夏を越えても終わらなかった円安
結局、終わらなかった米利上げと円安
まだまだ猛暑が続いておりますが、早いもので夏が終わろうとしています。年初に支配的だったドル/円相場のシナリオは「早ければ3月、遅くとも5月にFRBの利上げは停止。夏を境に利下げ機運が高まり、これに伴って円高・ドル安が進む」といったものでした。少なくとも年末時点では夏に円高局面に突入しているという識者は多いものでした(というか筆者を除くほぼ全員でした):
現実はまだ利上げも円安も続いており、後者に至っては加速しています。直ぐに反転してしまったものの、8月には年初来高値である147円を遂に突破するという場面も見られました:
なお、「早ければ3月、遅くとも5月にFRBの利上げは停止」というFRBへの見通しは筆者も同様でしたが、「利上げ停止の直後に利下げが議論されるわけではない」というのが筆者の主張でもありました。よって23年中に米金利が円高のトリガーをひくという想定には否定的な立場でした。このあたりは過去のnoteでも執拗に投稿してきたので読者の方々は御認識かと思います。
現状の為替相場を見渡すと、「米金利低下と共に円高になるというシナリオが後ずれしているだけ」という論調はまだ多く、未だ「FRB頼み」の風潮は強いように簡易jます。しかし、そのようなシナリオメークは不安です。
円、ロシアルーブル、トルコリラ
確かに米金利と円相場の関係性に着目することで、円安相場の潮目を見極ることは可能でしょう。しかし、同時に、そうした米金利動向に依存した円相場見通しでは、「なぜここまで大幅な円安が進んでいるのか」という根本的な問いに答えられないと思います。図は主要通貨の対ドル変化率を見たものだ。円(▲11%)よ りも下落幅が大きい通貨はロシアルーブル(▲33%)とトルコリラ(▲42%)、そして図表が崩れるので掲載を控えたアルゼンチンペソ(▲97%)しかありません。ちなみにG7に所属する国・地域の通貨(英ポンド、ユーロ、カナダドル)はほぼ対ドルで横ばいか上昇しているので、日本という国の属性(先進国)を考えれば明らかに異質な立ち位置であることが分かります。しかも、この構図は2022年から続いています:
日本では円安の理由として「米国の利上げが長引いている」という事実が持ち出されやすいですが、そもそも今年はドル高ではないのでその説明は不十分です。この点も以下でお話しました:
むしろ、日本側の要因を主体として先行きを分析するのが普通の発想に思える。ちなみに円の実効相場の変化率を見ると、名目・実質の双方で年初来はもちろん、1ドル152円に迫った昨年10月と比較しても下落しています:
米国を含めた主要貿易相手国通貨に対して継続的かつ広範囲に売りが続いているというのが円相場の実情です。
~米国要因だけでかつての円高は難しい
日本側の要因を主体として先行きを分析した場合、行き着くところは日本だけマイナス金利であることや需給環境において外貨流出が大きくなっているという従前から言われている事実でしょう。いずれの理由を重く見るかという議論はあるものの、FRBが利上げを停止して、いずれ利下げ転換する動きがあったとしても、それで日銀がマイナス金利解除に至る理由はないし、もちろん貿易収支やサービス収支の赤字が小さくなったりする理由もありません。ゆえに円相場の現状や展望を検討する際、FRBの挙動は目先の方向感を多少規定することはあっても、「かつてのような円高に戻る」と主張するには材料として不十分だというのが筆者の認識です。言い方を変えると「米国要因だけでかつての円高を取り戻すのは難しい」という話です。「米金利主導で円高になったとしても、それでどこまで戻ってくれるんですか?」という問題意識でもあります。この点も過去に何度も強調して参りました。
FRBの政策運営の方向感(タカなのかハトなのか)といった論点、いわゆる日米金利差の拡大・縮小に応じて先行きを読もうとするアプローチは「円安のピークアウト時期」を特定するには有用かもしれません。変動為替相場ですから円高にはなるでしょう。しかし、「120~140円のレンジが常態化してしまったドル/円相場」もしくは実質実効為替相場に象徴される「安い日本」の背景を解き明かすにはさほど役に立たない材料というのも事実ではないかと感じます。日米金利差はシナリオの方向感を、需給環境は円相場の地力を規定する論点と考え、今後を展望したいと思っております。引き続き何卒宜しくお願いいたします。
[1] 例えば年初の本欄2023年1月5日号『FOMC議事要旨を受けて~23年利下げへの支持はゼロ~』をご参照下さい。