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漫画とWebtoonから、アジア発のクリエイターエコノミーを考える。

Mintoの水野です。SNS・Web3領域で漫画・アニメ・キャラクターなどをクリエイターと共に創っています。前回に引き続き、クリエイターエコノミーの再設計とリブランディングについて、今回は漫画とWebtoonを中心に、考えていきたいと思います。

スマホ時代でも成長する漫画産業

2010年代は、スマートフォンの時代でした。そして、この10年間のスマートフォンの普及で、エンタメコンテンツを楽しむ媒体は、TVや雑誌からスマホへと、大きく移行しました。以下のグラフの通り、10代・20代にとっては、完全にスマホ(≒インターネット)が、メイン媒体です。

出典:情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査

スマホ以前の長い期間、日本でのコンテンツは、テレビ発のコンテンツ(ドラマ・アニメ・音楽・アニメ)と、週刊誌発のコンテンツ(漫画・文字)だったと思います。自宅で見るコンテンツはテレビ、移動中の隙間時間を埋めるコンテンツは週刊誌、という、コンテンツ摂取の習慣が数十年間。

そして、隙間時間を埋める週刊誌を軸にして成長した日本の漫画産業は、世界的に見ても似たような例がない、コンテンツのエコシステム(=結果、クリエイターエコノミーになっている)だと思っています。

●安価な週刊漫画雑誌が多数刊行
 =場があり、サイクル(週間)があり、読者がいる
●雑誌だけでなく、単行本による収益化
 =書店・出版社・作家に、安定した収益がもたらされる
●単行本だけでなく、アニメ、映画、グッズ、広告
 =作家・出版社だけでなく、様々な周辺事業者を巻き込んでいく
●スター作家がいる
 =大成功する作家(クリエイター)がいて、それを目指す。

このような漫画(コミック)のエコシステムの成立って世界中を見渡してもないんですよね。もちろん、大前提としては、読者が育つまでの長期間、主要な出版社による大先行投資時代もあったからこそ、という側面もあるかと思います。

スマホ普及によって、生活習慣が変わり、コンテンツ摂取習慣か変わり、テレビ発コンテンツは勢いを失いました。一方で同じく勢いを失った雑誌発のコンテンツであった漫画は、隙間時間埋めるコンテンツの特性から、スマホとの相性が良く、媒体の移行に成功しました。紙の雑誌部数は減りましたが、日本の漫画市場は伸び続けています。

「少年ジャンプ+」は、スマホアプリのダウンロード数が、既に2,200万回を超えており、週間アクティブユーザーはアプリだけで約450万人、ブラウザを加えると約630万を超えると言われています。また、海外展開においても2019年から「MANGA Plus by SHUEISHA」を多言語展開していて、こちらのダウンロード数も500万回以上超。盤石です。

ユーザー体験が変わり、制作方法が変わり、クリエイターエコノミーが変わる

日本独自のコンテンツ・エコシステムである漫画産業は、スマホ時代の生活習慣の変化に対応して、コンテンツ流通方法が変わり、引き続き市場成長していますが、コンテンツフォーマット自体や、制作体制、クリエイターの経済圏の構造には、大きな変化はありません。

そんな中、 スマートフォン時代に、新しいコンテンツ・フォーマットや制作方法/体制へ変化しているのが、Webtoonです。

Webtoonは、元々は2000年代に、韓国の漫画家が、Web上で自身の漫画作品をデジタルコミックとして発表していたものです。その後、Webtoonアプリ事業者(Naver、Kakaoグループ)が、PC、スマホの進化に合わせUIやUXを最適化させ、更にマーケティング&ブランディングをしたことで、韓国だけでなく、日本、中国、アジア、欧米などグローバルでも飛躍的に読者が増え、市場が急増しています。縦型だと海外向け翻訳の際に、コマ割りや吹き出しの再配置の必要がないので、グローバル展開もやりやすいんですよね。

フルカラー、縦スクロール型で、スマホ閲覧最適化され読みやすい。
「モブなのに過保護な公爵に溺愛されています」

コンテンツフォーマットの最適化は、ユーザーのニーズからです。時代やデバイスが変われば、ユーザーのニーズも変わります。フォーマットが変われば制作方法も変わります。縦型フルカラー漫画の週間連載を実現するために、Webtoon制作は通常の漫画制作とは異なり、完全分業での制作体制が一般的になっています。

出典:マンナビ /ソラジマ社の制作体制 より

新しいクリエイターエコノミーのヒント

制作方法が新しくなると、クリエイターの在り方や関わり方も変わってきます。従来の日本の漫画は、1人の漫画家の才能と制作力(質・スピード)に依存していました。一方でWebtoonでは、原作、キャラデザ、ネーム、線画、着彩、背景、仕上げなどを、スタジオが中心となり、分業で制作します。背景を3Dで制作して、他の作品でも使用できるようにアセット化されるなど、単純な分担作業ではなく制作方法もアップデートされています。

また、分業することで、原作に専念する個人クリエイターや、各工程ごとのスタジオ所属クリエイターとして働くなど、クリエイターの選択肢が広がっています。収入面でも、昨年の記事ですが、韓国のWebtoon連載作家の平均年収は8120万ウォン(約840万円)という情報もありますので、夢や希望を与える職種になりつつあるのかもしれません。

韓国の友人に聞くと、この数年間の間で、ソウルを中心にWebtoonの専門学校も増えているそうで、"自ら表に出てパフォーマンスしたタイプの若者"は、YouTuberを目指し、"自宅でインターネットしたり、制作したりするタイプの若者"は、Webtoonクリエイターを目指すという流れになっているようです。若者の夢に入ってきているのは大きいですよね。

Webtoon発で、Netflixでドラマ化された「梨泰院クラス」や、現在、アニプレックスがアニメ化を進めている「俺だけレベルアップな件」などが世界的な人気になっています。コンテンツがユーザーに支持され、ヒットクリエイターが生まれ、様々なクリエイターが参入し、クリエイターをサポートする事業が生まれ、新しいエコシステムが出来上がってきていますよね。

前回の記事にも書いた通り、クリエイターエコノミーは、スマホが普及し、SNSで個人のコンテンツ発信力が増した上で、新しく生み出されようとしている経済圏です。その視点だと、必ずしも、Webtoonのスタジオ型制作体制と個人中心のクリエイターエコノミーは、フィットしないかもしれません。ただ、日本でもアニメ制作の場合は、スタジオ型制作ですし、そこで働くクリエイターは、正社員だけでなく、個人クリエイターも多い。

クリエイターにとっては、個人でコンテンツを創って発信することも、スタジオに所属してコンテンツを創ることも、選択肢が増えること自体が良い事だと思いますし、自分の才能が最も発揮できる場所で、しっかり収益を稼ぐ事ができる事ができれば、もっとクリエイターを目指す人が増えるでしょう。それこそがあるべき、クリエイターエコノミーの姿。

改めて、日本と韓国の漫画/Webtoon経済圏についてまとめてみて、
・日本独自の漫画経済圏(アニメ・グッズなども含む)
・韓国発のWebtoon経済圏
・そこに、SNSコンテンツ経済圏
・そして、新しい収益手段としてのWeb3(NFT、トークン等)経済圏

これらが、重なっていくのが漫画コンテンツを中心としたクリエイターエコノミーの未来の姿だと思っています。(中国市場の取り込み方も+できれば尚良し)そして、この辺りを、新しくブランディングしていければ、アジア発のクリエイターエコノミーになりそうですよね。

ということで、日本流のクリエイターエコノミーを考えていたら、日本だけじゃなく、アジアのコンテンツ・クリエイター文化で、グローバルに向き合っても、全然良いよなと思うに至りました。

そんな備忘録。

そうそう、今回noteを書こうと思ったきっかけは下記のwebtoonの記事からでした。こちらもご覧あれ。


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