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千葉の停電はなぜこれほど長期化したのか。我々はこの経験に何を学べばよいのか。

前回「台風15号の停電復旧はなぜ時間がかかっているのか」を書いてから、既に2週間経ちました。台風17号による風でまた被害が出ているようで、心が痛みます。被災された皆さんが1日も早く日常を取り戻せるよう心よりお祈り申しあげます。

 さて、改めて今回の停電はなぜこれほどまでに長期化したのでしょうか。メディアでもいろいろ報道されていますが、それを語るにはまず災害そのものとその後の対応についての丁寧な検証が必要です。災害復旧のさなかにあれこれ想像で言うより、検証作業の結果を待ちたいと思いますが、今回非常に特徴的な倒木の多さについて考えてみたいと思います。

<倒木の異常な多さと異様な折れ方>
メディア等でも繰り返し伝えられていますが、特に9月20日(金)にTBSの報道番組「ひるおび!」に出演させていただいたときの取材VTRに映し出された光景は異様ともいえるものでした。千葉県の山武市に多い山武杉(注:自治体の名前は「さんむし」と読みますが、杉の名前は「さんぶすぎ」と読みます)が、幹の途中から折れている様子が画面いっぱいに映し出されたのです。

画像1 私は以前、東京電力が所有する「尾瀬」の自然保護の活動を担当しており、ふもとの森の保全にも関わっていたので、少し森林の仕事をかじったことがあるのですが、幹の途中からこれほど多くの木が折れている光景は初めてでした(私の経験が浅いだけかもしれませんが)。台風によって風倒木が出ることはありますが、根から倒れるのが通常です。 林業ジャーナリストの田中さんが書いておられる通り、これは、スギ非赤枯性溝腐れ病に侵され芯が腐っていた山武杉が多く、森林そのものが不健康な状態であったためではないかと推測されています。 もし、倒木が多く現場に行くことすら難しい箇所が少なからずあり、それが復旧作業の進展を阻んだのであれば、あるいは、電柱や電線の多くがもともと不健康だった木が倒れる際に巻き込まれて損傷したとすると、莫大なコストをかけて電柱の強度そのものを上げたとしてどれほど効果があるのかが疑問だということになります。長期停電を経験して、電力設備の強靭化が議論されていますが、電力設備だけでなく、森林管理や街中の看板類などほかの設備の強度も見直さなければ、効果が限定的になる恐れがあるわけです。

<日本の森を巡る状況>
 森林管理を見直すといっても、それはもちろん簡単なことではありません。若者が森で働く楽しさに目覚め成長する過程を描いた映画“WOOD JOB!”のように、森に携わる若者も出てきてはいますが、総じていえば林業の就業人口は急速に減少しています。(↓林野庁ウェブサイトより)

林業

国産材の値段が下がり(平成24年の林野庁資料には「国産材丸太(スギ、ヒノキ)の価格は昭和55年をピークに下落傾向。」とあります)、きつさのわりに収入が確保されづらいともいわれているので、それも仕方のないことでしょう。年間30件前後も死亡事故が起きている、危険性もその要因かもしれません。
産業を支える人が減っている上に、国産材の値下がりにより、森にお金をかけない所有者が増えてきています。ましてや所有者自体がはっきりしない山林も多いのです(地方あるあるですが、所有者が亡くなっても登記簿上の手続きをしていないことが多い)。
電力会社も日常のパトロールの中で電柱や電線にかかりそうな木があると、所有者に連絡をして伐採の了解を取り付けてから、そうした木を伐ってはいるのですが、実は所有者に連絡が取れなかったり、取れても断られたりするケースも多いのです。
国や自治体などが所有する山林の手入れも予算カットで十分手入れされていないケースも多くあります。千葉の森は確かに、特産の山武杉が病害に弱かったこともあり、もともと森が不健康である度合いが高かったかもしれません。しかしながら、全国的に手入れされていない森は多く存在します。

<災害対応力向上には、災害の後の検証と検証に基づく改善が必要>
話を停電に戻します。停電が長期化した理由として現時点で明確に言えるのは、多くの電柱が倒れたことにあるということだけです。倒れた電柱の数すら正確にはわかっていません(数日前に経済産業省が推計値で約2000と出していました)。
菅原経済産業大臣が、今回の停電を受けて電柱の強度を見直すことを検討すると発言されたとの報道がありましたが、それはあくまで復旧後に行われる検証を待って判断されるということだと理解しています。実は、昨年の台風21号で長期停電を経験した関西電力の事例では、設備損傷の理由の9割が倒木や飛来物であったことが報告されています。同じように今回これほどの設備損傷がどのように発生したのかを検証しなければ、今後の対策の議論はできません。
電力供給の安定性はそれこそ命に関わりますので、電柱の強度を見直したり、地中化を進めることも含めて検討すべきだとは思います。ただ、それは必ずコスト増を伴います。莫大なコストをかければリスクは小さくはなりますが、ゼロにすることはできません。地中化は景観の点からもメリットはありますが、前回既に指摘した通り、コスト増につながることと、地下の設備が損傷した場合はコンクリートをはがす必要があるので、復旧に長い時間がかかります。
その上、多くの電柱が倒れた地域はこれから人口減少や過疎化していくと予想されています。送配電線にした投資の回収がただでさえ難しくなる中で、どこまでコストをかけられるかというのは重要な課題です。

<災害対応の検証も>
千葉の森林管理の問題のように、被害を拡大させた可能性のある事象も含めて、災害への備えが十分だったかを検証することも重要です。あわせて、発生した災害に適切に対応できたのかを検証することも重要です。毎年のように大きな台風の被害を受けている西日本地域とは違い、関東地方にこの規模の台風が勢力を保ったまま上陸するということは今まであまり例がありませんでした。東京電力も、千葉県も、政府いずれの対応も改善すべきところは多々あったことは間違いないでしょう。そうした悪さ加減をすべて洗い出して次に備える必要があります。
例えば今回問題になった倒木の処理ですが、電気設備から離れたところの倒木の処理は行政や自衛隊にお願いするところですが、電気設備に倒れ掛かったような倒木の処理は、例えば、まだ電気が通っている電線が木に巻き付いていたりすると、感電事故になる恐れがあるため、電力会社が安全確認を行わねばなりません。そのためそうした「かかり木」と言われるような木の伐採作業も電力会社が行っていました。この役割分担では電力会社の方たちが復旧作業に注力できないので、昨年の台風21号を経験した関西電力は今年4月4日に「災害時における停電復旧作業の連携等に関する協定」を和歌山県と結び、電力会社の安全確認をおこなった上で県に依頼し県が伐採することを可能にしたとのことです。今回の千葉での停電はこうした協定はありませんでしたが、現地(県内6カ所)と本社に、自衛隊と東京電力の共同調整所が設置されてから、連携がスムーズに進むようになったと伺いました。ただ、当初は役割分担を巡って混乱があったのであれば、こういうことを全国的に制度化しておくというのも一つの手でしょう。
また、民間企業同士の協力も重要です。今回全国から復旧作業の応援に駆け付けた電力会社の方たちが木更津のイオンの駐車場に集結している写真や動画が拡散されましたが、東京電力は以前からイオンと災害協定を締結して、災害時の駐車場提供や物資支援などで協力する仕組みを構築していたそうです。イオンさんは中部電力さんなどほかの電力会社ともこうした協定を結んでいるそうですが、消費者としてはとてもありがたいことだと思います。今回東京電力が電気自動車を60台(当初40台ほどから増加)ほど送り、停電地域の老人ホームや避難所の電力供給に役立てたそうですが、多くの自動車会社の支援があってのことだと思います。また、支社ごとに地域の企業と協定を結んでいる例もあります。こうしたことも事前にスキームを作っておくと、対応がよりスムーズになる可能性はあるでしょう。

繰り返しになりますが、災害対応力を上げるには、災害の後の検証が大事です。私たちも「この災害が自宅を襲ったら」という想像力を働かせ、改めて自宅の備えを考えてみたいと思います。

*写真はTBS「ひるおび!」の録画からいただきました。


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竹内 純子(国際環境経済研究所 理事・主席研究員)

温暖化・エネルギー政策の研究をしています。現実的な移行とサステナブルな未来を考えています。 国際環境経済研究所理事・主席研究員/筑波大学・関西大学客員教授/U3InnovationsLLC共同創業者・代表取締役。

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