「人との出会いは無駄にできないもの」ー【COMEMO KOLインタビュー】日比谷尚武さん
日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)日比谷尚武さんは、「人と情報をつなぎ、社会を変える主役を増やす」をテーマに「コネクタ」という新しい仕事を確立し、活躍しています。「人と人」「人と情報」をつなぐ今の仕事とは具体的にどんなことをしているのか、また「コネクタ」にたどり着くまでにはどのような経緯があったのか、お話を伺いました。
【COMEMO KOLインタビュー】は、キーオピニオンリーダーの思いやルーツ、人となりを紹介する連載です。取材には、日経とnoteによる学びのコミュニティ「Nサロン」のメンバーを招待。実際の取材現場体験を通してビジネススキル向上の機会を提供しています。
日比谷尚武さんのプロフィール
「人と情報をつなぎ、社会を変える主役を増やす」をテーマに、セクターを横断する「コネクタ」。広報、マーケティング、新規事業、コミュニティ、トライセクター関連を中心に活動しながら、一般社団法人at Will Work理事、一般社団法人Public Meets Innovation理事、Project30(渋谷をつなげる30人)エバンジェリスト、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会広報副委員長なども務め、さらにはロックバーshhGarageを主催するなど、その活動は多岐にわたる。
▼本日より「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」で日比谷さんの連載が開始しました。
―(Nサロンメンバー棚橋)人と人をつなぐ「コネクタ」が、職業として成立すると思ったきっかけを教えてください
「コネクタ」と名乗り始めたのは、Sansanに勤め始めてしばらく経った頃のことなので、それほど前からではありません。ただ、名前はつけていませんでしたが、「これは価値があることだな」と感じ始めたのは大学生の頃でした。
僕は学生時代からインターネットビジネスに足を踏み入れていたので、当時から、ホームページの制作依頼やシステム開発に関する相談などを企業から受けていました。個人で仕事を受けていましたが、企業の人たちが困っていることに対して、解決できそうな友達を見つけることは比較的簡単でした。
ホームページ制作の練習にもなるし、小遣い稼ぎにもなるし、頼めば引き受けてくれる友達はいくらでもいると思ったので、「そこをつなげばビジネスになるな」とすぐに思いついて始めました。企業の人たちに話を聞いて、それを持ち帰って友達にやってもらって。それをどんどん繰り返すようになりました。
そして、これと同じことが大学内の様々なプロジェクトでも起こっていることに気がつきました。大学生の頃の僕は、学内でもいろいろなプロジェクトに顔を出すようなタイプでした。一方のチームが困っていることに対して、別のチームにはそれを得意としている人がいる。僕はいつもそれを「もったいないな」と感じていました。
そこをうまくつなげられるプラットフォームがあれば……「人と人」「人と情報」をつなぐことには価値があると、その頃から漠然と思っていました。
ただ、それでお金が稼げるとか、具体的に職業になるとか、そんなことは考えていませんでした。
―(棚橋)これまで「コネクタ」という仕事をしてきて、つなぐことがうまくいかずに困った経験などはありますか?
よく誤解されるのですが、僕は「つなげること」でお金を稼いでいるわけではありません。いわゆる紹介料のようなものはもらっていません。
僕が「コネクタ」としてやっているのは、面白い取り組みや新しい挑戦をしようと頑張っている人に足りないピースがあったとき、それを「つなぐこと」によって手助けすることです。プロジェクトを前に進めるために、「つなぐ」ことが必要ならばつなぎます。なんでもかんでも、つなげばうまくいくとは限りません。
「コネクタ」という僕の肩書きを聞いて、「こういうところに営業したいと思っているので紹介してください」と言う人がときどきいますが、これには大きな誤解があります。
「つなぐ」と言っても、その人の課題を解決できそうな人をただ連れてきて紹介するだけではダメなんです。相手にとっても、その人とつながることがメリットになり、なんらかのプラスにならないとうまくいかないものです。たとえそれが、世の中をよくすることであったり、応援したいと思えるようなことであっても、難しくなると思います。
もちろん、たくさんの人脈をもって人を紹介することで、ドライにビジネスを成立させていくやり方もあるのかもしれませんが、僕のスタンスや打診の仕方は、それとはまったく違うと思います。
―(棚橋)「コネクタ」という仕事のどんなところに面白さを感じていますか? また、仕事をする上で大切にしていることは何でしょうか?
具体的な会社や個人の名前を言うことはできませんが、例えば、私がつないだ会社や個人の中には、普通に仕事をしていれば絶対に出会うことがない、まったく別の業種や業界の人同士もいます。一方で、似たような業種や業界で活躍していて、すでに出会っていてもよさそうなのに、意外に知り合いではなかった、という「近い存在」の人同士をつなぐこともあります。
ここが人のつながりの面白いところで、出会うか出会わないかに、物理的な距離が関係ないこともあるのです。
それよりも、「つながる」ことを妨げる一番の要因は、初対面での印象や思い込みから、相手のことを一方的に決めつけてしまうことです。僕はよく「つながりに軽重をつけない」ことが大切だと言っています。出会ったときに「この人は関係ないな」「役に立たないな」とその場で判断しないことです。
「何かあったときにこのつながりが生きるかもしれない」と思うと、人との出会いを常に無駄にできないものと考えられるようになるものです。「誠実であること」「可能性に期待すること」が当たり前になります。
私の場合、その人のバックグランドと合わせて、得意なことや、今困っていることなどを聞くようにしています。短い会話の中で聞いた話が、いつか何かにつながるかもしれない、常にそういうスタンスでいます。
この考えが僕の中で強化されたのは、Sansan時代です。20代でベンチャー企業の経営をしていたとき、システム開発の営業をやっていた経験が生きたんだと思います。
当時、大企業のシステム開発の案件を請け負うためには、2、3年くらいかけてコツコツと関係を築いていく必要があったので、常に長期的な視野で営業活動をやっていました。大きな案件というのは、いきなりもらえるわけではなく、時間をかけて信頼してもらえるようになると、突然「これやってよ」となることが多かったからです。
その間には、担当者が変わったり、会社の方針が変わったり。目先の人がいきなり大きな案件をくれることを期待しても、それは無理なのです。しかし、じっくり付き合いを続けていくと、他の会社の大きな案件を紹介されたり、どこでどう転ぶかわからないようなことが起こる。いろんな偶然が重なってつながっていくことももちろんありますが、大切なのはその偶然が訪れたときに、それに対応できるカードをきちんともっていることです。
普段から軽重をつけずに人と付き合っていたことで、多くのチャンスを逃すことなくつかむことができました。
―(棚橋)人付き合いやコミュニケーションが上手くなるためにはどんなことが必要だと思いますか?
戦略的に人付き合いやコミュニケーションをうまくやれる人を、僕は逆に「すごいな」と思って見ています。
今となってはあまり意識することはありませんが、子供の頃の僕には「嫌われたくない」という気持ちが、ずっとベースの部分にあったと思います。小学生の頃の僕は、学級員や班長などを務めるような「優等生タイプ」の子供でした。先生の言うことをちゃんと聞いて、クラスメイトに「先生の言う通りにやらなくちゃダメじゃん」と注意するような。
ところがあるとき、クラスメイトから「あいつ、また先生の機嫌とってるよ」というヤジが飛んできて。「えっ、そんなふうに思われてたの?」と、とてもショックを受けました。「僕はみんなの気持ちを全然わかっていなかったんだ」「僕はこれが正義だと思っていたのにほんとは違うんだ」と、かなり思い悩みました。
それでそこから、例えば先生に注意されたとき、「さっさとちゃんとやって早く帰ろうぜ」「僕たちもそのほうが早く帰れていいじゃん」というふうに、言い方を変えるようにしました。すると友達も「そうだよね」「確かに」と言ってくれるようになって。「あっ、これか」と思いましたね。
事を動かすときには、相手のニーズや気持ちに寄り添った言い方をしたり、こちらから合わせていく部分が必要なんだと思うようになりました。ただ、その思いに至るまでにずいぶん悩みましたし、人にどうやって合わせるかを慎重に試行錯誤していたので、当時いろいろと考えていたことが、今の人付き合いに役立っているのかもしれません。
―(棚橋)今日の取材場所でもあるロックバー「shhGarage」の主催をされていますが、ここは今後どのようなコミュニティの場にしていくことを考えていらっしゃいますか?
最初にここを始めたのは、ただただ音楽が好きで、いい音でレコードを聴いて、お酒を飲める場所がほしかったからでした。ところが作ってみたら、人がどんどん集まってきて。それで僕も、人がつながれる場になればいいと思うようになりました。
出入りが自由で、何の強制もなく、立場も関係なく、集まって話ができるような場所は、もっと増えていけばいいと思っています。そういう場所を自分がコーディネートしたいという気持ちももっています。
人とつながるための「ノウハウ」のようなものを書き出せと言われれば、ある程度、自分の中に蓄積しているものをまとめて提示することはできるかもしれません。でもそのノウハウを使っても、きっとうまく人とつながることはできないと思います。
なぜなら、ノウハウで語れない部分のほうが多いからです。
確かにビジネスの現場には、特にスタートアップなどでは、その段階に応じてパターン化できるような共通の課題があるのは事実です。しかし、経営者のキャラクターも違いますし、組織の様子も違いますし、汎用性の高い人のつながりの作り方というのはあまりないのです。
例えば、コミュニケーションは苦手で共感性がなくても、専門性を突き詰めて頑張っているスタートアップの創業者やエンジニア、ソーシャルイノベーターなどは多いです。それならば、起業家でもプレイヤーでも、気の合う、認め合える人同士が、アイデアをやり取りできたり、力を貸し合える「環境」があればいい。
僕はそういう人たちを支えたいという気持ちが強いので、ここ(shhGarage)のような場所をもっと作っていきたいと思っています。
↑取材したNサロンメンバーと。
▼本日より「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」で日比谷さんの連載が開始しました。
▼「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」は、日経COMEMOのKOL(キー・オピニオン・リーダー)の投稿をもとにした連載企画です。
▼日経COMEMO公式noteでは、KOLへのインタビューを掲載しています。