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グリーン・スキルは新たな成長事業、人材価値をもたらす〜世界のグリーン・リスキリングへの取り組み〜

1.世界における「グリーン・スキル」への注目


1) グリーン・スキルはGoogleトレンドの急上昇ワード

GX(グリーン・トランフォーメーション)の実現に向けて、世界各国で、労働者の「グリーン・スキル」習得に向けた動きが始まっています。以下は、Googleトレンドでgreen skillsと英語で検索した際のグラフになりますが、今年に入ってから検索数が4倍になり過去最高値になっているのです。

2) グリーン・スキルとは?


まず初めに、グリーン・スキルとは何かについてご説明したいと思います。現在、欧米の様々な研究期間からグリーン・スキルについての考察等が出ていますが、UNIDO(国際連合工業開発機関)は、

Green skills are the knowledge, abilities, values and attitudes needed to live in, develop and support a sustainable and resource-efficient society.
(グリーン・スキルとは、持続可能で資源効率の高い社会で暮らし、発展し、支援するために必要な知識、能力、価値観、姿勢のこと)

と定義しています。詳細については以下ブログをお読み頂ければと思いますが、50件ほど研究資料を読んでみて自分なりのグリーン・スキルの解釈としては、狭義と広義によって理解が様々であると感じました。

狭義:気候変動対策、脱炭素社会を築くための直接的スキル広義:上記を実現してゆくために関わる広範なスキル

例えば、広義のスキルとしては、海水を水にするクリーンウォーター技術、CO2を減らすための代替肉製品分野に必要なスキル等も含まれるのではないかと思います。また、UNIDOは一般的に想起しやすいグリーン分野の科学的、技術的スキルに加え、オペレーションスキルや経過装置を監視するモニタリングに必要なスキルなども紹介しています。

3) Global Skills Report2022におけるグリーン・スキルへの注目


また今年2月にLinkedInが発行したGlobal Green Skills Report2022では、グリーン・スキルが急速に求められてきているという調査結果が掲載されています。

World Economic Forum(世界経済フォーラム)も今年5月にこのレポートをもとに、グリーン・リスキリングの重要性について、言及しています。

今年2月にこのGlobal Green Skills Report2022についての解説を書きましたので、ここでは内容の詳細は割愛します。ご興味ある方は以下をご覧ください。


4) グリーン・スキル習得に向けたカンファレンス

昨年11月には、The New York Times誌が、Green Upskillingというタイトルのシンポジウムを開催し、参加してみました。

イギリス、スコットランド、カナダ、フランス、アメリカ企業から登壇者が参加し、次世代に必要なグリーン・スキルの中でも重要なClimate Skills(気候変動に関するスキル) について議論されていました。残念ながら詳しい方法論等までは触れられていなかった印象ですが、これから具体的な成功事例や方法論が公開されてくるのではないかと期待しています。

5) 日本におけるグリーン・リスキリングへの注目


そして、昨日7月24日の日経新聞朝刊にて、「グリーン・リスキリング」の特集記事が初めて掲載されました。とても素晴らしい記事ですので、是非皆さまご一読下さい。

日本経済新聞「脱炭素、いざリスキリング 欧州で進む「公正な移行」より引用

この図にあるように、特に化石燃料ビジネスから、再生エネルギー発電分野への人材の「労働移動」を実現するために、グリーン・リスキリングは欠かせないのです。

グリーン・リスキリングについては昨年から仮説を含めて投稿しておりますので、以下ご覧頂けましたら幸いです。

それでは世界各国でどのような先進的なグリーン・スキル習得、グリーン・リスキリングの取り組みが始まっているか、ご紹介したいと思います。

2. 欧州のグリーン・リスキリングへの取組み


1) European Skills Agenda〜個人学習口座へリスキリング費用を支援〜


欧州では、5年間でグリーン&デジタル分野への労働移動を実現するためのリスキリングの取り組み、European Skills Agendaというプロジェクトが運営されています。

このアジェンダの中では、Pact for Skills(スキル協定)という産学官連携によるリスキリングに向けた協働を含む10のアクションが推奨されています。

中でも力を入れているのが、Individual Learning Accounts(個人学習口座)制度の仕組みです。

この個人学習口座は、EU加盟国によってそれぞれ仕組みが異なります。例えば、早くからこの制度を活用しているフランスでは、主に企業への課税負担によって財源を賄っています。またオランダでは、公的資金を利用しています。

このEU圏内における共通の個人学習口座制度を作り、リスキリングに対する直接的な費用支援を行うことで、EU加盟国間においても成長産業への労働移動を実現することができるのです。グリーン分野やデジタル分野へリスキリングを行う個人を支援する素晴らしい取組みです。

2) Just Transition Fund:グリーン・リスキリング支援のための助成金の仕組み

またEUでは、Just Transition Platformという欧州の持続可能なカーボンニュートラルな経済への移行に関するプラットフォームを作り、3本柱となる施策を展開しています。そのうちの1つが、Just Transition Fundというグリーン分野への労働移動を促進し「公正な移行」を実現するための助成金になります。

公正な移行(Just Transition)
温暖化ガス削減という政策目的の犠牲となって職を失う労働者に新たな仕事を確保すること。米国の石油産業の労組が提唱した「ジャスト・トランジション」の考え方が1990年代以降、世界に広まった。パリ協定の前文でも各国が取り組むべき優先事項として触れられている。

日本経済新聞「脱炭素、いざリスキリング 欧州で進む「公正な移行」より引用

このJust Transition Fundは、総額€19.2B(約2.7兆円)のファンドで、以下のような用途によって新たなグリーン分野の新規事業創出とグリーン・リスキリングによる人材育成を支援するものです。

・中小企業への生産的な投資
・新会社の設立
・環境修復への取組み
・クリーンエネルギーへの投資
労働者のアップスキリング&リスキリング
・求職支援
・求職者プログラムへの積極的な受入
・CO2排出の多い既存施設の変革(排出削減と雇用維持)

EU The three pillars of the Just Transition Mechanismより引用

このJust Transition Fundによる「公正な移行」を実現するための助成金の仕組みは、日本の政府、自治体、企業が注目すべき取り組みです。

実際にポーランドのある企業の事例では、炭鉱で採掘業務を行なっていた労働者の仕事がネットゼロ社会への移行により将来的に無くなることを見越し、従業員約1,500人の従業員を対象に太陽光発電の施工業者としての資格取得を実施しています。


3) Green Skills Award 2022創設、優勝者は?

EUの政府機関であるEuropean Training Fund(欧州訓練基金)は、2022年2月からGreen Skills Award 2022という、グリーン・スキル習得および教育における事例を募集し、持続可能でクリーン、カーボンニュートラルな循環型経済・社会への移行支援に向けた優れた取組みを表彰する制度を開始しました。その目的は、EU域内および域外のリスキリングに携わる実務者にアイデアやインスピレーションを提供することです。

そして、6月9日 「Green Skills Award 2022」の受賞者を発表しました。応募総数3769件のプロジェクトから、 今年の受賞者は、第1位はクロアチアのプロジェクト「The Green Changemakers」が選ばれました。クロアチア、トルコ、アルメニアの学校間で行われるこの1年間の国際協力プログラムは、持続可能な開発とグリーンテクノロジーに対する認識と理解を深めることを目的とし、地域にポジティブなインパクトをもたらしているとのことです。授賞式の模様は以下の動画をご覧ください。

グリーンエコノミーの実現に向けて世界をリードしている欧州でも、まだまだグリーン・リスキリングの成功事例は登場し始めたばかりで、こうした共有の仕組みを作ることで、より興味関心を持ち、グリーン・リスキリングに取り組む方たちが増えてくるのではないかと思います。特に参考になるのが、成功事例の募集要項です。

①企業
・新しい「グリーン」技術や生産プロセスを導入し、それを適用するための従業員のグリーン・スキルを開発している。
②研修事業者
・環境問題やグリーンテクノロジーに関する最新の知識を教員やトレーナーに提供している事例。
③産業&セクター
・その産業界で必要とされるグリーン・スキル習得のための教育研修基準やコースに関する事例。
④公共&民間機関
・異なる省庁や公的機関の間で連携し、環境意識向上プログラムを開発している事例。
⑤公的職業安定組織
・グリーン分野の仕事とトレーニングのマッチング、グリーンビジネスの機会についての認識を高める事例。
⑥学校
・以前より、環境に配慮するように変化している事例。
⑦PPP(官民協働)
・グリーン分野の開発に取り組んでいる事例

3.シンガポールのグリーン・リスキリングへの取組み

次に国家レベルで労働者へのグリーン・スキル習得を支援しているシンガポールの事例をご紹介します。

シンガポール教育省参加の組織、SkillsFutureは、グリーンエコノミー実現に向け、具体的に国民が習得すべきグリーン・スキルについて発表しています。

SKILLS DEMAND FOR THE GREEN ECONOMYより抜粋

以下、SkillsFutureが推奨するグリーン・スキルの和訳になります。

・グリーンプロセス設計
・カーボンフットプリント管理
・環境管理システムの枠組と政策
・サステイナビリティ管理
・製造組立のデザイン
・廃棄物処理管理
・グリーンなビルと施設
・保全性デザイン
・サステイナブル工学
・サステイナブル食糧生産設計
・ランドスケープ業務 / 環境管理
・エネルギー管理
・環境&ソーシャルガバナンス
・サステイナビリティ・デザイン
・太陽光発電システム設計
・灌漑管理
・空間デザイン
・スマート施設
・ユーティリティ管理
・エネルギー取引

シンガポールはデジタル分野含め、国家主導で政府、企業、事業者団体、労働組合、研修会社、大学等が一体となってリスキリングを推進しており、日本におけるリスキリングを成功させるために、1番学ぶべきロールモデルだと考えています。

4.日本のグリーン・リスキリングへの展望


1) グリーン・トランスフォーメーションへの岸田政権の取組み


今年5月5日ロンドンにて岸田首相が国策としてリスキリングに取り組む旨、総理大臣として初めて発表をしました。そしてグリーン分野については、

「10年間で150兆円のグリーン・トランスフォーメーション関連の官民投資を引き出すための政策イニシアティブ」

を構築すると発表しました。

そして7月22日には経団連フォーラムに登壇し、①脱炭素担当大臣の新設、②20兆円のGX経済移行債(仮称)の創設を発表しました。これは、「脱炭素に向けた民間の長期巨額投資の呼び水となる前例のない支援の仕組み」を作るという説明がありました。


2) グリーン・スキル習得は義務化されるか?


日本ではまだ、政府から具体的なグリーン・スキルの明示や、民間におけるグリーン・リスキリングの成功事例などについては、僕の知る限りまだ共有されていないように思います。しかしながら、脱炭素化に向けて、日本も必ずグリーン・リスキリングに取り組み、働く個人がデジタル同様にグリーン・スキルを身につけなくてはいけない時代がすぐそこまでやってきています。欧米も取り組み始めたばかりでまだ成功事例などは大きく取り上げられていない状態です。

デジタル分野については、日本は世界から大きく遅れを取ってしまい、デジタル分野のリスキリングはやっと昨年から注目され始めました。僕の個人的な意見ですが、デジタル・スキル習得は企業や個人に委ねられているのですが、欧米の急進的な取り組みを含め、グリーン・スキル習得については、ある程度の強制力が働くのではないか、と考えています。二酸化炭素排出量の削減に対する法整備が更に進むと、強制的に僕たち個人もグリーン・スキルを身につける必要が出てくるのでは、と考えています。全社でハラスメントの防止やコンプライアンスに対する意識向上の研修などを行なってきたことと同様、すべてのビジネスパーソンに必要なスキルになるのではと思います。

3) 新規事業創出からグリーン・リスキリングへ(IHIの事例)


日本ではまだグリーン人材育成に関する議論は本格的にまだ始まっていませんが、新規事業の創出からグリーン・リスキリングを実施し、国家戦略として日本におけるグリーン・トランスフォーメーション実現した後、グリーン分野の製品やサービスを世界展開できるのではないか、と考えています。

2019年に、株式会社IHI(旧石川播磨重工業)が水中浮遊式の海流発電システムの実証実験を1年以上にわたり実施すると発表しました。

そしてついに実証実験に成功し、「無限の可能性を秘めた巨大深海水力発電の実証実験」といった見出しで、Bloombergなどのメディア含め世界中でも実証実験成功のニュースが大々的に報道されました。

https://bloom.bg/3BiteUh


4) グリーン・スキル習得に向けた人的資本投資


こうしたIHIの海流タービンによる水力発電事業のような事例が様々な産業で拡大してゆくと、それに伴いそれぞれの分野のグリーン・スキルを保有する労働者の需要も高くなります。例えば上記のような海流タービン技術を世界中に輸出し、グリーン・スキルを持つ人材が世界中で活躍することができるのです。このようにグリーン分野の新規事業を成功に導くグリーン・リスキリングは重要な役割を将来的に果たすと考えています。当然、デジタル分野のリスキリング同様、単なる「コスト」ではなく、人的資本投資にあたりますので、今から企業が未知なるグリーン・スキル習得に向けた人材投資を積極的に行なってゆく必要があるのです。

5. グリーン・リスキリングを始めよう!


以上、1〜4でご紹介させて頂いたように、グリーン・トランスフォーメーションの実現に向けて世界中でグリーン・スキル習得に向けた動きが活発になっています。私自身、デジタル分野にリスキリングに関しては10年かけて行なってきたのですが、グリーン分野についてはまだまだ勉強を始めたばかりで、現在グリーン・リスキリングの真っ最中です。まず何から取り組んだらよいでしょうか、というご質問をよく頂戴するのですが、私なりに以下、初期段階で何をやるべきか、についてご紹介させて頂きたいと思います。

1)新しく生まれているグリーン・ジョブの情報収集


世界では様々なグリーン分野の職業、グリーン・ジョブが日々生まれています。ただグリーン分野もデジタル同様に範囲がとても広く、専門的な情報もとても多いのです。そのため、以下のように「業界xグリーン分野」のカテゴリに分けたチャートを作り、どのような新しいグリーン・ジョブが生まれているか、メモを作っています。

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ作成

是非ご自身で興味関心のある分野から情報収集を開始して頂きたいと思います。以下、例えばということでいくつか事例をご紹介したいと思います。

・風力発電タービンの保守点検を行うドローン・パイロット

米国ミシガン州を本拠に構えるSkySpecs社は、ドローンやAIを活用して風力発電用のタービンの故障や損傷を発見する保守点検作業を自動化するサービスを展開しています。言葉だけだとイメージが湧きにくいので、以下のYouTubeの動画をご覧頂くと理解しやすいと思います。

このようにAI x ドローン x 風力発電のスキルを掛け合わせた新しい職業が再生エネルギー分野では次々と生まれているのです。今までは人間が手作業で危険を伴いながら行なっていた保守点検作業であるため、導入も早いのではないかと思います。こういったグリーン分野に特化したドローン・パイロットの仕事がこれから世界中で増えてゆくのかもしれません。

・Salesforce社ネットゼロ・クラウドのオペレーター

上記のようなドローンの事例は「私には関係ない」とお感じになる方もいらっしゃるかと思いますので、もう少し身近に私たちも利用する可能性の高いグリーン・スキルについてご紹介したいと思います。

今年2月に発表されたSalesforce社のNet Zero Cloud(ネットゼロ・クラウド)は、ダッシュボード上で温室効果ガスの排出量、再生可能エネルギー利用率、サプライチェーンにおける排出量などを一覧化するサービスです。日本でも3月から提供開始されています。

Business Insiderに掲載された発表資料より引用

詳細については、Business Insiderの記事をご参照下さい。

このサービスを利用することで、ネットゼロ目標達成までの進捗状況やデータ集計・確認プロセスの可視化が可能となります。顧客管理のためにSalesforceを利用し、毎朝ダッシュボードを見て、1日の仕事の優先順位を考える、そんな方も多いのではないでしょうか。同様に、これからは毎朝、自社の業務で排出している二酸化炭素の量をチェックすることから業務が始まる時代が来るのかもしれません。

これからは営業管理同様、ネットゼロ・クラウドを設計するオペレーター業務などの求人も増えてくるように思います。

・カーボン・オフセット分野の業務

IndeedでCarbon Offsetsと検索すると、カーボン・オフセット分野のコンサルタント、自社に導入するためのプログラムマネージャー等の求人がたくさん出てきます。

(日本のindeedでカーボンオフセットと検索すると、求人はまだ出てこないようです)

このように日々様々なグリーン・スキルを必要とする新しい職業が世界中で増えていますので、自分の興味関心の高い分野の情報収集から始めると良いと思います。

2)グリーン・リテラシーの向上


デジタル・リテラシーという表現があるように、実はグリーン・リテラシーという表現もあります。具体的には、

・グリーン分野の専門用語に慣れる
・グリーン分野のサービス、製品を展開する企業名を覚える
・グリーン分野のKPIに関する用語を理解できるようになる

といったことがグリーンリテラシーを高める早道ではないかと思います。上記はデジタル分野のリスキリングにも共通していて、何の話をしているのか全く分からない、という状態から脱するためには、まずこういったグリーン分野の専門用語を理解してゆくことが大切です。気候変動対策、脱炭素、代替食品等、自分が興味ある分野から情報収集を行い、グリーン・リテラシーを少しずつ高めてゆくことをお勧めします。

3)オンライン講座の選定と学習開始

上記1) 2) を経て、自分がどのような分野のグリーン・スキルに興味があり、将来就きたい仕事のイメージが湧いてきたら、オンライン講座を活用して、具体的なグリーン・スキル習得に向けた学習を開始しましょう。

・LinkedInラーニング(英語)

グリーン・スキル習得に向けて、LinkedInが無料で提供している、Closing the Green Skills Gap to Power a Greener Economy(グリーンエコノミーを促進するためのグリーンスキルのギャップ解消) というシリーズは、9講座(合計約20分程度)が公開されています。講座は以下の3カテゴリになります。

①グリーン・スキル: グリーンエコノミーへの移行促進
②グリーン・スキル: 今後の可能性
③グリーン・スキル: 政府、会社、労働者

・SoZo株式会社「SDGsビジネスラーニング」(日本語)

様々な分野を扱うオンライン講座とは一線を画し、グリーン分野に特化したオンライン講座も登場しています。

特に、気候分野の学習に興味がある方は、市川裕康さんの日経COMEMOの記事が大変参考になると思います。様々な学習ツールが紹介されています。


4) 学び合いの場を設ける


グリーン分野の専門知識は理解するのに難しいものも多く、デジタル分野の人工知能などと同様、なかなか取り組むハードルが高いのも事実です。現在僕もグリーン・スキル習得に向けて、グリーン・リスキリング中ですが、僕はグリーン野に関心の高い人と学び合いの場をつくるということを始めています。僕が代表理事を務めている一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブでは、「グリーン・リスキリング・アドバイザリーボード」というものを作り、グリーン分野やESG投資の専門家の方々をお招きして、勉強会や意見交換会を行っています。

「知らない」ことを恥ずかしいと思う必要はありません。なぜなら、僕含め、まだ多くの人が知らないからです。自分の身の回りのグリーン分野に関心の高い人たちと試行錯誤しながら勉強会を行いましょう。お互いに情報収集して新しく知ったことを持ち寄り、知識を補填し合う「学び合い」の場は、グリーン・リスキリングに飛び込む絶好のチャンスです。

6.グリーン・リスキリングの副次的効果とは

日本ではグリーン・リスキリングに関する議論やグリーン・スキル習得に関する方法論についてまだまだ一般的に広がっていないように感じます。一方でこれから政府の支援も拡大して、大きく注目されるのではないかと、とても期待をしています。最後に今後の希望的観測も含めて、グリーン・リスキリングの副次的効果についてご紹介したいと思います。

1) デジタルが苦手な人へ、新たな選択肢としてのグリーン・スキル


僕は日々、自治体や企業向けのリスキリング導入支援に奔走していますが、そこで良く耳にするのが、

「どうしてもデジタルに興味が持てない」

という方々のお話です。これはとても大切なことで、否定できないものです。例えば、今まで大切にしてきた価値観として、

・お客さまとしっかり対面でお話をしたい
・紙のスケジュール帳やメモで書きたい
・リモートワークではなく出社して仕事がしたい

といったことを仰られていました。個人の価値観として尊重されるべきことなのですが、データが世界をし始めている今、デジタルと無縁な仕事の進め方を維持することも同時に難しくなってきています。しかしながら、どうしてもデジタル分野のリスキリングに興味関心を持てない方々は一定数いらっしゃいます。

その場合、デジタル分野のリスキリングに関心が低い方たちへの新たな選択肢としてのグリーン・リスキリングは、大きな意味を持つのではないか、と期待しています。「デジタルには興味ないけど、グリーンには興味がある」という方たちもいらっしゃるのではないでしょうか。

2) パーパスに敏感な若い世代の退職の抑止力へ


僕のnoteでも度々ご紹介している、米国発のThe Great Resignation(大退職時代)は現在もその勢いが衰えず、昨年11月に月間453万人の自主退職を記録して以来、変動はあるものの毎月400万人以上の自主退職を続けています。

特に退職が顕著なのはミレニアム含め若い世代の退職で、会社のパーパスに共感できずに辞めていく傾向が続いています。特に、若い世代はグリーン分野への関心が高いため、会社でグリーン・スキル習得の支援を行い、グリーン・リスキリングを積極的に行うことで、現在の勤務先で働く意味を見出し、優秀な人材の流出を防ぐ抑止策の1つになるのでは、と期待しています。グリーン分野の新規事業創出などを始めた場合、若い世代が大きな関心を寄せるのではないでしょうか。

世界経済フォーラムは、若い世代に農業、建築、科学、教育分野などにおけるグリーン・スキル習得を推奨しています。


3) 日本が世界のグリーン・リスキリングのロールモデルに


グリーン分野の新技術において、海外に追い越された分野もありますが、日本には依然として優れた先進技術や特許があります。日本は残念ながらデジタル分野のリスキリングに対する取り組みが世界から著しく遅れています。しかし、欧米でもまだ始まったばかりのグリーン・リスキリングを日本が国家プロジェクトとして開始し、私たち働く個人がグリーン・スキルを積極的に習得してゆけば、今なら日本が世界におけるグリーン・リスキリング分野のロールモデルになれる可能性があると私は思っています。

その実現に必要な第一歩は、海外や他社の成功事例にこだわり横並びで満足する「正解思考」を辞め、「アジャイル思考」に切り替え、そして失敗を是とした試行錯誤の中で新しい価値をグリーン分野で生み出す努力が何よりも大切だと考えています。これからも自らのグリーン・リスキリング目的も兼ねて最新情報を発信しつつ、グリーン・スキル習得の成功事例などについてもこちらで書いていきたいと思います。

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