転職先の上司と、転職元の上司で「私の引き渡し会」をやった話。
「会わせたい人がいるんです」
電通の上司にそう伝えたのは、およそ半年前のこと。
その3ヶ月後に、私は退社した。
「会わせたい人」とは転職先の上司。つまり私の今の上司にあたる人だ。
まるで両家が初めて顔を合わせる結納のような当時のやりとりのことを、少しだけ書いてみようと思う。
今日はそんな話。
◾️転職先を転職元に紹介するか
転職する際、転職先の上司と今の上司を会わせることは一般的だろうか。
事例を調べたが中々出てこないので、AIに聞いてみた。
どうやら私の行動は一般的ではなかったらしい。
Web上の転職相談を見ると「転職先を現在の上司に言いたくない」など、真逆の事例の方が多かった。
現在の社会では転職の際にエージェントが間に入ることが多く、それも要因の1つかもしれない。転職元と転職先、その板挟みに関する悩みは加速する転職市場で増えていくだろう。
ただ私の場合、その2社に「会ってもらうこと」は自然な流れだった。
そもそも私の転職はエージェント経由ではない。つまり誰かに薦められたわけではなく、自分で決めたことだ。
しかも電通から酒屋という異例の転職でもあった。
だからその理由や経緯をきちんと当時の上司に説明する必要があったし、「会ってもらうこと」が1番の説明になると思った。
私の申し出に両社の上司は快く応じてくれて、浜松町のおでん屋でその会は決行された。
◾️大企業と中小企業の優秀
両家顔合わせは妙な空気ではじまった。
そりゃそうだ。
「小島が言うから来てはみたものの、どんな気持ちで会ったらいいのか」
と両上司が思っていたはずだ。
乾杯をして、お互いの会社紹介や自己紹介を経て、口火を切ったのは、電通の上司だった。
確かこんな切り口だったと思う。
「小島は優秀な社員で、たくさん売上もあった。そんな小島がいなくなるのは、正直部長としては痛い。」
そんな話を、電通の上司はしてくれた。
これが転職先への嫌味や牽制ではなく、私への「はなむけの言葉」だったことは明らかだった。
私はふと結婚式の際に、当時の上司が(当時の)奥さんの家族に向かって「小島くんは優秀な社員で」と恒例の挨拶をしてくれたことを思い出した。
しかしこれは前置きに過ぎなくて、本当に伝えたかったことはこの後にあった気がする。
当時の上司は、こう続けた。
・確かに小島は優秀な社員だった
・でもそれは電通という大企業での話
・規模も業態も違う会社で小島が活躍できるかはわからない
・ただそれも小島にとってはいい経験になると思う
そんな話だった。
最後に、電通の上司はこうオチをつけた。
まさかのクーリングオフ(返品可能)宣言だった。
場は笑いに包まれて、「小島さん、引き継ぎますね」と会はいい雰囲気で締まった。
帰り道に「なんか小島がIMADEYA(酒屋)に転職したくなったのもわかる気がするよ」と声をかけられた。
よかった。ちゃんと伝わった。と安心した。
「小島くんはいい上司の元にいたんだなぁ、と思ったよ」
転職先の上司はその後、当時のエピソードをこう振り返っている。
◾️まずはちゃんと機能すること
あの会合を経て転職して、4ヶ月が経った。
当時の上司が言ったように、実際に転職してみると、これまでの常識が通じないことばかりだ。
これまでの当たり前は当たり前じゃないし、(これまでの)当たり前じゃないことが普通だったりする。
その中で制度を整え、数字を追いかけ、電通で優秀だと言ってもらえていたアイデアや企画力を発揮できる場面は正直まだ少ない。
「外注できる」なんて場面もほとんどなく、内省で自分も手を動かすことが圧倒的に増えた(から時間が足りない)。
「酒屋の小島さんとしても優秀」とは、口が裂けても言えない状況だ。
予想通り、ちゃんとあがいている。
まずはちゃんと一人前に機能すること。
どこまでやれるかわからないが、不良品として返品されるわけにはいかないのだ。