日本企業の生産性が低いもうひとつの理由―シンクロニシティ(共時性)(中)
こんなコマーシャルを観た。アウトドアウエアの女性が登山するなか、パソコンを開き、仕事をする。そのワークスタイルはスマートだけど、リアリティはない。ビジネスの現場では、「忙しいとは思うけど、先ほど打合せした案件の資料を早くまとめといてくれ」と、常に仕事は動いている
いつどうなるか分からないのに、仕事をこなしながら、山の頂上にはなかなかたどり着けない。資料を作って上司に送っても、訂正や追記が入って、修正しなければならないときがある。にもかかわらず資料を送ったあと、パソコンを閉じて山を登っていて連絡がとれないでは、チームの仕事は滞る
1 日本の生産性が低い本当の理由
日本の会社は生産性が低い、IT化が遅れているので生産性が低いと言われている。コロナ禍を契機に本格化したテレワークで、さらに生産性が低くなっていると言われている。なにが起こっているのか?
テレワークとなることで、働く場所が分散するという「場所性」の弾力性に加えて、「時間性」の弾力性が認められた。しかしこのふたつの弾力性が成立するには必要十分条件がある。それには
シンクロニシティ(共時性)
が、担保されていないといけない。時間軸は、たとえば朝8時から夕方6時までがオンタイムだとしたら、その時間のなかで何をしていようともいいが、チームのメンバーで仕事を分担している場合は、チームメンバーからのオンタイムでの連絡に対しては、即座に対応しないといけないということ
現実は、そうなっていない。オンタイムに、仕事以外のことをしたり出かけたりしていて電話が伝わらないとか、今は手が離せないのでその仕事は今晩にしますといったことが、テレワークでおこっている。いくら夜に対応してもらっても、普通の生活をしている人にとれば、翌朝にしかその仕事のつづきができない。このように
チームの仕事のタイムラグ
が起こっている
なぜか?シンクロニシティ(共時性)が担保されていないのだ。場所は弾力的で自由でいい、時間も弾力的でいい。しかし弾力的であっても、シンクロニシティ(共時性)していないと、仕事は滞る
たとえ山を登っていたとしても、会社から電話がかかってきたら、即座にオンタイムになり、仕事をしないといけない。パソコンを閉じて、再度、山を登っていたとしても、5分後にまた電話がかかってきたら、またオンタイムになり、電話をとってパソコンを開いて対応するならいい。しかし、それが機能していない。これがテレワークで生産性が低くなった要因のひとつ
2 仕事の場所と時間
こんな仕事の経験をしたことはないだろうか?
新幹線に乗っていて携帯電話がかかってきた。座席を立ち、連結部で話をした。メールが来たら、即、対応した。これが、場所と時間が弾力的であるが、シンクロニシティ(共時性)が担保されている姿である
しかし、いま新幹線に乗っているので、東京に着いてから電話しますといわれて困ったことはないですか?いまは電車のなかだから電話に出られないのでメールでご用件を送ってくださいと言われてメールで要件を伝えたが、返信が一向にないという経験はないですか?
たしかにトンネル通過中などは電話の回線も悪かったり、車内が混んでいて話ができないこともある。しかし可能な限り、相手のオンタイムに迷惑をあたえないように、こちらもオンタイムとならないといけない。新幹線に乗っていようが、相手から電話がかかってきたら、即座にオンタイムとなり、要件に対応しないといけない
会社の就業時間中、基本は会社の席に座っていなくてはならなかった。テレワークになって、場所が弾力的となり、時間が弾力的となった。何かをしているときは、オンタイム。終わったら、オフタイム。仕事が来たら、またオンタイム
出社と同じく、テレワークであっても、弁当を買いに行っていたとしても、電話が鳴ったら出なければならない、山に登っていようが買い物をしていようが育児していようが、オンタイムにならないといけない。買い物が終わってからやりますというのは、新幹線が東京駅に着いてから電話しますというのと同じ。ところが、テレワークになって、一気に
シンクロニシティ(共時性)の
意識が薄れだしている
3 チームの仕事の場所と時間
いままで出社して帰社した間、会社が定めた就業時間を働いた対価として給料をいただいていた。その前提であった「会社にいるという場所性と固定された時間性」がテレワークで弾力的となった。そこが変わったのに、給料の考え方はまだかわっていない
そもそも給料とはなに?給料とは単純化すると、「仕事をする能力・スキル×就業時間数」となるが、時間は働いている時間であり、正確にいえば、その時間は
シンクロニシティ(共時性)を持った時間投入量
でなければならない。つまり、「夜やります」とか「明日までにやります」は、シンクロニシティ(共時性)となっていないこととなる。いくら仕事をする能力をもっていたとしてもシンクロニシティ(共時性)がなければ,
仕事の価値を生まない
そもそも給料を「仕事をする能力・実力×仕事をしている時間数」と考えがちであるが、チームメンバーの一人が「東京駅に着いたら、その返事をします。2時間後にします…」といったら、チームの他のメンバー数の2時間分の仕事をとめることになる。チーム全体の仕事に影響を及ぼす
つまり給料=「能力・スキル ・力量」×「シンクロニシティ(共時性)をもった時間」と考えるべき
4 さぼる日本人・先送りの文化
訊きたいときに返事があれば、即対応できる。しかし2時間後まで返事がないと、その間、チームの仕事はとまる。用事があって電話をしたら、いまは家の用事をしているので、それは夜にやりますって言われたら、用事があった人の仕事、チームの仕事は翌朝に遅れてしまう
オンタイムでのシンクロニシティ(共時性)をもったチームワークだったら、育児の手をとめてすぐ片付けます、では私はそれを受けてこれをしますと、仕事がつながる。チームで仕事をするとは、そういうこと。それがテレワークで、滞りだして
コロナ禍の3年間で
日本の生産性がさらに下がった
テレワークで、子どもの面倒を見ながら、仕事をすることもある。急ぎの仕事がないときは、別の仕事をしていることもある。しかし電話がかかってきたりメールがきたら、すぐその仕事の対応をする。本来、そうしないといけないが、コロナ禍以降、そうなっていないケースが増えている。なぜそうなるのか?
日本人は、だれも見ていないと、怠ける
日本人は、だれにも見られていないと、さぼる人が多い。休憩時間を長めにとったり、ネットサーフィンをしたり、仕事とは関係のないテレビや動画を観たり、ゲームをしたり、買い物に行ったり、業務開始時間と終了時間を誤魔かす
管理者は、そんな部下のさぼりを知っていても、黙認する。そんなことはちょっとぐらいいいか、電話をしてもつながらなくても仕方ないかと、部下にいい顔をする。そんなこんなの積み重ねが生産性を下げている。生産性だけではなくて、創造性もさげる
日本人は、ともすれば夜にしますとか、後でしますとかと、先送りする
日本の会議は、その場で決めない。決められない会議がもともと多かった。それが、オンライン会議となって、どこからでも参加できるようになり、コロナ禍以降に、会議の数がすごく増えた。対面会議のようなホワイトボードを使った目に見えたまとめ方をしなくなったため、結論がなかなか出にくく、オンライン設定時間が近づくと、じゃ次回に考えようと、と先送りすることが多くなった。このように会議は安易に、軽くなった
しかしテレワークやオンライン会議だから生産性が落ちただけではない。テレワークで、もともと日本人にあった
さぼる・先送り文化が
浮き彫りとなったともいえる
テレワークやオンライン会議は、これからも減るわけではない。むしろ増えていくだろう。では、その流れのなかで、どうしたらいいのかは、次回に考える。これも先送り文化か?
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