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仕事を通して何をやりたいのかに向き合い、自分の幸せの軸を見つける。(村上臣氏×石田裕子氏×碇邦生氏出演 働き方innovationイベントレポート)

「ジョブ型雇用」という言葉が頻繁に聞かれるようになり、組織も個人もこれまでの制度や働き方を見直さなければならなくなりました。個人主義・成果主義の導入を積極的に進める企業がある一方で、ジョブ型雇用が日本の社会システムに馴染むのか?という懐疑的な声も聞かれます。

私たちはこの変化をどのように受け入れ、どう対応していけばよいのでしょうか。

自ら新しい働き方を実践し、現在はリンクトイン・ジャパンの代表として「日本の働き方改革に貢献する」日経COMEMO KOLの村上臣さん、サイバーエージェントの執行役員で人事を担当する石田裕子さん、採用を中心とした研究プロジェクトに従事し、現在は創造性とグローバル人材について研究するKOLの碇邦生さんの3名をゲストに迎え、日本経済新聞社の石塚由紀夫編集委員がファシリテーターを務めるオンラインイベント「働き方innovation 加速するジョブ型雇用社会に備える」を8月3日(月)に開催しました。

■はじめに

ー石塚編集委員
私自身は、最近のジョブ型雇用を導入しようとする動きについては、「前のめりすぎる」という印象なのですが、パネリストの皆さんはそれぞれどうお考えでしょうか?

ー碇さん
働き方が変わるのはいいことだと思いますが、「ジョブ型が良いのか?」ということについては、懐疑的なところももっています。

ー石田さん
サイバーエージェントの社内では「メンバーシップ型かジョブ型か?」という議論をしたことはありませんが、あえて言えば「ハイブリッド型」という、両方のいいとこ取りをするという考え方でやっています。

ー村上さん
メンバーシップ型とジョブ型という二元論ではなく、日本型雇用が制度疲労を起こしているので変えなければならないという事実がまずはあると思っています。それをどう変えるのかということについては、私は「日本型のジョブ型雇用」という形があるのではないかと思います。

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created by グラフィックレコーダー ちかこさん
グラフィックレコーダー/サービス企画に携わる会社員/一般社団法人Lean In Tokyo運営。ぱっと分かる、エモーショナルなグラレコが得意。

■コロナショックによる働き方の変化

ー石塚編集委員
今、ジョブ型雇用の議論が高まっているのは、コロナショックの影響があると思います。では、実際に企業はどう変わっているのか、どう変えていこうとしているのか、最初に碇さんに概要を説明していただきます。

ー碇さん

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コロナで「ジョブ型」が注目される中、様々な研究レポートが出ています。そのレポートによると、私たちの働き方は大きく6つの点で変わったと言われています。

・従業員のストレス増加
・組織のレジリエンスが現場のコミュニケーション障害を解消
・組織のレジリエンスがテレワークをうまく機能させる
・レジリエンスの高い組織は、そもそも対応準備が整っている
・トップの発信力とICT利用頻度が組織のレジリエンスを高める
・問題は同じでも、阻害要因は企業ごとに異なる

ここでは「組織レジリエンス」という言葉が重要なキーワードになっていますが、これは、不測の事態や危機に直面したときに、組織が迅速に復旧できる能力に関わるものです。日本語で言うと「頑健性・迅速性・統合性」のことです。

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柔軟性と似ていますが、柳のようにしなる強さではなく、その場でグッと踏ん張って瞬時にリカバリーできる力がレジリエンスです。

つまり、コロナ前から危機的状況に対する備えができていたところは、比較的スムーズにリモートワークの移行などもできているということです。

ー石塚編集委員
内閣府の調査によると今回「3人に1人がテレワークを経験した」ということで、これは昨年9月の数字8.4%から大幅に増えています。

その結果どうだったか?ということについては、半数が生産性は下がったと答えています。様々な問題がコロナで浮き彫りになったということではないかと思います。

ー石田さん
サイバーエージェントはコロナ前からテレワーク前提の会社ではありませんでしたが、かなりスムーズに移行できたと思います。一部の職種を除いては、リモートで十分成立することが今回わかりました。

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社員の声を集約すると、全社員のうち80%がリモートワークにポジティブで、目標が明確だったと答えています。そして「今まで以上にチャレンジができているか?」という問いにも、7割以上ができていると答えています。

ー村上さん
私個人は、普段からオフィスでテレワークをしていたので、まったく違和感はありませんでした。そもそも上司が日本にいませんし、仕事のパートナーも日本以外にいることが多いので、オフィスでテレビ会議をやっている状況でした。

リモートは慣れの問題もあると思います。リモートが業務の一部に組み込まれて、前提になっていたかどうかではないかと。これまでリモートが前提ではなかったところは、コロナでそれが大きく変わった。日本は初めて前提が大きく変わる経験をしたのだと思います。

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■メンバーシップ型とジョブ型雇用

ー石塚編集委員
「メンバーシップ型」は今までの日本の雇用スタイルで、会社に言われたことをやるというものですが、一方「ジョブ型」は欧米で主流の働き方で、どんな仕事をするのか、どのくらい責任を負うのか、どんな能力が必要かが、最初から明示されている働き方です。

ー村上さん
終身雇用や年功序列などの日本型雇用が壊れ始めている状況で、リモートワークに皆さんが不安を感じるのは、「リモートマネージメント」のようなことができていないからです。

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中間管理職のスキルのアップデートが、スムーズに移行ができるかどうかのカギを握っていると思います。

世界を見ても、ジョブ型雇用は国ごとにアップデートした歴史が違いますし、日本に適応できるジョブ型を今回の経験も踏まえて議論していくべきだと思います。

ー石田さん
私たちの会社では、ジョブ型に振り切ることに少し違和感を感じていて、その理由は、会社のカルチャーが「チーム主義」という点にあると思います。社内の人材流動性を高め、ジョブローテーションをして大きくなってきた会社なので、ジョブを固定しすぎると会社のいいところが失われるのではないかと。

「あなたの仕事はここからここまで」というところから、もう一段上に浮いているような仕事を、いい意味で取り合っていくような文化がありますし、そういう人を評価しています。

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ー碇さん
経営学の用語にはジョブ型・メンバーシップ型という言葉はありません。優れた会社が組織を作ろうとするとき、そのプロセスの中にこの議論は出てこないからです。石田さんが社内で議論したことがないというのも、まさにこれです。

なぜならこれは「労働法」の話で、組織がどうあるべきかという話とは別だからです。労働法はみんなをカバーできてセーフティーネットとして機能するためのものですから、組織が競争で勝つための話とは切り離す必要があります。

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【チャットのコメント】ジョブ型になると、キャリアやスキルありきになると思うのですが、新卒や未経験などからジョブ型で働くことが難しいように思います。

ー石塚編集委員
日本の大学は働くスキルを学ぶことを前提にしていないので、いきなりジョブ型が導入されたら、新卒や未経験者のスキルは誰がどのようにして磨くのでしょうか?

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ー村上さん
そもそもスキルは5年で陳腐化するといわれているので、5年に一度は自分をアップデートしなければなりません。だから、まずは自分でやることです。

それを、今までは会社任せだったわけですが、日本では学ぶことに対する会社からのサポートが少ないとは感じます。スキルをつけて戻ってきてくれれば会社も嬉しいはずですし、その環境を推進していくことで、日本の労働力は強くなっていくと思います。

ー石田さん
私たちの会社には新卒文化がありますが、その時点での能力よりも一緒に働きたい人を採用して、頑張って育てています。そのほうが会社全体の業績が上がっていくのではないかと考えているからです。

私たちの会社には「ミスマッチ制度」というものがありますが、これは、明らかにスキルミスマッチや価値観のミスマッチを起こしている人に対して、率直にミスマッチであることを伝えるものです。

無駄に会社に居続けることがないように、お互いにとってよい選択肢を考えていくということです。

【チャットのコメント】専門職、専門スキルが学べるような学校やスクールのようなものに通うようなスタイルも出てくるのではないかと思いました。

ー村上さん
「社員に投資をしてすぐに転職したらどうするんですか?」ということを言う人がいますが、逆に「何もしないでずっと居続けたらどうするんですか?」ということですよね。

その人に活躍してもらうことが会社にとってもその人にとってもいいことなので、そのためのサポートは惜しまずにやったほうがいいと思います。

ー碇さん
「育成」が人材を定着させるインセンティブとして使われることは、外資では多いと思います。この会社にいるとよりよい研修を受けられる、よりよいプロジェクトに入れるなど、個人のキャリアに有益なチャンスを常に与えることは定着につながります。

常に育成機会があるということを示すことが、優秀な人材を引き止めるには大事なのではないかと思います。

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■社員の働き方マネジメントのあり方

ー石塚編集委員
働き手からすると、意識的にキャリアの積み方や働き方を考えなければならない時代ですが、これらの変化に個人はどう備えていけばいいのでしょうか?

ー石田さん
私たちの会社では、エンジニアやクリエイターについては、スキルを明文化してそれに見合った報酬制度を設計しています。ただ、総合職に関してはまだ課題を抱えている状況です。

その中でも育成については強化をしていて、伸びている人には抜擢の機会をたくさんあげるなど、経験こそが成長機会だと捉えて、それを意識してやっています。

【チャットのコメント】高スキル、スペシャリストだけではない、ジョブ型での外部人材の採用・業務委託などが進んでいく必要があると思います。

ー碇さん
自分の働き方がこうなれば良くなる、という話ではなく、先に自分がどういう働き方をしたいのか、軸をもつことが大事です。

例えば、MITの卒業生を調査すると、キャリアで一番大事にしたいことは「家族や安定で仕事ではない」と答える人もたくさんいます。家族が大事で仕事はそこそこでいいという人にとって、メンバーシップ型はとてもいい働き方です。

自分は何をもって幸せなのかという軸を見つけて、それに応じて考えれば、ジョブ型とかメンバーシップ型という話ではなくなるはずです。

ー村上さん
今まではすべて会社にお任せで、新卒で会社に入ると定年まで面倒を見てもらえる、すべてを会社に預けてしまっているわけです。それを、一度取り戻す時期なのではないかと思います。

会社もどうなるかわからない、世の中もどうなるかわからない、その中で自分は何を大事にして生きていくのか、そのために仕事を通して何をやりたいのかに向き合うことで、必要なスキルや働き方が見えてくるはずです。

そして、働き方が多様化して半分は正社員ではない中で、社会保障制度は正社員に偏りすぎて特権化しています。これは国がやるべきことを企業に任せてしまっている面があるからで、これをフラットにしていく必要があります。

この2 つを同時にやっていく必要があると思います。

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■質疑応答

質問:優秀な人たちだけにしか関係のない話ではないでしょうか?

ー碇さん
どんな人でも自分の人生は自分でデザインしなければなりません。例えば、どうやってもジョブ型にできない仕事もありますが、それが社会には必要な仕事だったりもします。どんなポジションの人も幸せに働けるように、社会や企業や組織がデザインする必要があるということが、トップの人だけではないジョブ型の議論になるのではないかと思います。

質問:転職市場を活発化するためにはどうすればいいですか?

ー村上さん
先ほどミスマッチの話がありましたが、日本では特に強烈なミスマッチが起こっていて、これを滑らかにしていく必要があると思います。それぞれに合った仕事に就くチャンスを増やしていくという意味での人材流動化が必要です。今とは違う、かなりポジティブな意味で「次の職を探す」という転職になることだと思います。

ー石田さん
副業制度などが進むと、転職市場も活性化するのではないかと思います。自分のスキルや視野を外に広げる機会が増えれば、副業をやってみようとか、一度会社を出てみようとか、思えるようになるかもしれません。すると転職市場も活性化して、ジョブ型と副業がセットで進むのではないかと思います。

質問:企業の存在意義は変わるのでしょうか?

ー石塚編集委員
企業経営側からすると、自分たちは何を目的にし、何を達成したいのか、そのためにはどういう人材が必要か、その人材はどこから集めてくるのか、1つ1つ経営戦略を考えていかなければなりません。その変化に合わせて、働く側はいつでも声がかかるように自分を磨き続けること。それがメンバーシップ型でもジョブ型でも、幸せに働き続けていくために必要なことだと思います。


■登壇者プロフィール


村上臣さん
リンクトイン・ジャパン代表

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大学在学中に仲間とともにベンチャー企業、有限会社電脳隊を設立。2000年にその後統合した株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社が合併してヤフー株式会社入社。2006年ソフトバンク株式会社による買収に関連して、現ソフトバンクモバイル株式会社に出向。2011年にヤフー株式会社を退職後、2012年から若干36歳でヤフー株式会社の執行役員兼CMOに就任、モバイル事業の企画戦略を担当する。2017年11月に7億600万人が利用するビジネス特化型ネットワークのリンクトイン(LinkedIn)日本代表に就任。複数のスタートアップ企業で戦略・技術顧問を務める。


石田裕子さん
株式会社サイバーエージェント 執行役員
採用戦略本部 本部長

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新卒でサイバーエージェントに入社後、インターネット広告事業部門で営業局長・営業統括に就任後、スマートフォン向けAmebaのプロデューサーを経て、2013年に株式会社パシャオク代表取締役社長に就任。2014年、株式会社Woman&Crowdを設立し代表取締役社長に就任。2016年より執行役員に就任。採用戦略本部の本部長として人事を管轄する。


碇邦生さん
大分大学経済学部 経営システム学科
講師

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06年に立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部アジア太平洋マネジメント学科を卒業し、民間企業を経て神戸大学大学院へ、その後、リクルートワークス研究所にて主に採用を中心とした研究プロジェクトに従事し、17年12月より大分大学経済学部経営システム学科へ講師として赴任。


石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員

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1988年日本経済新聞社入社。女性活躍推進やシニア雇用といったダイバーシティ(人材の多様化)、働き方改革など企業の人事戦略を 30年以上にわたり、取材・執筆。 2015年法政大学大学院MBA(経営学修士)取得。女性面編集長を経て現職。著書に「資生堂インパクト」「味の素『残業ゼロ』改革」(ともに日本経済新聞出版社)など。日経電子版有料会員向けにニューズレター「Workstyle2030」を毎週執筆中。


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