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「在宅勤務でコミュニケーションがとれない」は、そもそも人間関係の構築が疎かだったから? 前編

コロナウイルスの影響で、多くの企業や組織で働き方の見直しを迫られている。特にテレワークの導入が急速に進んでいる。不幸中の幸いは、直近5年ほどで働き方改革が叫ばれ、先進企業が既にテレワークを導入していたことだろう。先進企業のもつノウハウが公開され、個人ベースでも啓もう活動を行うことで、テレワーク導入のハードルは著しく下がった。

しかし、テレワーク導入のハードルが下がる一方で、運用面での課題の声が聞こえている。特に、コミュニケーションや協業の仕方を対面式から変える必要があるがものの、何が正解かがわからず、困惑していることが多い。

「上司や先輩が確認したいことがあると直ぐにコールをかけてきて、酷いときには毎分のように誰かしらからコールがあるので自分の仕事をやる暇がない」

「トイレで離席してチャットに気が付かないと、どこに行っていたんだと詰められる」

在宅勤務をし始めた企業の現場からは、このような声も聞かれる。

日経新聞での社説でも、テレワークだからこそ生まれるコミュニケーションのストレスが、顔が見えないことも相まって職場内の信頼関係を失することが危惧されている。下記リンク先の記事では、顔を合わせる時間が減る分、部課長ら組織のリーダーのマネジメント能力が問われると注意喚起する。

このようなトラブルは大企業だけの話ではない。中小企業でも同様の問題が発生するリスクを内包している。特に、中小企業の場合は、人間関係のトラブルがあったときに配置転換で問題解決するという大企業で良くみられる手段がとれず、失われた信頼関係を取り戻すことは難しい。

緊急事態宣言が全国に拡大される中、テレワーク下での協業の問題は日本全国の組織共通の課題となっている。ただでさえコロナウイルスの影響で生産性が落ちている中、テレワークの混乱で更に生産性を低下させてしまうと死活問題に繋がりかねない。

このような問題からテレワークでのコミュニケーションの取り方について、フォーマル・インフォーマルでの様々なノウハウやテクニックがインターネット上で共有されている。最近はやりの、オンライン飲み会もその手段の1つで、費用補助に乗り出す企業もある。

しかし、ここで1つの疑問が沸きあがる。テレワークで浮き彫りになったコミュニケーションの問題はテレワークだから起きたのだろうか?それとも、元々の人間関係のなさがテレワークが切っ掛けで問題が表出しただけではなかろうか?

そもそも、日本企業の多くの職場が「パワーハラスメント」「職場内いじめ」「サービス残業体質」「世界最低の幸福度」と人間関係に関する数多くの課題を抱えている。テレワーク以前の問題として、職場の人間関係の在り方から見直すことなくして、生産性の高い働き方を実現することは難しいだろう。


5か国比較からみるビジネスパーソンの人間関係

日本企業における職場内人間関係の在り方を知るのに良い調査報告書がある。リクルートワークス研究所は、日本・アメリカ・フランス・デンマーク・中国で働く約2500名を対象に、交流のある人間関係や個人と企業の交換関係について『5か国リレーション調査』を実施している。

本調査では、職場内の人間関係について興味深いデータが提示されている。特に、海外と比較することで、日本での働き方を客観視することができ、新しい働き方について考えるヒントを得ることができる。本稿では、以下の2つの論点から考察していきたい。

① 交流のある人間関係の5か国比較

② 人間関係の質の5か国比較


狭い世界で暮らしている日本のビジネスパーソン

5か国共通で見られる特徴として、7割以上の回答者が「家族・パートナー」と「勤務先の同僚」を交流のある人間関係として選んでいる。5割以上が選択したものは「親戚」「社会人になる前の友達」であり、これら4者が定番の人間関係と言えるだろう。仕事終わりに上司と飲みに行って、仕事や私生活の相談をするといった昔懐かしの人間関係は、世界的に絶滅危惧種なのだろう。5か国のビジネスパーソンの人間関係について、調査結果をまとめたのが下表だ。

交流のある人間関係

5か国を比較してみると、各国でばらつきがあることがわかる。5か国全体での回答割合と比べると全体以上の数値を出した項目数は、アメリカが最も多く、日本が最も少ない。特に、日本は「地域やボランティアの仲間」「勤務先の経営者」「労働組合」「政治家」との交流が他国と比べると著しく低い。

この結果からは、日本のビジネスパーソンに対して、職場と家族、プラスアルファとして学生時代の友人との交流があるだけで、社会人になってから新しく人間関係を作ることがないライフスタイルが見て取れる。


日本のビジネスパーソンが人間関係を広げる2つの方法

それでは、他国ではどのように社会人になってから新しく人間関係を作っているのだろうか。このことは、調査で質問されている15の人間関係のうち、5割を超えて「交流がある」と回答した項目をみることでうかがい知ることができる。 

日本と中国は5割以上の回答者が「交流がある」と答えたのは3項目しかなかったのに対し、フランスが5項目、デンマークが6項目、アメリカが5項目と倍に近い項目を上げている。

日本と比較した時、4か国共通で差を確認できたのは「親戚」との交流であり、家族・親族間でも日本のビジネスパーソンの交友関係の狭さが浮き彫りとなっている。また、欧米と比べると「一緒に学んだ仲間」と「以前の仕事仲間」に大きな差があることがわかる。

「一緒に学んだ仲間」とは、社会人になっても学び続けることで拡がる人間関係だ。日本のビジネスパーソンは、世界で最も能力開発に投資しないということが様々な調査メディアから指摘されている。社会人として学ぶためには、社外の勉強会やセミナーへの参加や専門職大学院への進学など、自分から進んで学びのコミュニティへ赴く必要がある。そのコミュニティでの出会いが、豊かな人間関係へと繋がる。

一方、「以前の仕事仲間」とは、退職してしまった会社の元同僚や同期が含まれる。退職した元従業員とも継続してネットワークを築いていくことの重要性は、アルムナイ・ネットワークとして近年注目を集めてきている。リクルートのように退職者と持続的な関係性を構築している企業は以前から存在したが、それはごく少数でしかなかった。多くの企業が退職者を裏切り者として捉え、縁が切れてしまうのが伝統的な日本企業のスタイルだったと言える。しかし、Uターン採用という言葉が出始めてきたように、退職した人材を「自社の事情をよく知る良き理解者」として捉え、活用しようという動きが出始めている。1社あたりの平均在籍年数が5年未満と短い傾向にあるアメリカやデンマークは、アルムナイ・ネットワークとして退職した元同僚・同期との関係性構築に積極的なことがデータから読み取れる。


小括

これまでみてきたように、日本のビジネスパーソンは欧米中と比べると、人間関係に多様性がないことがわかる。基本的には、家族や学生時代の友人などの社会人になる前の人間関係を重視し、社会人になってからの人間関係は主に会社の同僚のみだ。

しかし、なにもこのことを海外と比べて狭いから悪いと言うつもりはない。狭くも濃厚な人間関係で、日々の活力が沸き、困ったときには手助けをしてくれ、仕事のサポートもあり、キャリアへの新しい挑戦を応援してくれる。そのような関係性を構築できていれば、それは豊かな人間関係であると言って良いのではないだろうか。

後編では、ビジネスパーソンの人間関係の質に焦点を当ててみていきたい。

(後編に続く)

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