良いDAO、悪いDAO、どんなだお?
Web3領域の取り組みは、NFTの利用からDeFi(分散型金融)まで幅広いものがあるが、最近特に注目を集めているのはDAO(自律分散型組織)という概念である。これはサービスではなく、それを企画・開発・運用するための組織形態である。その意味では、どんなサービスを作るかと並行して、どんなコミュニティに参加するかということにも注目が集まっていると言っても良い。
以前にも紹介したが、BAYC、The Sandbox、UniswapなどWeb3で名の挙がる取り組みの多くが、DAO型のガバナンスを採用しており、その様子はSnapshotなどで部外者でも垣間見ることができる。
また、日本でもDAO型のシェアハウスが登場するなど、ユニークな取り組みが登場している。
DAOは基本的に誰でもトークンを入手することで参加することができるが(その技術的ハードルはあるものの)、一体どんなDAOなら参加して良いのか、二の足を踏む人も多いだろう。
そこで、今回はDAOの良し悪しということについて考えてみたい。
DAOの分類学
そんなことを考えるきっかけとなったのは、筆者もリサーチ・アフィリエイトを務めているロンドン大学ブロックチェーン技術センター(UCL CBT)での研究発表動画を視聴したからだった。
その研究とは、ミュンヘン工科大学のChristian Ziegler氏、Isabell Welpe氏らによる「A Taxonomy of Decentralized Autonomous Organizations」(自律分散型組織の分類学)という研究であり、発表の動画は一般公開されている。
発表の要旨は以下の通りである。
Nobody has ever offered a systematic taxonomy of DAOs, identifying the full spectrum of their organizational primary and secondary functional building blocks, governance, and reward mechanisms. This is important for further studies that look at how these organizational and governance structures relate to DAO performance during and after DAO launch.
(訳)DAOの体系的な分類法について、組織の第一・第二レベルの機能的な構成要素を明らかにしているものは、まだ誰も提供していない。これは、組織やガバナンスの構造が、DAOの立ち上げ中、立ち上げ後のパフォーマンスとどのように関係しているかを明らかにしようとする、将来の研究にとって重要である。
この発表では、DAOを意思決定方法や経済的な設計など、様々な観点から分類したり、クラスター分析を行っており、DAOの設計や運営方法が、その後のプロジェクトの成否とどのように関わっているかを明らかにしようとしている。(今回の発表では成否との関係までは示されていない)
まだこの研究は途上であるようだが、DAOの設計や実態に踏み込んだ研究は貴重であり、またDAOを評価する上でも重要な取り組みであろう。
DAOの変遷
その一方で、一言でDAOといってもその性質はこれまで大きく変遷してきている。もともとはビットコインのマイニングがDAOの代表的なもので、様々なノードが自律的に、分散的に処理を行う中で、共通の業務目標を達成する組織としての機能を実現してきた。
その後、スマートコントラクト機能を拡充したEthereumが登場したことで、仮想通貨の決済のみならず、様々な業務処理を自律分散的に実行することが可能になり、DAOの可能性も大きく広がった。分散型のマーケットプレイス、クラウドソーシング、ライドシェアなどのコンセプトが注目されたのもこの頃である。
その一方で、現在注目されているDAOは、トークンの保有者を中心としたコミュニティ型である。最終的にトークンの持ち高に応じた投票で意思決定を行う場合が多いが、コミュニティにおける討議も重視され、初期のDAOよりもずっと人間が介在する部分が多くなっている。そう考えると、DAOも登場から随分と性質が変わってきたとも言える。これまでの流れを整理すると、以下のように3段階に分けられるだろう(x.0という表現はあまりに使い古されている感もあるが、便宜上ということでご容赦頂きたい)
DAO 1.0 あらかじめ決められたプロトコルを自律分散的に実行することで、組織的に業務処理を実現する。業務実行における人の介在は極めて少ない。ビットコインのマイニングなど。
DAO 2.0 あらかじめ決められたプロトコルを自律分散的に実行するが、スマートコントラクトで実装することで、幅広い業務に対応する。DeFiなど。
DAO 3.0 プロジェクトのトークンの保有者によってコミュニティを形成し、トークン持ち高に応じた決定権限により意思決定を行う。業務の変更や新規の取り組みに柔軟に対応できる。ブロックチェーン/スマートコントラクトはその基盤技術として活用するが、サービスそのものを自律分散的に実装することは前提とされていない。
こう見て行くと、現在注目されているDAO(3.0)は、コミュニティと議論を重視したもので、初期のコードによる信頼に基盤を置いていたブロックチェーンの思想から見ると、3.0は人が介在する部分がかなり多く、後退した印象もあるかもしれない。ただ、1.0、2.0も消えたわけではなく、むしろ3.0はこれらも含めた「合わせ技」でもあるため、全体としては発展していると言っても良いだろう。
その一方で、DAOの良し悪しの評価が難しいのは、こうした人の介在が増えているからでもある。今までであれば、必要なことは全てコードに書いてあり、それさえ評価できれば、不確実性はかなり減らすことができた。
現代のDAOでは、それに加えて人の自由意思が果たす役割がかなり大きいため、評価すべきポイントがかなり広くなってしまっている。
誰にとって「良いDAO」か?
具体的な評価基準を考える前に、「良いDAO」と言っても、それは誰にとって良いのかという問題もあるだろう。
冒頭に述べたように、数あるDAOの中からどれに参加すればよいのか、という「参加者」の視点であれば、公平、民主的に運営されているかといったことが関心事項だろう。
一方で、そのプロジェクトの立ち上げを主導してきたメンバーにとっては、意思決定のスピードや実効性にも関心があるに違いない。また、経済的な持続可能性は両者に共通する関心事項であろう。
一方、規制当局にとっては(すなわち、このプロジェクトに直接は関わっていない人々の利害も含めて考えると)、法制度との整合性や、消費者保護、既存の様々な社会システムに与える影響などに関心があるかもしれない。
このように、一口にDAOの良し悪しといっても、誰にとっての「良い」かによっても違ってくるだろう。
DAOらしさとは何か?
一方で、立場は違えども、DAOが新たなイノベーションの担い手であり、人々がコラボレーションを行う組織でもあるという役割を考えれば、以下のようないくつかの共通的な要素を挙げることはできよう。
・イノベーションを促す創造性、そのための円滑なコミュニケーション
・参加のインセンティブの一つとなる経済的な持続可能性
・これらに関わる公平性、透明性、信頼
その一方で、徐々にDAOが通常の企業やコミュニティに近づいてきている面もある。DAOという「組織のイノベーション」という観点から、分散、自律、組織というそれぞれの側面において、どのように新しい境地を切り拓けるのか、どこまでDAOらしさを推し進められるかも、興味のあるところである。
様々なステークホルダーにとって成果が出て、使いやすく、健全なDAOという観点と、組織のイノベーションとしてのDAO、その両面で今後の展開を注視していきたい。