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「○○業」という枠組みに縛られていないか?ー発想の転換を研究しよう

2021年7月20日(火)に開催したNIKKEI LIVE「発想の転換を研究しよう」では、デジタル技術の進展で多くの企業が事業の再構築・新しい発想による新事業の構築を迫られる中、どのようにビジネスモデルの変革を行えばいいのか、どうすれば発想の転換ができるのかについて議論しました。

「世界でもっとも有力なコンサルタントのトップ25人」にも選出された経営のプロフェッショナル早稲田大学大学院経営管理研究科・ビジネススクール教授の内田和成さん、情報経済学・デジタル経済論が専門で「デフレーミング(枠組みが無くなるという意味の造語)」という概念を提唱している東京大学大学院准教授高木聡一郎さん、訪日外国人による地域活性化を目的とするインバウンドプラットフォーム事業を展開するWAmazing社長CEO加藤史子さんをゲストにお招きしてお話を伺いました。聞き手は、日本経済新聞社DXエディター杜師康佑が務めました。


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事業転換の成功事例としてよく知られている企業について、冒頭で参加者にアンケートを実施しました。「富士フイルム」が化粧品や医薬品、再生医療に事業転換した事例は、よく知られているようです。

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こちらのアンケート結果について、事業転換における重要なポイントを、登壇者の皆さんが語ってくれました。

−高木さん
富士フイルムはこれまで培ってきたフィルムや映像に関する技術が、実は化粧品の開発製造に使えると気づいたことで、事業転換が可能になったと思います。登山をやる方はご存知だと思いますが、「三点支持」という言葉があります。手と足を同時に動かすのではなく、1点だけを動かして、他の3点はしっかりと残しておくのです。事業転換ではこれが重要で、自分たちがもっているリソースとコンテクストのどちらか一方だけを動かすことから始めることだと思います。まず、自分たちがもっている技術を今までとは違うコンテクストで使ってみる。次に、同じコンテクストの中で違う技術を獲得していく。さらに、コンテクストを変えていく。このように、片方だけを動かしながら転換して広げていくことが重要だと思います。

−内田さん
私は事業転換がうまくいくことには、「運」もあると思っています。例えば、富士フイルムの場合は、古森さん(富士フイルムホールディングス古森重隆最高顧問)にかなりの先見性があり、フイルムはもうダメだからと液晶に転換したことや、ゼロックスを子会社化したことなど、非常に戦略的だったと思いますが、任天堂の場合は、戦略的にやったというよりも、たくさんのトライアンドエラーの中から偶然当たったものが出たようにも感じます。「こうすれば必ず成功する」ということではなく、他社よりも早く問題に気づいて、それに対して手を打って、ダメなら他を試す。そのようなトライアンドエラーをどれだけたくさん、どれだけスピード感をもってやれるか、ということが実は重要なのではないかと思います。その中から何が大化けするかは、「運」に左右されるところがあるのではないかと思っています。


インバウンドビジネスを展開している加藤さんは、コロナの影響で海外からの旅行者がゼロになった後、新規の事業を立ち上げることで、引き続き最高売上げを更新していると言います。

−加藤さん
私たちは、そもそもインバウンド旅行者に向けたサービス展開を行っていましたので、インバウンド旅行者が日本に来ることが前提のビジネスモデルになっています。コロナの影響で2020年春からインバウンド旅行者はほぼゼロになり、売上げは2020年1月と比較して4月には98%ダウンになりました。私たちは急遽2つのサービスを新規に立ち上げて、昨期、今期と、最高売上利益を更新することができました。

ベンチャーの業界には「ランウェイ」というものがありますが、これは預金の金額と月々の赤字額を割ると出てくる企業寿命のことです。それが明確になるということは、「時速100kmで高速道路を走っていたら、いきなり100m先から道路がなくなった」という感じなんです。企業寿命を明確にすることで、危機がある程度見えてきます。いつまでに決断をしなければ、1日あたり何百万円単位で流出していくということもわかってきます。そうすることで、「死神に追いかけられれば誰でも全速力で走る」という状況を作っているところはあると思います。


さらに、参加者の方から寄せられたお悩みに、登壇者の方々が公開コンサルをする形の質疑応答も行われました。

参加者からの質問:大手百貨店勤務です。コロナ禍で対面販売の売上げが減少し、顧客の高齢化も進んでいます。これまでのやり方では事業が継続できないのではないかと考えています。発想の転換のヒントを教えてください。

−高木さん
新潟県三条市は今、キャンプ用品の一大集積地になっています。ここはもともと金属加工のクラスターがあった場所です。金属加工の技術を使って、クオリティの高い製品の試作を作り、生産もできる。このことが強みとなって、スノーピークなどのアウトドアブランドやメーカーがどんどん集まり成長していったわけです。高い生産技術やデザイン技術などは、少し視点を変えると非常に高価格帯で取引される製品に転換することができるケースが少なくありません。1つの参考になる事例ではないかと思います。

参加者からの質問:飲食業をしています。コロナ禍で客数は減りましたが、デリバリーと協力金でなんとか耐えている状況です。店舗を活かした形で別の業態を考えていますが、何か良い事例はありますか。

−内田さん
具体的なアイデアはいろいろとあると思いますが、今、コロナで困っている経営者の方から相談を受けるときに、「リーダーは2つのことを考えなくてはいけない」と私は言っています。1つは、今日をいかに生き延びるか。もう1つは、生き延びた先に何があるのか。今日を生きる話と明日を作る話を、経営者は両方やらなければいけないと思います。例えば、デリバリーをやったとして、今日を生き延びるためなら徹底的にコストダウンして容器は使い捨てにして、利益を稼ぐことを考えればいい。でも、これからもずっとデリバリーをやっていくとなると、やるべきことはコストダウンではなく、競争に耐え得るデリバリーの商品開発だと思います。今日生き抜くためのことに関してはすでにいろいろとやっていると思うので、明日を作る戦略をやるといいと思います。

参加者からの質問:コロナ禍などの緊急事態における事業転換ではなく、平常時でも発想の転換ができるようにするコツなどがあれば教えていただけますか。

−加藤さん
自分たちは「何屋だ」というところを、もっと柔軟に捉えてもいいように思います。よく「○○業」という言い方をしますが、顧客にとっては関係のないことです。ANAがウェディングをやってもいいわけですよね。私たちも、「通信業」と言われることもありますが、「第二種旅行業」でもあり、「小売業」でもあります。「○○業」という枠組みに縛られるのではなく、単純にお客さんに価値を感じてもらえるところはどこなのか、そのような考え方をすると発想の転換につながるのではないかと思います。

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内田和成さん
早稲田大学大学院経営管理研究科
(ビジネススクール)教授

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東大工卒。慶大大学院経営管理研究科修了(MBA)。日本航空を経て、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)へ。2000年6月から2004年12月までBCG日本代表。2006年「世界でもっとも有力なコンサルタントのトップ25人」(米コンサルティング・マガジン)選出。同年から現職。著書に『異業種競争戦略』『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)など。


高木聡一郎さん
東京大学大学院准教授

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国際大学GLOCOM主幹研究員を兼務。国際大学GLOCOM教授等を経て2019年より現職。これまでにハーバード大学ケネディスクール行政大学院アジア・プログラム・フェローなどを歴任。専門分野は情報経済学、デジタル経済論。主な著書に『デフレーミング戦略 アフター・プラットフォーム時代のデジタル経済の原則』(翔泳社)など。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。


加藤史子さん
WAmazing社長CEO

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慶應SFC卒業後、リクルートで新規事業立ち上げに携わった後、観光産業と地域活性のR&D部門で主席研究員として調査研究・事業開発に携わる。2016年7月、訪日外国人旅行者による消費を地方にもいきわたらせ、地域の活性化に資するプラットフォームを立ち上げるべくWAmazing株式会社を創業。


杜師康佑
日本経済新聞社DXエディター

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2010年入社、新潟支局を経て自動車や化学、エレクトロニクス分野を取材。2019年から大阪本社でエネルギーや機械、スタートアップなどを担当。日本の組織に合ったデジタルトランスフォーメーションのあり方を模索。

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