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「管理職になりたい」を生み出す6つの工夫。管理職の魅力を高めて次世代の経営人材を育成する。

皆さん、こんにちは。今回は「管理職の創出」について書かせていただきます。

「管理職になりたくない」「自分が向いているとは思えない」と尻込みをする社員はまだまだ一定数存在します。業務量が増えるばかりか、求められる責任が重くなり、プレッシャーもストレスも今まで以上にかかるくらいなら、もっと自分らしく、好きなことややりたい仕事を追求していく方が良いと考える人が多いのも頷けます。

部下の勤務管理や評価、上層部への報告、担当事業の成長――。管理職は仕事量が多く、日々会議に追われ、残業は当たり前といったイメージが強い。一般社員約1100人を対象にした日本能率協会マネジメントセンターの調査(23年4月)では、7割以上が「管理職になりたくない」と答えている。

一方で、米証券取引委員会(SEC)による、人的資本をめぐる情報開示のルール改正の動き(人件費のうち、事業活動や生産性の維持に要する労働コストと、企業価値をこの先生みだしていくための人的資本投資を分けて開示させる動き)も出ており、投資家からは企業価値向上につながる人材投資が求められていることも明らかです。

会社の次世代を担っていく優秀な人材を育てるには、まずは管理職の魅力を高め、管理職としての様々な経験を経て大きく成長してもらうことが不可欠です。
管理職というポストが忌避される今の状態を変えていくためには、どのような工夫が各企業に求められているのでしょうか。具体的に考えていきます。


■管理職になりたくない理由

若手社員が管理職になりたく理由は様々ですが、一言で言うと「管理職が魅力的ではない」からです。周りの管理職が楽しそうに仕事をしているようには見えず、管理職になることの意義ややりがいが見出せないから、目指そうと思えないのです。

【管理職になりたくない主な理由】

  • 責任の重い仕事をしたくない

  • 業務負荷が高まる

  • 面倒な調整業務などが増える

  • 報酬面のメリットが少ない

  • マネジメントの仕事(人材育成など)に興味がない

  • 上司と部下の板挟みになる

  • 周囲の管理職が仕事を楽しんでいない

  • 自分には管理職は向いていない

  • 現場(プレイヤー)としての仕事の方が面白い

  • 自分の専門性を磨いていきたい

  • 自分のやりたい仕事がしたい

ただし、本音で「管理職になりたくない」と思っていないケースも紛れています。(たとえば、「本当はなりたいが自分が目指していることを悟られたくない」、「なれそうにないからとりあえずなりたくないと言っている」など)

管理職になるメリットは、

  • マネジメント能力を身に着けることができる

  • より大きな影響力を周囲に及ぼすことができる

  • 仕事の幅や裁量権が広がり、自分のやりたいことができる

  • 責任の範囲が広がり、大きな仕事にチャレンジできる

  • 成長実感を得られる

  • 能力や適性を生かすことができる

  • 現場の仕事とは違う面白さがある

  • 部下の育成による醍醐味を実感できる

  • 社内外からの評価を得られる

などが挙げられますが、上記のようなメリットがデメリットを上回っていない限り、管理職が魅力的なポジション、役割であると思える人は増えないでしょう。

記事の中にあった通り、「7割以上が管理職になりたくない」という結果になっているということは、

  • 働き方や社員の価値観の多様化によって、部下の育成や業務フォローの難易度が上がっている

  • 短期的な成果と中長期的な成果がどちらも求められることで疲弊することが目に見えている

  • 管理職とそうでない人の賃金ギャップが縮まっていて見返りが少ない

など、デメリットに目を向ける人の方が圧倒的に多いということだと思います。ですが、管理職の仕事を通して、

  • 自分の管轄するチームが大きな成果を出せた

  • 部下の成長を実感できた

  • 部下から感謝された

  • 管理職としての自分の成果が会社や顧客から認められた

  • 自分の専門知識やスキル、経験がチームの成果や成長に結びついた

など、一プレイヤーとして出せる成果や実績以上に、チームを指揮・統括し、多くの人を巻き込む分、より大きな成果を残せることに、喜びややりがいを感じることは多々あると思います。

管理職が自分の言葉でマネジメントの仕事の魅力を伝えたり、何より管理職が仕事を楽しんでいる姿を見せることで、「管理職なんてとんでもない」と思っている若手社員の気持ちに変化を与えることができるのではないでしょうか。


■管理職に前向きな気持ちを生み出す工夫とは

実際の現場においては、もともとは管理職になりたくなかった人が、昇進後に管理職の仕事に対して前向きになれるケースも確実に存在します。

  1. 理想とする管理職が身近にいる

  2. 管理職の仕事や役割について、正しく理解できる機会がある

  3. 管理職の仕事に近い、疑似的な経験を積む機会がある

  4. 活躍している管理職の事例を知る機会がある

  5. 自分自身に管理職の適性があるかを知る機会がある

というような機会を作ることで、「やりたくない」という気持ちから、前向きに選択肢の一つとして捉えることができるようになります。挑戦意欲を刺激するには、何かちょっとしたきっかけさえあれば、実は十分なのです。

具体的に企業ができる工夫ポイントを挙げてみます。
 
①期待を十分伝える
若い時に「あなたは将来の幹部候補である」というような、経営層や上司からの期待を明確に伝えられてきていない人は、いざ管理職に登用される可能性が出てきた時に「まさか自分が」「自分には無理」と尻込みをしてしまいがちです。将来の自分の姿やキャリアの選択肢を想像さえしていない中で、管理職になった自分をイメージできるはずもありません。不安な気持ちを払拭するためにも、日頃から期待を十分伝えることを意識的に行うべきではないかと思います。また、直属の上司だけにそのような役割を丸投げするのではなく、さらに一つ上の責任者クラスや別部署の管理職からも、個々の活躍状況や強みを共有し、全方位的に期待値をしっかり伝えていくことも大事です。

②成功体験を通じて自信をつけてもらう
「もし失敗したら」「もしできなかったら」と、挑戦する前から不安を口にしたり、失敗した時にどうなるのかを考え、思い切った行動に移せない人は意外と多いです。「理想とする管理職のロールモデルがいない」という言葉を聞く機会はどの企業でも多いかもしれませんが、足りないのは“ロールモデル”ではなく、自分自身が管理職として成果を残していけるという“自信”です。プレマネジメント経験を通して、管理職に向けた業務を疑似体験し、成功体験を積み重ねていけるようにサポートしていくことが有効です。

③経営課題に対して、明確な問題意識を持つ場面を増やす
単に年齢や経験を重ねただけで管理職になれるわけではなく、会社や組織が抱える課題に対して問題意識を持ち、自ら率先して改革に向けて行動できる人こそが管理職候補になっていきます。「自分なら今の組織をこうしていく」という強い気持ちを持てるような場、考えられる場、そしてそれを行動に移せる場を仕組みとして構築する必要があります。

④管理職の仕事の醍醐味を体感できる機会を創出する
管理職の中には、「会社のビジョンの実現や業績拡大に貢献できる成果をチームで最大化していくこと」にやりがいを感じる人もいれば、「部下となる若い社員を成長させていくこと」にやりがいを感じる人もいます。何が自分にとって大事にしたいことで、管理職の仕事の中でどのような部分が働きがいにつながるのかが明文化できていない場合には、そこに向き合う必要があると思います。前述した通り、今の管理職が自分の言葉でマネジメントの仕事の魅力を部下にしっかり伝えていかない限り、「管理職になること自体が罰ゲームのよう」と思われていることを忘れてはいけません。そして、管理職候補となる人材が、現管理職と一緒に仕事の醍醐味を体感できる機会を上手に作っていくことも重要です。

⑤ストレッチアサインメントにより、可能性を引き出す
上司が勝手に本人に意思確認をせずに「まだこの仕事は難しいだろう」「本人はやりたくないだろう」とせっかくの大きな挑戦機会をつぶしてしまうこともよく起こる事象です。まずは、本人の強みなどを具体的に言語化しながら、チャレンジへの意思を問い、任せて伸ばすことを徹底していくことが重要です。その際、ストレッチゾーンの見極めを誤り、不安やストレスが募ってしまう領域にまでアサインメントのレベルを高めてしまうと、管理職への挑戦を躊躇してしまうなど、可能性を狭め逆効果になってしまうので注意しなければなりません。

⑥周囲がキャリア形成を後押しする状態を作る
→たとえば、こちらの記事には、

夫婦共働きのキャリアを志向する人が増える中で、キャリア形成を自分だけではなく夫婦で考える動きが広がってきた。夫婦間のキャリアについての話し合いが女性の昇進意欲とも関係するとの調査結果も出ており、人材育成の一環として経営学の研究者や企業からの注目が集まっている。

とあります。自分が望むキャリア形成をしていく上では、キャリアを自分一人のものではなく、家族や周囲のサポートによって高めていくという考え方もうまく取り入れていく必要があります。男女問わず、子育てや家事をしながら、仕事にも全力を注ぎ、責任が重い仕事に挑戦することは簡単なことではありません。自分が将来、どのような状態になっていることが理想なのか、それを実現するためには何をどのように変えていかなければならないのかという“問い”に向き合い、家族、パートナー、上司、同僚などと話し合い、理想を実現するための合意形成をしていくことは重要な要素ではないかと思います。

■これからの時代の管理職の役割とは

管理職の仕事は、会社や組織のパーパスを実現するために(つまり、社会においてどのような役割を果たしていくのか)、どのようなビジョンを描き、どのように戦略をデザインし、どのように実行していくのかを考え、達成に向けてアクションプランを遂行していく役割です。

  • チームの目標やゴール設定

  • 戦略設計

  • 戦略実行のための意思決定

  • プロジェクト管理や業務管理

  • 人事評価や査定

  • 部下の育成やキャリア支援

  • 組織課題の解決や有事の際のトラブル対応

など管理職の役割は多岐に渡りますが、戦略実行におけるプロセスの中で、人や組織を動かしながら「成果を創出すること」、そして部下となる人材を「育成していくこと」がシンプルで最も重要な役割です。

さらに、これからの時代における管理職は、経営課題や組織課題を解決するために何をすべきか定め、価値を生むための仕事を創り出し、自らの意思と責任で現場を改革しながら企業価値向上に貢献する存在とならなければなりません

また、これまでの「管理職が決めたことを現場が粛々と実行していく」というマネジメントスタイルにも限界がきており、チームの“個”を生かし、社員一人ひとりが柔軟に知識や経験を共有しながら共創型で価値を生み出していくマネジメントスタイルへと変化を遂げていかなければならない時代にもなっています。

以前こちらの記事にも書きましたが、職場の多様性や複雑性が増している今、放っておけば管理職の役割は不明瞭、かつ突発的なものになり続けていきます。管理職が何をする人で、どのような役割を担う人なのか、改めて解像度高く明文化し、誰が見ても明確な役割を定義する必要があるのではないかと思います。

管理職になりたての人が陥りやすいワナとして、管理職になった途端、急に「偉くなった」「権力を手にした」と勘違いし、役職や肩書きを持ったことで「地位」や「名誉」の称号を受けたように錯覚してしまう人も残念ながら少なくありません本来、管理職は「ジョブ」であり「役割」です。その時の組織にとって必要な要素を満たす人材が、“役割”としてマネジメントを行う、という理解が正しいのです。

新しく管理職に挑戦する人を増やす過程において、管理職になるとはどういうことなのかに真摯に向き合い、これからどのようなスタンスで自分の仕事や責務を遂行していくべきか、覚悟を持って管理職としての仕事に取り組むことの重要性は増していくばかりです。
 
これまで述べてきた通り、企業にとって、管理職は非常に重要なポジションであり、優秀な管理職がいるかどうかが、組織の生産性や業績に大きな影響を与えます。管理職が本来果たすべき役割を全うしていかなければ、企業活動の存続すら危ぶまれ、業績にも悪影響が出てしまうことは明白です。
 
だからこそ、多くの人が「管理職になりたくない」という状況を回避し、企業の中核を担う人材を適切に確保・育成していくことは極めて重要なことです。管理職候補となる人材に、管理職の魅力を正しく伝え、目指したいと思える“役職・役割”として機能させるような取り組みが、これまで以上に求められています


#日経COMEMO #NIKKEI


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