見出し画像

「お祈りすれば雨は降らない」と同じことを言う人たち

ファクトを読み解く時に一番害悪なものは自分の先入観と主義主張と利害勘定。「こういうことを言いたい」という結論が先にありきでデータを見ると、まさにシーザーの言う通り「人間は見たいものしか見ない」のであり、それはもうファクトではなく、それを呼んだ人間の心の投影でしかない。

少子化に関するニュースでも、その新聞が主張したいことを言ってくれる大学教授ばかり取材するわけだから、もうそれって「あなたの感想ですよね」という話でしかなくなる。

それをメディアがわざとやっている場合は印象操作であり、フェイクニュースになるので気を付けるべきだ。もし、無知でやっているなら勉強すべきだ。

ある界隈が盛んに吹聴するものの中に「女性の就業率があがれば出生率は増える」というのがある。それについては過去記事においても真っ向から否定しているのだが、未だにそうした論が大手を振って渡り歩いている。由々しき問題だと思う。

最近では、外国のデータをもってきて、「ほら、OECD諸国ではこうなのに、日本は全然ダメでしょ」という結論を言いたいがためのデータのご解釈が多い。女性の25-34歳の就業率が高ければ出生率が高いといいたいらしい。

結論からいえば、25-34歳の女性の就業率と出生率との間には相関はない。数字的には相関のある国もある。出羽守が好きなフランスとか。しかし、だからといって「女性の就業率をあげれば出生率があがる」なんて因果推論にしてはいけない。

相関による因果推論が許されるならば、日本や韓国、台湾など東アジアは訴状に強い負の相関がある。その間違った理屈によれば「女性の就業率があげれば出生率は減る」といわなければならない。

アジアだけではない。アメリカだって、別に女性の就業率と出生率の相関はむしろ負の相関である。

1990年から2021年までの双方の相関をまとめたものが以下である。

勘違いしないでいただきたいのは、別に「女性の就業率があがったから出生率が下がったのだ」なんて間違い解釈を主張したいのではない。それは因果として語ってはいけないのである。むしろ因果としていうのであれば、出生率が下がったために結果として女性の就業率が高くなっているのである。

それでも納得しない人のためにファクトを提示するが、もし25-34歳女性の就業率が高ければ出生率が高くなるというなら、なぜ、スペインは就業率82%で出生率は日本より低い1.23しかないのか、フィンランドも同78%で、1.37しかないのか、タイも同80%で1.34、出生の多そうなジャマイカですら就業率80%もあるのに出生率は1.36しかない(いずれも2021年実績)。

国によって違うというなら、欧州のどこかの国が就業率と出生率の相関があるからといって、何も日本がそれと同じように見習う必要もなければ、見習ったところで出生率があがるなんて言えない。意味のない話となる。

そして、同時に忘れてはならないのは、かつて農業国であった日本も韓国も台湾も女性の就業率はほぼ100%で、出生率も高かった、しかし、これは、就業率が高いから出生率が高かったわけではない。

なんどもいうように、出生率が低下するのは乳幼児死亡率が低下すれば自動的に下がるためである。言い方をかえれば、出生率の高い国とはいまだに乳幼児死亡率が高く、生まれてきた子どもが死んでしまうから新たな子を産むのである。多死だから多産するのだ。

日本でさえ、戦後の第一次ベビーブームの頃の乳幼児死亡率は行くのアフリカ諸国並みに高かったのだ。

女性の就業率をあげようが、子育て支援の予算を増やそうが、出生率は低下する。まずこの事実をちゃんと認めよう。韓国や台湾のように1.0を急激に割り込むのはさすがに危険領域だとは思ので、1.4-1.5くらいはキープしたいところだが、だとしてもアフリカや中東を除く先進諸国の出生率は最終的にはそれくらいになってしまう。言い換えれば、絶対に2.0の出生率などは2100年までは実現しない。

なんか鉛筆なめなめした稚拙な机上の空論で「子育て支援をこれだけ充実させれば出生率2.0は可能」とか言ってる大学准教授とかいるのだが、もう大間違いだし、大ウソつきだし、害悪なんでやめてもらいたい。

日本の人口も2100年には半分になるし、中国でさえ7億人と半減する。やがてインドもそうなる。次はアフリカ諸国もそうなる。それは、明日の天気予報で雨100%と同じくらいの精度である。雨が降るなら傘を用意しないといけない。そんな当たり前のことを放棄して、「お祈りすれば雨は降らない」と同等のことをいう輩の言葉に惑わされてはいけない。

こういう記事、やめてほしいものである。婚外子が増えれば出生率があがるなんてのも間違い解釈。


いいなと思ったら応援しよう!

荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。