アップワークを使ってみて感じる国内外の差
日経MJの記事に、アップワーク(upwork)を利用して外国人相手に副業をする事例が紹介されていた。
確かに、円安が進行している現状では、ドル建てで報酬を受け取ることで、日本円に換算すると、感覚的には日本円の1.5倍近い報酬を得られることになる。さらに、日本国内では実質賃金が伸び悩んでおり、働くことへの対価が上がっていない。その上、高齢化と人口減が進行していることもあり、国全体として国民や企業の懐にあるお金が増えていくとは言い難い状況である。経済成長率も海外と比べてさほど高いとは言えない。
こうした中で、外国人相手に米ドル建ての仕事を請け負うというのは、一理ある選択だ。アップワークを見ていると、発注者によって価格設定は様々であるが、一般的には日本のクラウドソーシングサービスであるクラウドワークスやランサーズと比べて、同じような仕事でも単価が高めに設定されているものが多いように感じる。
また、発注者の所在国や発注者によって違いはあるものの、一般的に日本人よりも細かいことを気にせず、発注者と受注者が対等な関係で仕事を進められることも、アップワークの魅力だといえる。
もちろん、見ず知らずの相手と仕事をするため、仕事内容が期待していたものと異なる場合や、場合によっては詐欺に遭う可能性もある。この点については、アップワークも一種のC2Cビジネスであり(求人元には個人も含まれる)、特有の難しさを伴うことは過去のCOMEMOでも指摘した通りである。
ただ、こうしたC2Cの仕事にある程度の土地勘があり、自衛策を講じられる人であれば、このような仕事のチャンスは決して悪いものではない。記事にある通り、実績を積み上げ、高い評判を得た人であれば、仕事に応募しなくても発注者側から招待を受けることが可能になる。
反対に、アップワークで実績がない段階では、仕事を受注するのが難しいのかもしれないが、とりあえず試しに応募してみた。
日本語ネイティブ、もしくは日本語が得意な人を対象とした仕事も、思った以上に多く存在している。単価は仕事内容によってまちまちだが、調べた限りでは単純な翻訳の仕事が多く、ただし単価はさほど高くない。そして、その求人に対する応募者数も概数が表示されるが、求人が出てからそれほど時間が経たないうちに20~50人が応募している案件が多い印象を受けた。
一方で、単純な翻訳にとどまらず、対面でのコミュニケーションが求められる仕事や、アプリやソフトウェアの知識など語学以外のスキルが必要な仕事は、応募者が少なく、求人が出てから一定の時間が経った後も応募者5人以下の案件も珍しくない。このような仕事は、一般的に報酬が高めに設定されている傾向がある。
私の場合、これまでアップワークを使った経験がなかったため、実績もゼロである。また、翻訳に特化した実績があるわけではない。しかし、英語のスキル以外に、他の人があまり持っていないスキルが必要な仕事に応募したところ、夜のうちに応募を出して、翌日には求人元の企業から連絡が来た。アップワーク内のメッセンジャーを使ってやり取りを進めた後、オンラインミーティングを提案し、翌日にはオンラインで面談を実施。そこで英語力を確認された後、すぐに契約が決まった。小さな仕事とはいえ、応募から契約成立まで1日半もかからないというスピード感である。そして、契約成立後数時間以内には、必要なツールが国際宅配サービスで発送されるという迅速さにも驚かされた。
このようなスピード感で仕事を進める企業が、日本にどれほど存在するだろうか。この簡潔かつ迅速なプロセスには、改めて考えさせられた。
翻訳の仕事の求人では、「機械翻訳を使った翻訳は求めていない」という但し書きが必ずと言ってよいほど見られる。しかし、現実には基本の翻訳を機械翻訳で行い、その後に自分で手直しを加えるという手法が広く使われているのではないか、と考えられる。機械翻訳を利用したかどうかを発注者が完全に確認することは難しく、それが応募者の多さや報酬の低さにも繋がっているのではないだろうか。
このように考えると、単に英語の読み書きができるという能力は、もはや大きな価値を持つスキルではないのかもしれない。もちろん、英語が全くできないよりはアドバンテージがあるが、それよりも重要なのは、対面でのコミュニケーション能力や、臨機応変なアウトプット能力である。たとえば、会話をもとに指定された書式やソフトウェアに適切に入力する能力といった「語学プラスアルファ」のスキルが求められている。これらは、少なくても今のところ、引き続き相対的に希少価値があり、競争率も低いので受注確率も高く、報酬も高く設定される傾向にあるようだ。
外貨を稼ぐ、日本円よりも強い通貨である米ドルで報酬を得るという考え方は、発展途上国のビジネスモデルに似ている。アップワークの日本語関連の仕事は、すでに途上国型のビジネスと言えるのかもしれない。ただし、発展途上国は今後右肩上がりの経済成長が期待される一方、日本の場合は人口減少や経済力の低下による下り坂にある。この流れは今後も加速する可能性が高い。
別の言い方をすれば、国内だけで日本語を使って仕事をしていては、同じ内容の仕事でも稼ぎが少なくなるという現実があるのだ。これについては、以前にも指摘した。
AIや機械翻訳の急速な進化により、「語学を学ぶ必要はない」という考え方をする人も広がりつつある。特に、単純な読み書きレベルの能力においては、その通りかもしれない。しかし、対面でのコミュニケーションや、話す・聞く能力、さらにはそれを基に英語でアウトプットする能力に関しては、AIや機械翻訳だけではまだまだ限界がある。中長期的にはどうなるか分からないが、現状これらは依然として人間に求められる重要なスキルであり、アップワークの求人状況を見てもその必要性を再確認できる。
このような状況下で英語を学ばないという選択肢を取るのか、またC2Cのサービスを利用しないという選択をするのかによって、日本人がどのように稼げるか、その選択肢の幅は大きく変わる。そして、それをどう考え、どの道を選ぶかは個人に委ねられている。
こうした、フリーランスのギグワークなどと呼ばれる働き方は、諸外国では市民権を得つつあり、その保護法制も進んでいる。一方、日本ではこうした働き方への認知度がまだまだ低く、その保護を進める動きも鈍い。C2Cビジネスの難しさについて以前に触れたとおり、外国人が日本人に支払おうとするお金を取り逃している現状や、こうした収入を得る働き方を法的に保護しようとしない姿勢は、日本全体にとって大きな損失であると言える。
この状況に、日本全体としていつ気がつき、どう動き出すのかは大きな課題だ。日本版ライドシェアのように10年もの時間がかかるのだろうか。アップワークを通じた経験から、日本のビジネスや社会の動きはもっとスピードアップしなければならないと痛感した。世界の動きに取り残されることの損失とリスクは、もはや無視できない。