携も強化され、産学官連携で大学発ベンチャーの創出が推進されている。経済産業省の『大学発ベンチャー調査』によると、2018年度における大学発ベンチャーの数は2,278社に上り、2017年度と比べて185社増加するなど、数だけを見ても取り組みに対する力の入れ具合がわかる。

大学発ベンチャーとは、大学における研究成果を応用して事業を生み出すベンチャー企業の一形態だ。大学発ベンチャーの形態は多様で、意外な企業が元を糺せば大学発ベンチャーだったという例もある。例えば、事業を軌道に乗せて大企業化させたのは、1939年にスタンフォード大学のヒューレットとパッカードが同大学のターマン教授の支援を受けて設立ヒューレットパッカード社や1985年にUCサンディエゴ校教授ジェイコブスにより設立され、通信機器を開発したクアルコム社がある。また、大企業化を目指さず、研究開発の成果を事業売却することを志向した、いわゆる「研究開発型ベンチャー」と呼ばれる形態もある。(研究開発型を志向しない形態は、事業会社と呼ばれる)

大学発ベンチャーの比率で言うと、現状では「研究開発型ベンチャー」の割合が圧倒的に多く、理工学部や医学部が主な担い手となっている。そもそも大多数の大学教員は事業化を狙って研究をしているわけではないため、研究開発型ベンチャーに向いた研究をしている教員の数には限界がある。そのため、数が増えているとはいえ、大学発ベンチャーを創出する大学には偏りがある。大学発ベンチャーの約半数は、東京や関西などの大都市圏に拠点を持つ上位10校が占め、約1割強が東京大学から出ている。これらの大学は、都市部であることから起業のための支援体制(エコシステムと言い換えても良い)が整っており、理系学部の規模が大きいために研究開発型のベンチャーが生まれやすい土壌がある。反対に、地方都市や理系学部の弱い大学からは研究開発型のベンチャーを生み出しにくい。

大学発ベンチャーは都市部だけの重点施策として割り切れば現状でも問題ないが、実際には多大なリソースを割いて全国的に取り組まれている。もし、大学発ベンチャーを地方都市の大学でも増やし、活性化させるのことを目指すのであれば、研究開発型だけではなく、文系や芸術系の学部からも事業創出ができる事業会社型の大学発ベンチャーを同時に増やしていく必要があるだろう。

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事業開発型の大学発ベンチャー

事業開発型の大学発ベンチャーには決まった定義は存在しないが、『アントレプレナーの教科書』で著名なスティーブ・ブランク氏によるスタートアップ企業の定義を援用し、以下のように捉えることができるだろう。

「大学発ベンチャーとは、大学の研究成果を応用し、事業の反復性(Repeatable)と大規模化の可能性(Scalability)があるビジネスモデルを持った暫定的な組織である。」

一般的な企業との大きな違いは、「大学の研究成果を応用」するところと「暫定的な組織」であることだ。一般的な企業は、事業の源泉を大学に依拠する必要はない。また、持続可能な発展を目的とし、組織の存続が重要な経営指針となるが、ベンチャー企業は将来的に「ベンチャー」から脱すること(事業売却や事業を軌道に乗せて一般的な企業となること)を目的とするため「暫定的な組織」となる。加えて、この「暫定的」であることと「大規模化の可能性」を持つことが、ベンチャー企業とそれ以外の創業したての中小企業(Small business)との違いとなる。

研究開発型の場合、研究開発の結果として生まれた技術そのものが売り物になる。一方、事業会社型の場合は、一般的な企業と同じように商品やサービスを開発し、市場に届ける(デリバリーする)ことで営利活動を行う。例えば、細胞を活性化させる新しい酵素を開発し、その研究開発に対して資金調達をし、技術供与していくと研究開発型になる。それに対し、事業会社型の場合では、その酵素を活用して新商品開発を行ったり、素材メーカーとして製造販売していく。

事業開発型の場合、研究開発型とは異なってビジネスモデルが科学技術に依存しないため、多様な形態をとることが可能だ。米国では、経営学の知見を活かすためにコンサルティング会社を立ち上げたり、心理学の知見を応用した知育玩具メーカーを立ち上げることもある。アメフットなどの大学スポーツの事業化も、広義の大学発ベンチャーとしてみることができる。

このような事業開発型の大学発ベンチャーは、欧米諸国などの先進国だけではなく、アジアの新興国でも推進されている。例えば、インドネシアの東ジャワ州にあるブラウィジャヤ大学は、行政や地元企業と連携しながら、コーヒー農園の6次産業ビジネスを展開している。

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後編では、インドネシアのブラウィジャヤ大学で取り組んでいる大学発ベンチャーの6次産業ビジネスを展開しつつ、事業開発型の大学発ベンチャーについて考えてみたい。

(後編に続く)




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