「東京五輪レガシー=海外コーチ」説
東京オリンピック開催前までは、「オリンピックのレガシーとは・・・」という話をよくみた。始まるまでは。。記事検索すると、開催前は識者のみなさんがあれや これや と語ってたが、開催後ほとんど忘れられてる。そもそもIOCがレガシーと言い始めたのは、"お金はかかるがこんなに良いことがあります」と、開催を考える都市にアピールする手段" だという指摘もあった。開催経費は1兆6989億円、関連経費込みでは約3兆6800億円(会計検査院2022.12)、これだけのお金を使うんだからきっとなにかが残るにちがいない的な祈りの言葉だったのか
と思っていたのだが
「団体球技、長期低迷に終止符 外国人監督・海外組けん引」(11/12)との記事に1つみつけた。結論を先にいえば、人への投資、優れた指導者への投資が、最高の投資である、という話だ。年俸100万ドルの監督が世界から集まって日本トップ選手たちを指導して、今まで「世界では戦えない」と言われていた種目で成果をあげてきたのが、その証明だ。
1964年の東京五輪レガシーの1つに、「スポ根」があったと思う。問題も大きいが、高度経済成長の真っ只中で、日本の繁栄の精神的土台になったプラスの効果が大きかったのも事実だろう。しかし来年で60年め=還暦を迎える価値感。
世界トップレベルの合理的かつ熱く鼓舞する指導法は、五輪のおかげで、日本社会に波及してゆく可能性がある。まだ実現しきってはおらず、これからの課題もある。ただ、種は蒔かれたと思う。
2017年からの外国人コーチたち
男子のバスケ・バレー・ハンドと長らく世界で戦えてなかった団体競技が、続々とパリ五輪出場を決めている。そのキーワードが「海外」だ。
3競技とも監督は外国人、選手も海外比率が高い。バスケで日本育ちのNBAプレイヤーが続々出ているのに驚いていたけど、高身長必須のバレー、ややマイナー感もあるハンドボールでも、これだけ海外経験者が多い。体格にも恵まれた選手たちが、ネットで海外情報にふれながら育ち、海外トップチームでプレーできるようになる。その経験を活かしたチームづくりを外国人指導者ができる。といった全体の流れができているのだろう。
この3監督に共通するのは、2017年=東京五輪にむけた代表チームから入っていること。
バスケのトム・ホーバス監督は前から日本に縁があり、妻は日本人、日本語も話す。1990年から実業団バスケ選手、2010年から女子バスケ実業団監督、代表ヘッドコーチに2017年から就任、2021年五輪で銀メダル獲得。パリに向けて男子にスイッチ
バレーのフィリップ・ブラン監督63才、2017年から代表にコーチで招かれ、まもなく実質的に監督をつとめて、実質2期目(2五輪め)に入った
ハンドボールのダグル・シグルドソン監督50歳、2000年から3年日本の実業団でプレーした縁はあり、2017年からパリまでの長期契約で代表監督
「世界で戦うメンタル」とはつまりは「世界で戦ってきた経験」ではないかな?
監督だけ外国人では文化ギャップも出そうだが(ホーバス監督なら日本女性を十分わかっているわけだが)、選手側にも海外経験があることで、つなぎ役も果たせそう。両輪が必要。
個人競技でも、「体格差で勝てない」とも思われいた自転車トラック種目で、外国人コーチが成果を出している。フランス出身のブノワ・べトゥ50歳は2016年から短距離ヘッドコーチ。2022年の新体制からは、主コーチ5名中、ディレクター(監督)と大人担当の2人=3人が外国人。日本人はアシスタント1+ジュニア担当1と補佐的な位置だ。
短距離ヘッドコーチのカナダ出身、ジェイソン・ニブレット40歳、コーチなのにこの身体!@@!
筋トレ(S&C)コーチも元BMXライダーの外国人で、「欧米選手との体格差」とされてきたものが、トレーニング可能なことを示しているんだろう。
ブノワ監督も休日起伏が連続する伊豆半島を一周しながら200−250kmを走ってるそう。自分でも試さないと指導はできない、とのことだ。
海外トップ指導者は年俸も高い
全体に、2018年には「東京五輪で躍進 外国人指導者に託す 脱しがらみで改革」との記事があった。
これを実現したのが資金力。ハンドのシグルドソン監督は欧州クラブから年俸1億円以上のオファーが届く中での契約。コーチ人件費としての国の助成金は15年度の13億4千万円から17年度には17億7千万円に増加。ハンドはヤマト運輸がスポンサーに入り、これは五輪効果が大きいだろう。自転車は競輪マネーもあるが、楽天が2021年からまるごと支援に入った。これも東京五輪での成果あってのこと。
これら当時の注目と高年俸とを、成果として返し、継続しているのがすばらしい。
この円安下で継続させるには、さらなる支援が必要とはなるが、少なくとも2024年夏の五輪までは大丈夫。
陸上、水泳では
「海外」というキーワードは、陸上競技では、若手育成中心に進んでいる。「ダイヤモンド・アスリート」制度のもと、第一期生やり投げ北口榛花さんのような成果を出している。9月に書いた話:
今週のニュースでは、第9期認定アスリートの澤田結弥(浜松市立高・静岡)さんが来年からルイジアナ州立大へ進学。これも協会が後押ししてようだ:
「陸上・田中希実「怒濤の1年」 五輪は2種目入賞めざす」との記事では、
とある。田中さんの世界トップレベルの中距離スピードは、高性能シューズ時代のマラソンで活かせる武器になるだろう、と最近みんなが言っている。その潜在力を現実化するために、こうした生身で体験したものが活きるだろう。
鏑木毅さんは、「ここ最近のマラソン五輪選手の多くがプレッシャーからか、当日に本来の力を発揮できずにいる」と書いていた。「世界で戦うメンタル」とはようするに、世界で戦う経験、ということだと思う。メンタルを作るのは良質な経験。
水泳は、この点が課題な気がする。逆を行っているような?
レガシーの条件=若手に引き継がれるか
「東京五輪レガシー」といえるためには、属人的でなく、かれら退任後にも引き継がれる必要がある。
いや、正しくは、「引き継がれるかどうか?」ではないな。「引き継ぐための努力をするべき」ということだ。
その方向に向かっているとは思う。合理的なスポーツ指導を求める空気感が強くなっているし、土台としてはあるだろう。部活指導員の改革などもこれから進むだろうし。
自転車トラックでも、ジュニア担当コーチは2021年に選手引退した32歳の上野みなみさんが入っているし、新世代の若手中心に引き継いでいく意図かなと思う。
NHK1月の「奇跡のレッスン」でホーバス監督が中学の女子バスケ部を短期指導していて、おもしろかった。このレベルの指導者の動画が、解説つきで、これだけ残ってくれるのも、ある意味では五輪レガシーだろう。
・・・
ちなみにパラ終了後の2021/9/12日経記事に、大会は日本に何を問いかけたのでしょうか?という記事まとめが出ている。共生、若者、企業支援、おもてなし、多様性、まあそそれはそうなんだろうけど
本当に日本社会にインパクトを与えるレベルで残るものか?と考えると、人の育て方、という大きなものであってほしい、と願う。これから人が育ててゆくレガシーだ。
結論:
立派な競技場は維持コストを残す。
立派な指導者は競技成績と次世代の人を残す。
(トップ画像は稲垣純也カメラマンのスマホ撮影品)