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従業員が会社に要求を突きつける時代のリーダーシップ

前回の記事では、欧米で増えている「従業員アクティビスト」について取り上げた。従業員が自らの所属する企業に対して、社会的課題の解決に貢献するように協同して働きかけるのが「従業員アクティビスト」だ。現状では、個人主義と自己主張の強い文化的背景のある欧米だから起きている現象だとみる向きもあるだろう。しかし、社会的問題の解決に対して強い関心を持ち、可能であれば自らも貢献したいと考える個人は多い。特に、子育て世代のように自分の子供たちの将来に対して不安を感じる層は、潜在的に自らの問題意識について発言したいという欲求を持ちやすい。
それでは、このような従業員に対して経営者はどのような対処をすべきだろうか。本稿では、「従業員アクティビスト」に対して経営者が発揮すべきリーダーシップについて考えてみたい。

従業員が自社を誇りとするために社会課題に向き合う

日経新聞の引用記事にあるように、従業員が企業に求めるのは「誇れる会社であるかどうか」だ。特に、ここ10年で従業員が「自社を誇ることができるか」が重要視されるようになってきた。

例えば、2018年に大ヒットとなったフレデリック・ラルーの『ティール組織』では、企業の「存在目的」を明示化して、企業活動との一貫性を持たせることの重要性が語られた。従業員が企業の「存在目的」に共感し、「存在目的」の達成のために従業員が経営者の様に動くことができる組織の在り方が提示されていた。
また、アクセンチュアの働き方改革の軸となった project PRIDE も一例と言えるだろう。その名が指すように従業員が自社に誇りを持つことができる組織作りができているのかが要諦となった。

良質な意見を従業員から引きだす6つの指針

経営学の文脈で、従業員アクティビズムが注目されるようになったのは「経営者が事業運営上の危機を察知するために従業員から如何に意見を吸い上げるのか」という研究から派生している。組織の上に立つ者にとって、好ましくない情報こそ歓迎すべきだということはよく知られていることだ。古くは論語の時代から、上に立つものの心得として指摘されている。しかし、実際に歓迎できる人は少ない。
諫言を好み、名君として知られたのは唐王朝の2代目皇帝である太宗だ。貞観の治と呼ばれる太平の世と築き、特に魏徴からの諫言を好んだ。その言論は『貞観政要』に多く収められている。

従業員から社会的課題に取り組んで欲しいという声があがるということは、企業の在り方と社会の在り方にそれだけ大きな隔たりができているということだ。隔たりがあることを認め、そのうえで企業としての対応を決める必要がある。しかし、良質な声を得るには、経営者として注意しなくてはならないことが多々ある。

ハルト・ビジネススクールのメーガン・レイツ教授によると、良質な声を得るための6つの指針が提示されている。
第1に、従業員が自分の意見を信頼できるようにすることだ。なにか問題を目にしたとしても、多くの従業員は「自分の判断は間違えているのではないか」「この問題について意見するにはもっと相応しい人がいるのではないか」と自分で自分の意見を消してしまう。そのため、どのような些細なことでも声を挙げて良いのだと、自分の気づきに対して信頼できるように促す必要がある。
第2に、声を挙げることのリスクを減らすことだ。従業員が経営に対して意見をすることは、多くのリスクをはらんでいる。解雇されるかもしれないし、出世に響くかもしれない、周りから余計なことをするなと非難されることもある。このようなリスクがないことを示さなくてはならない。これは、近年注目を集めている「心理的安全性」と近しいだろう。
第3に、社内の政治や力関係を理解することだ。声をあげたとしても、適切な内容を、適切な相手に対して発信しなければ効果を発揮することはない。そのため、声を挙げる人は社内事情について精通する必要がある。
第4に、肩書を活用することだ。従業員が声を挙げるとき、それを判断する人は相手に対して多かれ少なかれアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見・思い込み)による影響を受ける。例えば、若い新入社員が声を挙げるよりも、社内で有力なポジションにいる管理職が声を挙げたほうが同じ内容を言っていても影響力は全く異なる。そのため、意見を挙げる人間の肩書を理解して、権威付けをどうするのか考えなくてはならない。
第5に、意見をどのように伝えるのか、方法を考えることだ。素晴らしい指摘だったとしても、時と場所と言い方が適切ではないと相手に受け入れられることはない。意見を出す従業員は、経営者が受け入れられるように伝え方を工夫することになる。
第6に、来るだろう未来の変化に目を向けることだ。特に、高確率で将来訪れるであろう変化を把握し、それに対して、どのように向き合っていくべきか意見を述べる必要がある。気候変動や食糧危機、地方の人口減少、東南アジアの経済成長と日本の国際的地位の低下など、これから起こるであろう未来の変化は数多くある。これらを洞察し、従業員が意見を発し、経営者がその声を拾いあげる仕組み作りが必要だ。

時代の変化スピードが早い世の中で、VUCAと言われるように不確実性が高いのが現代のビジネス環境だ。そのような中、自分の未来に対して思いを持ち、できることならば自分の仕事を通じて社会的課題の解決に貢献したいという思いを持つ従業員が増えている。特に、個人からの情報発信がSNSによって容易となった現代社会では、このような個人の声を軽視することは企業にとってもリスクが大きい。
また、経営者にとって、時代の変化と組織の在り方のギャップを知り、組織内の将来の不安事項についていち早く察知することは重要だ。そして、経営の不安事項の種にいち早く気が付くのは、現場で働く従業員であることが多い。そのような危機にいち早く気が付いた従業員の声を聴くことは、組織の上に立つ者にとって紀元前からの課題だ。
そのような企業の将来の危機を事前に察知し、対策を講じる手段として、従業員アクティビストを活用することで、従業員が自社に誇りが持てる組織作りにつながり、事業にとっても重要な意思決定を下すことができるのだ。

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