自民党総裁選で白熱する「解雇規制」議論 今度こそ労働市場改革の本丸に切り込めるのか
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
自民党総裁選、つまり事実上次の日本の首相を決める重要な節目です。今月27日の投開票に向けて9人の候補者による討論会なども開かれ、論戦が熱を帯びています。
様々な論点があるなかで、わたしは特に「雇用・働き方」について注視しています。本コラムでも継続的に追ってきましたが、経済成長と人的資本の活用は深く結びついており、国際競争力のある人材を増やすことこそが今後の日本の命運を決めると考えています。特に戦後の日本を支えてきた日本型雇用システムが制度疲労が目立つようになり、抜本的な改革が急務です。しかしながら、雇用の安定という生活の基盤に直接影響のあることですから、当然メリット・デメリットが存在するわけであり、社会的コンセンサスを得ることは容易ではありません。話が「解雇規制」に及ぶと、懸念が噴出してきます。今回の総裁選でも小泉候補が解雇規制の緩和と口にしたところ反対意見が多く寄せられ、現在では「緩和ではなく見直し」と言い換えています。
日本は世界一解雇が難しい国、と言われることがあります。ところがこれは事実ではなく、経済協力開発機構(OECD)の2019年調査によると、日本は37カ国の平均よりも正社員を解雇しやすい国です。不当解雇の解決金も国際的にみて高くありません。
なぜ議論がこんなにも混線してしまうのかというと、そもそも根拠となる労働法には正社員を解雇できる条件が明記されているわけではないことが一因です。解雇権の乱用は許されないという「解雇権乱用法理」の個別事例が判例で積み重ねられてきただけで、実務上の線引きが不明確なため経営者としてもリスクが見通せず大胆な動きはできないというのが実情でしょう。「労働者を守るためにはそれでいいじゃないか」という意見もごもっともです。しかし、それにより企業の改革が進まずに競争力を失っていけば、最終的には企業ごと倒産という憂き目にあいます。そのときにはさらに大きなインパクトとなるわけですから、中長期の目線でみたときにどこで折り合いをつけるのかはより深い議論が必要だと思います。
河野候補はより踏み込んだ提起をしています。自民党としては9年越しの構想となる「解雇の金銭解決」策です。
解雇を巡る議論は個人の生活の安定に直結する重要なアジェンダですが、政治家からすればできれば避けて通りたい政策課題でしょう。しかしながら、少子高齢化により労働人口が急速に減っていく中で、国としてどう成長産業を見極め引き続き発展させていくべきなのか。そのためには、まさに「本丸」の議論を今後こそ深めていくことが重要であり、個人的にもそれを期待しています。
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タイトル画像提供:sun_po / PIXTA(ピクスタ)