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自民党総裁選で白熱する「解雇規制」議論 今度こそ労働市場改革の本丸に切り込めるのか

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

自民党総裁選、つまり事実上次の日本の首相を決める重要な節目です。今月27日の投開票に向けて9人の候補者による討論会なども開かれ、論戦が熱を帯びています。

様々な論点があるなかで、わたしは特に「雇用・働き方」について注視しています。本コラムでも継続的に追ってきましたが、経済成長と人的資本の活用は深く結びついており、国際競争力のある人材を増やすことこそが今後の日本の命運を決めると考えています。特に戦後の日本を支えてきた日本型雇用システムが制度疲労が目立つようになり、抜本的な改革が急務です。しかしながら、雇用の安定という生活の基盤に直接影響のあることですから、当然メリット・デメリットが存在するわけであり、社会的コンセンサスを得ることは容易ではありません。話が「解雇規制」に及ぶと、懸念が噴出してきます。今回の総裁選でも小泉候補が解雇規制の緩和と口にしたところ反対意見が多く寄せられ、現在では「緩和ではなく見直し」と言い換えています。

「解雇規制の緩和ではなくて見直しだ。今までだったら解雇されてしまったところを、リスキリングと再就職支援で新たなところに移動しやすいようにしていく。非正規の人が正規として雇用されやすい社会をつくっていきたい」(9月14日、公開討論会)

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日本は世界一解雇が難しい国、と言われることがあります。ところがこれは事実ではなく、経済協力開発機構(OECD)の2019年調査によると、日本は37カ国の平均よりも正社員を解雇しやすい国です。不当解雇の解決金も国際的にみて高くありません。

また、解雇は社員の生活を驚かすことから、裁判所は配置転換や再教育を重視して解雇は認めない判断を重ねてきました。新卒一括採用から定年退職まで働いてもらうという、主に大企業が行ってきた「メンバーシップ型雇用」。この制度ではどんな職務につくのか、どこで働くのかといった社員の働き方の根幹まで「総合職」という名のもとに会社が一方的に決めてきました。だとすれば、解雇せずとも配置転換はできるだろう、と言われるのは当然の帰結です。よって、これは自縄自縛の面があるとも言えます。

一方、中小零細企業では解雇は日常的です。「産休を求めたら普通解雇」や「有休を申請したら普通解雇」なども実例としてあり、年間4500件ほどが労働局のあっせんや裁判所の労働審判に持ち込まれています。そのほとんどが解決金の支払いで終結しており、裁判にまでいくことはまれです。また、この裏側には恫喝に近い形で一方的に解雇されているなど、泣き寝入りのケースも多く隠れているでしょう。

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なぜ議論がこんなにも混線してしまうのかというと、そもそも根拠となる労働法には正社員を解雇できる条件が明記されているわけではないことが一因です。解雇権の乱用は許されないという「解雇権乱用法理」の個別事例が判例で積み重ねられてきただけで、実務上の線引きが不明確なため経営者としてもリスクが見通せず大胆な動きはできないというのが実情でしょう。「労働者を守るためにはそれでいいじゃないか」という意見もごもっともです。しかし、それにより企業の改革が進まずに競争力を失っていけば、最終的には企業ごと倒産という憂き目にあいます。そのときにはさらに大きなインパクトとなるわけですから、中長期の目線でみたときにどこで折り合いをつけるのかはより深い議論が必要だと思います。

河野候補はより踏み込んだ提起をしています。自民党としては9年越しの構想となる「解雇の金銭解決」策です。

解雇の金銭解決は裁判で労働者の不当解雇が認められた場合、本人が同意すれば金銭の支払いで労働契約を解消できる仕組みだ。労働者がもとの職場に復帰する以外の道を選択しやすく、企業も労働紛争の解決コストを予想しやすくなる。

制度を導入するドイツの場合、補償額を「勤続年数×月収×0.5」などと定め、年齢によってさらに上下させる。労働者の申し出が前提で、企業が一方的に解雇できるわけではない。

昭和女子大の八代尚宏特命教授(労働経済学)は「適切な補償金が必要になれば企業はみだりに解雇できず、必ずしも労働者は不利にならない」と説明する。

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解雇を巡る議論は個人の生活の安定に直結する重要なアジェンダですが、政治家からすればできれば避けて通りたい政策課題でしょう。しかしながら、少子高齢化により労働人口が急速に減っていく中で、国としてどう成長産業を見極め引き続き発展させていくべきなのか。そのためには、まさに「本丸」の議論を今後こそ深めていくことが重要であり、個人的にもそれを期待しています。

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タイトル画像提供:sun_po / PIXTA(ピクスタ)


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