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「サブスクは価値を作るものではなく価値を増幅させるもの」ー買ったあとの話をしよう〜そのサブスク、戦略にあってますか

この記事は6月8日(火)に開催した、オンラインイベント「買ったあとの話をしよう〜そのサブスク、戦略にあってますか」の内容をもとに作成しました。

コロナによってサブスクに対する興味関心が高まっています。最近のサブスクの国内市場を見てみると、2020年度は8759億円と、2019年度よりも3割近く伸びています。

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先行したのは、SpotifyやNetflixなどのメディア系サービスでした。しかしながら、すでに撤退した企業も少なくありません。

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よく言われるのは「始めるのは比較的簡単でも、成功するのは非常に難しい」ということです。消費者は嫌になればすぐ、離れていってしまいます。

サブスクの本質とは何なのか、どうしたら顧客の生活になくてはならない存在になれるのか、3人の専門家をお迎えして考えていきたいと思います。

「サブスクは手段であり本質は戦略の一貫性にある」と言う一橋大学ビジネススクール教授の楠木建さん、昨年サブスクリプションについての本も出版されているオイシックス・ラ・大地専門役員兼CMTの西井敏恭さん、これからサブスクを導入しようと準備を進めているという創業90年の老舗メーカー木村石鹸工業社長の木村祥一郎さんをゲストにお招きしてお話を伺います。聞き手は、日経新聞の大岩佐和子編集委員が務めます。


■従来型の定期サービスとサブスクの違い

ー大岩編集委員
まず、そもそもサブスクリプションとは何なのか、なぜ今注目されているのか、西井さんからご説明いただけますでしょうか。

ー西井さん
「サブスクリプション」と言われて思い浮かぶものを考えてみると、一般的にこのようなものが挙げられると思います。

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サブスクには、「顧客が商品やサービスの利用期間に応じて料金を支払うサービス」や「予約購読・年間購読」というものがあると思いますが、要するに、事前にお客様からある程度の「お約束」をいただいて、サービスを提供するというビジネスモデルです。

では、このサブスクと「定期販売・定額販売」は何が違うのか。新聞もそうですし食品の定期販売など、月額サービスや定期サービスは昔からあったわけですよね。

これまでは、「〇〇の機能付でこんなに安い」「〇〇が今までよりも良くなった」など、機能性や差別化を押し出してアプローチしてきたマーケティングが、インターネットの登場で、機能性や差別化だけのマーケティングでは売れなくなってきたわけです。一方で、デジタル化によって顧客の情報が細かく取れるようになり「顧客理解」が進化しました。

これによってマーケティングは、「売れる仕組みづくり」をするものだったところから、「買いたい気持ちづくり」をどうのように実現するかに変えなければならなくなりました。ここが重要なポイントです。

僕も過去に定期サービスをやっていましたが、そのときのマーケティングが何を中心にしていたかと言うと、定期に入ってもらうための広告をどう作るかなど、いかに「売るまで」のところで頑張るかでした。しかしサブスクでは、「購入した後」もしっかりとマーケティングを行なうことが大事なんです。

つまりサブスクは、昔からある定期サービスとビジネスモデルはまったく同じなのですが、マーケティングのポイントが変わってきていると言えると思います。

いろいろなデジタルツールを使って顧客を理解することで、商品やサービスを使い続けてもらえる気持ちを作っていくことが重要だと思います。

ー大岩編集委員
サブスクに向いているジャンルというのはあるのでしょうか?

ー西井さん
例えばNetflixのように、サブスクで成功しているところは、デジタルを通して顧客理解をしやすいところが多いように思います。デジタルで顧客データをとることができない中でのサブスクは、顧客理解がなかなか進まないので、難易度が高くなるのではないかと思います。

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■サブスクの前提はお客さんに価値が認識されているもの

ー楠木さん
結局、サブスクというのは、成功の原因ではなく結果なのだと思います。

サブスクを成功の原因だと考えている人が非常に多い。だからみんな「サブスクをやろう!」となっているのだと思います。もともと、競争の中で独自の価値が十分に築けているものがサブスクになると、益々うまくいくということだと思うんです。

「価値がないもの」あるいは「価値がお客さんに認識されていないもの」でもサブスクにしたら突然売れるようになる、ということは絶対にありません。サブスクは成功の原因ではなく結果であって、そこがかなり混同されているのが現状だと思います。

明らかに独自の価値があって、放っておいても買いたいという人がいて、さらにその商品やサービスの性質がサブスクによって「価値が増す」ようなものであること、この順番が大切だと思います。サブスクは「価値を増幅するもの」で「価値を作るもの」ではありません。

ー木村さん
僕らが今、始めようとしているのは「シャンプーのサブスク」、つまり定期購入なのですが、これはもともと発売後に、お客さんのほうから「定期購入のサービスがほしい」という要望があって検討し始めたことでした。

そこで、定期購入のサービスをいろいろと調べてみると、特に消費財の定期購入のサービスは、新規で獲得したお客さんを止めさせなければずっと売り上げが積み上がっていくモデルなので、「いかに効率よくお客さんを獲得するか」と「いかに止めさせないか」というところに焦点が絞られているものが多いなと思いました。

買い続けたくなる動機の作り方よりも、物理的に止めにくくしている。例えば、止めるボタンがないとか、電話が繋がらないとか、止めるタイミングが非常に限られているとか。あるいは、止めるのが面倒臭いから惰性で継続してしまう、そういうものが多いと思いました。

それで僕らはまず、そういうものをすべて取り払おうと考えました。いつでも止められて、回数制限もない。すると、「いかに止めさせないか」よりも、「定期購入を買い続けたい」「定期購入に参加し続けたい」と思ってもらえるような仕組みを作らなければいけません。

それは単に、契約し続けていると価格が少し安いとか、購入の面倒臭さが少し省かれるとか、そういうことだけではなかなか買い続けたくなる要素としては弱いので、続けられないと思いました。

特に僕らの場合は代替品がいくらでもあるジャンルですし、わざわざ定期購入を契約しなくても、ワンクリックで明日には届くという世界です。あえて定期購入の契約を続けたくなる要素が必要で、そこが多分、単純な「定期購入」と「サブスク」の違いになるのではないかと思っています。

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ー西井さん
今の木村さんの話ですが、ネットでワンクリック・ワンタップですぐに商品が買えるようになったことは、従来型の定期サービスをやっていた身からすると、かなりの脅威だと感じています。

何もしなくても毎月届けてくれるし、続けていれば少し安いという定期サービスが、ネットで簡単に安くものを買えるようになって、ユーザ利便性が失われてきているのではないかと思います。

単品通販をやってきたほとんどの会社が、今、苦戦しています。冒頭でサブスク事業が伸びていると紹介がありましたが、従来型の定期サービスは、実はそれほど伸びてはいません。これは視点としてとても大事だと思います。


■究極的にはサブスクがコミュニティになることを目指す

ー大岩編集委員
ここで参加者の方からの質問をご紹介したいと思います。「買い続けさせるハードルは非常に高いと思います。それに対して相当なメリット・特典を付けてあげなければいけないように感じるのですが?」という質問なのですが、特典というのはやはり必要なのでしょうか?

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ー西井さん
最近面白いなと思っているのが、オーダーメイドのパーソナライズされた商品のサブスクです。

例えば、パーソナライズシャンプーなどがありますが、毎回届く度に「今回のシャンプーの香りはどうだったか?」「次はどんなふうに気分を上げたいか?」などのユーザーアンケートを行って、フィードバックをもらうことで少しずつ商品を改良しているんです。

パーソナライズの商品は昔からあったと思いますが、これまでは、最初に診断をして「あなたにはこの商品がいいです」と提案されてそれに決めたら、毎月その商品が送られてくるということでした。それに対して、届いた商品に関するフィードバックをユーザーから毎回もらうやり方は、今までよりも一歩踏み込んだ、まさに「サブスク」の面白いところだと思います。

このように、ユーザーからフィードバックをどうやってもらうか、を考えることも「サブスク」を成功させる上では有効だと思います。

ー楠木さん
物の取引だけではなく、顧客の使用状況や顧客の思いなど、いかに「情報」を得て企業側が顧客にアドバイスしたりカスタマイズしたりできるか、さらにそれらのやり取りが自主的かつ高頻度に起こるか、これがカギだと思います。

「サブスク」というのは顧客の「囲い込み」だと言う人がいますが、「お前を囲い込んでやるぞ!」と言って喜ぶお客さんなんていません。それは100%企業側の都合で、お客さんにとって何の価値もなく、迷惑な話なんです。

囲い込みではなく、お客さんが常に物だけではなく、情報なり知識なりのベネフィットを受けているという実感できる状態、これが先ほど西井さんがおっしゃった「関係性」であり、これこそが大事なんです。

西井さんに1つお伺いしたいのですが、お客さんが商品やサービスを利用していく中で、サブスクライバーズがコミュニティーのようなものを形成するという動きはあるのでしょうか。

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ー西井さん
それはあります。サブスクライバーの人たちがその商品に価値を作ってくれて、価値を作ることに喜びを感じてくれるということが、とても大事だと思います。同じ商品でも、それをいろいろな価値観の人が利用することで、様々な価値を作っていけるということはサブスクでは起こることです。

例えば、オイシックスの「ミールキット」という商品は、コミュニティーの中でお客さんにいろいろと議論をしてもらって、そのやり取りを繰り返すことで、5年前の商品とはまったく違うものになっています。5年間ずっとコミュニティーでのやり取りを続けてきた結果、お客さんと共に商品が少しずつ進化しています。

ー楠木さん
「コミュニティーにまでなるか?」というのは、そのサブスクが本質的かどうかを判断する非常に良い基準かもしれませんね。サブスクは、究極的にはコミュニティーを目指すというものなのではないかと思います。

ー西井さん
メーカーが自分たちの価値観を一方的に押し付ける時代ではなくなっていると思いますが、かと言って、全員に対応するわけではなく、ある一定のペインを抱えたお客様が、コミュニティーを作りたくなるような、情報を共有したくなるような、そんな価値を作っていくことがサブスクにおいては重要なポイントだと思います。

サブスクはあくまでも「手段」なので、月額課金をゴールにしてしまうと、間違ってしまうような気がします。

ー木村さん
失敗しているサブスクは、「サブスクありき」でスタートしている感じがするものが、結構ありますよね。

ー楠木さん
商売に限らず、人間社会の問題の7割は「手段の目的化」だと思います。人間の社会というものは、手段が目的化するようにできているんですね。いつの間にか仕事の目的が「怒られないこと」になるとか。そういうものなんです。

だからこそ、みんなが手段の目的化に流れていくところで、しっかりと「本来の目的」そして「それに対する手段」この連鎖の筋を通していくというのが、経営の重要な役割だと思います。

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■登壇者プロフィール

楠木建さん
一橋大学ビジネススクール
国際企業戦略専攻 教授

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【楠木さんのプロフィール】
一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師(1992)、同大学同学部助教授(1996)、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授を経て、2010年から現職


西井敏恭さん
シンクロ社長
オイシックス・ラ・大地専門役員兼CMT

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西井さんのプロフィール】
ドクターシーラボにてデジタルマーケティングの責任者を務め、2013年末に退社し独立して、シンクロを創業。オイシックス・ラ・大地専門役員兼 CMTとしてサブスクリプションモデルのEC戦略を担当


木村祥一郎さん
木村石鹸工業社長

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【木村さんのプロフィール】
1995年大学時代の仲間数人とIT会社を起業し、以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月取締役を退任し、家業である木村石鹸工業へ。2016年9月、4代目社長に就任


大岩佐和子
日本経済新聞編集委員

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【大岩編集委員のプロフィール】
1996年入社し、流通業の取材を5年間した後、地方行政の担当に。2013年から再び流通業を取材。日経MJデスクを経て、2018年4月より現職

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