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「フリーランスとの取引は緩い」という”何となく”のイメージが招くフリーランスの取引トラブル

今年の臨時国会での成立が予定されていたフリーランス新法ですが、以下の記事にあるように、結局、今年の臨時国会では提出すらされずという結末でした。
来年の通常国会の成立を期待したいところです。

ところで、私はフリーランスの方からの相談を受けることも多いのですが、その中で発注者、フリーランス共に、「業務委託契約は労働契約よりも緩い」という何となくの”イメージ”の下、様々な取引トラブルが発生している例が見られます。

今回は、その代表的なものを2つご紹介したいと思います。

「労働契約は賃金減額は厳しいけど業務委託はOK」という誤解

まず多く見らるのは「一方的な報酬の引下げ」です。
実際、「明日からの報酬はこうなりますので」と一方的な通知のみで報酬が引き下げられるという例がまま見られます。

これについては、フリーランスガイドラインでも、独占禁止法・下請法上問題となり得る行為として掲げられている代表的な行為です。

https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210326005/20210326005-1.pdf

フリーランス新法の方向性の中でも、この点は挙げられており、今後成立するであろうフリーランス新法にも禁止行為として明記される可能性が高いでしょう。

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000241038

ただ、「一方的な報酬の引下げ」については、労働契約より業務委託の方がより厳しい制約があるということがあまり認識されていません。

というのは、本来、契約で合意された内容は、(賃金や報酬に限らず)当事者間の合意がない限り変更できないというのが、契約法制の大原則です。
したがって、業務委託契約であっても、当事者間の合意がない限り報酬の減額などできず、フリーランスは、元の報酬を請求することができるのです。

何となく「労働契約は賃金減額が厳しい」というイメージがありますが、実は、労働契約は、労働契約法によって当事者間の同意を得ることなく「就業規則を変更する」という方法で契約内容を変更できるのです。しかも、要件は厳格ですが、不利益にすら変更することも認められています。

したがって、契約内容の変更という点でみれば、労働契約の方が業務委託契約よりも緩いのです。

「フリーランス側からいつでも辞められる」という誤解

その他に多いのは、「フリーランスからの契約解除」の話です。
中には発注者側に問題があり「辞めたい」となることもありますが、「やってみたらなんかイメージと違ったのでやめたい」という、ある意味フリーランス側の自己責任の例もあります。
そして、「辞めたいと言ったら、辞めさせてくれなかった。そんなことは許されるのか?」という相談が多いです。

フリーランスガイドラインやフリーランス新法の方向性では、フリーランスとの継続的取引関係の維持を前提にしているため、このような「フリーランス側からの契約解除」については、あまり問題視されていないように思われます。

この点についても、「労働者は辞職の自由があるのだからフリーランスだっていつでも辞められるだろう」という誤解があるように思います。

「業務委託契約」は、一般的に民法上「請負契約」か「(準)委任契約」のどちらか(又は混合)と言われており、このいずれかであるかがフリーランスからの契約解除に大きな影響を与えます。
まず、「(準)委任契約」の場合には、発注者だけでなくフリーランス側にも「任意解除権」があり、いつでも契約を解除できるとされています(ただし、損害賠償の支払いが必要となる場合があります。)。
他方で、「請負契約」の場合には、発注者からの任意解除権はあるものの、フリーランスからの任意解除権の定めはありません。

契約期間満了というロジックもあり得ますが、「いつまでやるか」という点がはっきりしないまま受注しているケースが多いです。

そうなると、請負契約の場合には、民法の一般原則に従い、契約上定められた解除事由がある場合か、発注者からの債務不履行(報酬未払いなど)を理由として債務不履行解除するしかないのです。フリーランスとの取引は契約書がないことが多いので、現実的には債務不履行解除しかないということが多いです。

この点も、民法の「契約の拘束力」の考え方から、一度自由な意思で契約した以上、何の理由もなく契約から離脱することは基本的には許容されておらず、労働契約や(準)委任契約のように自由に解除(辞職)できるという考え方の方が例外なのです。

フリーランス新法だけでなく民法の基本的考え方を身に着ける

例えば、報酬の一方的減額によって数万円の報酬が減額されるだけでも、それによって生計を立てているフリーランスにとっては大打撃であり、フリーランスの保護にあたっては「迅速な権利実現」という視点が必要になります。

いくらフリーランス新法という特別法による保護がされても、その執行、すなわち権利実現にはやはり一定の時間を要します。
では、裁判をやるかとなっても、確かに少額訴訟は可能ですが、強制執行まで考えると、「今日申し立てて来週お金が入る」という時間軸ではありません。

したがって、自ら民法の基本的な考え方を学んでおき、事前にリスクのあり得る取引を避けたり、契約書を作成して自らの身を守ることが何よりも重要でしょう。

※フリーランスについて以下の記事もご覧いただけると嬉しいです。

今年の投稿は最後になります。
今年も拙い記事でしたが読んでいただけて嬉しいです。
来年も頑張って色々書いていきますのでよろしくお願いいたします。

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