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人的資本投資とグリーン・リスキリング〜グリーン分野のリスキリングの重要性〜

有価証券報告書を発行する大手企業4,000社を対象に「人的資本」の開示義務化に向けた動きが具体化しつつあります。

特に注目すべきは、サステイナビリティー情報についての記載欄が新設され、人的資本に関する戦略や人材育成方針の策定が求められることです。サステイナビリティーという言葉の中身次第ではありますが、今後、デジタル・スキル同様にグリーン・スキルを身につける必然性が更に高まるものと考えています。

1. グリーン・スキルとは

UNIDO(国際連合工業開発機関)の定義によると、

グリーン・スキルとは、持続可能で資源効率の高い社会で暮らし、発展し、支援するために必要な知識、能力、価値観、姿勢のこと

とされています。グリーン・スキルは、狭義と講義の2通りの解釈があると考えられます。

狭義:気候変動対策、脱炭素社会を築くための直接的スキル
広義:上記を実現してゆくために関わる広範なスキル

以前投稿した記事でグリーン・スキルについて詳しく書いているので、ご興味ある方はこちらをご参照下さい。

2.グリーン・リスキリングへの注目

1) COP27で発表となったILOの取り組み


2022年11月6日から11月20日の日程でエジプトにて開催されたCOP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)は、「気候実践サミット」と名付けられ、

(1)(持続可能な社会への)公正な移行
(2)食料安全保障
(3)気候変動対策と開発のための革新的なファイナンス(4)エネルギーの未来への投資
(5)水の安全保障
(6)気候変動と脆弱なコミュニティの持続可能性

上記6つが主要テーマとなりました。

中でも、ILO(国際労働機関)が若者向けにグリーン・ジョブを創出するイニシアチブ"Green Job for Youth Pact"を設立することを発表しました。

このイニシアチブにおいては、ILOが国連、ユニセフその他の国際機関とのパートナーシップにより、気候変動に脆弱な分野を対象として途上国の若者のスキルギャップを解消することを目的としています。その目標は、100万件のグリーン・ジョブの創出、100万件の既存業務のグリーン化支援、そして1万人のグリーン分野の起業家育成などが含まれています。

出典:ILOホームページより

特に、既存業務に就いている労働者がグリーン分野で活躍できる体制を整えるためのグリーン・リスキリング支援からどのような成功事例が生まれるか、今後も注目していきたいと思います。

2) ボッシュ(独)のグリーン・リスキリング

自動車部品世界最大手のボッシュのグリーン・リスキリングの事例はとても分かりやすく、既存事業からグリーン分野への移行を実現するためにとても参考になります。

10月5日(水)に日経LIVEにて特集された「製造業GXのカギ 欧州発『緑のリスキリング』」では、日本経済新聞社の林英樹記者(フランクフルト支局長)がボッシュの取り組みについて解説しています。グリーン・リスキリングに取り組んだ結果、内燃エンジンの試験技師からEV(電気自動車)エンジニアに職種転換した従業員の方のお話も必見です。以下、アーカイブにてどなたでも視聴できますので、是非ご覧ください。僕もグリーン・リスキリングの解説者として出演させて頂いています。

以下の取材内容からも、ボッシュの生存戦略として、グリーン・リスキリングに全社で取り組んでいることが分かります。

出典: 10/5 日経LIVE「製造業GXのカギ 欧州発『緑のリスキリング』」

3. 「人的資本投資」推進策としてのグリーン・リスキリング


2018年12月にISO(国際標準化機構)が「人的資本の情報開示」ガイドラインを策定して以来、世界中で開示のための準備が進んでいます。アメリカでは2020年8月、SEC(米国証券取引委員会)が、上場企業に対して人的資本の情報開示を義務化しました。また日本でも2021年6月に、東京証券取引所のコーポレートガバナンスコードの改訂に伴い、「取締役会にて必要なスキル (知識・経験・能力)を特定し、スキル・マトリックスをはじめ、取締役の有するスキル等の組合わせを開示すべき 」と発表され、同年12月までに報告書を提出することが推奨されました。

そして冒頭でもお伝えした通り、日本でもついに開示の義務化が始まります。開示レベルの詳細についての発表が待たれますが、デジタル・スキルと同様、グリーン・スキル習得に向けて、どれだけ本気で人的資本投資を行ってゆくか、が重要です。

人的資本投資の中核は「リスキリング」であり、企業と人材の生存を左右します。しかし経営戦略と人事戦略が連動していないために、リスキリング施策が具体化しないというお悩みを抱えていらっしゃる企業の方から日々リスキリングに関するご相談を頂きます。いち早く取り組んだ企業が競合対比、優位性を持ちます。

一方で、強制的に情報開示させられることで、開示自体が目的となってしまい、本末転倒な動きも見られます。情報開示の機会を好機として、自社におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)のみならず、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を実現するための人的資本投資であるグリーン・リスキリングを加速させてゆくことが望まれます。


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