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「DXで非人間的な仕事を取り除く」ー【COMEMO KOLインタビュー】広木大地さん

日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)広木大地さん。企業がデジタル化を進める支援を行う株式会社レクターで取締役を務められています。ソフトウェア技術者と組織経営コンサルタントが重なる領域での問題解決に取り組むという新しいビジネスでご活躍中の広木さんに、今のお考えに至った背景や思いをCOMEMO部の棚橋、安藤、坂東、大塚の4人が伺ってきました。

【COMEMO KOLインタビュー】は、日経COMEMOにご参加くださっているKOLにどのような方がいらっしゃるか、その思いやルーツを伺いつつ人となりをご紹介していくインタビュー連載企画です。今回は、先日、日本経済新聞本紙「私見卓見」に記事が掲載された広木さんにご登場いただきました。広木さんの記事「2つのDXでデジタル化を」はこちらです。


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広木大地さんのプロフィール
株式会社レクター取締役。ソフトウェアエンジニア、アーキテクト、技術組織アドバイザリーの顔をもつ。著書「エンジニアリング組織論への招待~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング」は、「技術書大賞(翔泳社)」と「ビジネス書大賞(ブクログ)」の二冠に輝いた。日本CTO協会理事も務めている。
COMEMO部……日経とnoteが共同運営するオンラインサロン「Nサロン」のメンバーで立ち上げた部活。COMEMO好きなメンバーが集まって、COMEMOを応援する活動をしている。


―(棚橋)普段、株式会社レクターではどのようなお仕事をされているのですか?

レクターでは、デジタル技術を扱うソフトウエア技術者がいる企業に、マネージメントや経営戦略のアドバイスをしたり、ときにはコンサルティングをしています。コンサルやマネージメントが本業の専門家がやったほうがうまくいくのでは?と思われがちですが、技術的なものづくりの肌感覚がない人が技術者を多く抱える企業の経営支援をしようとしても、距離ができてしまうことがあります。

レクターは、もともと事業会社の技術系のトップを経験した人間の集まりです。技術開発の現場の感覚とのズレが少ないことが大きな強みです。

デジタル技術を使って事業をすることが当たり前の時代になりましたが、その経験をもっている人はまだまだ少ないです。私も含めレクターの仲間は、最初は手探りで「他の会社の人はどうしてるんだろう?」と、コミュニティーベースで学び合ったりしてノウハウを手に入れてきました。まだまだ世の中にヘルプが少ない状況なので、そういうものをもっと多くの人に還元していきたいと思っています。

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―(棚橋)日本CTO協会の理事も務めていらっしゃいますが、その経緯をお伺いできますか?

技術開発の現場感覚をもって組織経営ができるノウハウをもっている人が、日本にはまだまだ少ないような気がしています。

例えばシリコンバレーでは、デジタル事業を立ち上げて経営と技術開発の間で苦しんだ経験のあるCTOやCEOが、2周目、3周目という形で事業を立ち上げるようになっています。すると、すでに1回経験して知見が溜まっているので、同じ問題でつまづかない。当たり前のこととして問題に対応できるので、とてもスピーディーに成長していけます。

このように、誰かが経験したものは2回同じミスが起こらないようにその経験値を溜めていかないと、限られた資源で日本が中国やアメリカ、東南アジア圏などの多くの国々に対抗する能力がなくなってしまうなと思いました。自分たちのノウハウを、もっと影響力のある形で皆さんに公開していけないかと思い、CTO協会を作ることにしました。

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―(棚橋)レクターやCTO協会での活動のように、技術と組織経営が一体となった問題解決の必要性を感じるようになったきっかけは何ですか?

もともと私は株式会社ミクシィにいましたが、私が入社した頃にミクシィがやっていたのがプラットフォーム戦略でした。プラットフォーム戦略というのは、実は組織戦略やリソース調達戦略の一環なんです。

例えば、「Netflix」はコンテンツを買う(調達する)ところから始めています。今は自社コンテンツも作っていますが。すべて自社で作れば100%利益になりますが、調達すると利ざやは減ります。しかし、これにより多くのリソースを調達できるようになります。調達のためにプラットフォームを作り、その上にコンテンツを展開するためのプログラムも用意する。すると、利用する側はシステムを開発する必要はなく、上に乗っかればいいだけ。その分、発想の自由度が上がって、マーケットが広がって、人が集まってきて……利ざやは減りますがトータルでの金額は大きくなる。これがプラットフォーム戦略です。

実はこの方法は、技術と組織経営の現場で起こるさまざまな問題を解決できる方法でもあるんです。個別に調整したり判断することが増えるほど、現場の生産性は下がります。意思決定がシステムによって自動化されていくと現場は生産性を発揮しやすくなる、これが組織とシステムの関係なんです。ミクシィでのこのような仕事が、今の仕事にもつながっていると思いま

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―(棚橋)組織の意思決定が遅くなってしまう理由は、それがシステムによって自動化されていないからというお考えでしょうか?

もう少し複雑な要因があると思っています。早いサイクルで開発してイノベーションを生み出そうとするとき、一番早いのは自分で意思決定できることか、隣の人に「これはどうしたらいい?」と聞いてすぐに決定できることです。でもこれが、資料を作って、上司に提出して、月に一度行われる承認会議を通して……となるとどんどん遅くなってしまいます。

こうなる背景には、失敗してはダメで、失敗しないように厳重に管理しなければならない、ということがあります。「厳重に管理する」ことの大半はシステムによって自動化できる可能性があるのに、これを「人の目でチェックする」とか「何回も手作業でやる」としていると、非常に遅い開発スタイルになってしまいます。

文化と組織とシステムが一体となって、意思決定はどんどん遅くなっていきます。


―(棚橋)ご著書「エンジニアリング組織論への招待」を書こうと思ったきっかけについて教えていただけますか?

文化と組織とシステムが一体となって意思決定が遅くなる背景には、自分のアイデンティティとなっている事柄が、機械に置き換えられて無価値化されていくことへの恐怖があると思います。でも、技術系のスペシャリティである人ほど、機械にできることの限界をよく知っています。知らない人は、そのことをよく知ろうとせずに、ただ未知のものから逃げたいと思っているだけです。

様々なことがめまぐるしく変わる時代の中で、不確実なものから逃げようとすればするほど、事態はどんどん悪くなっていきます。そうならないようにしましょう、というのが私が本を通して伝えたかったことです。

そのことをゼロから説明したいと思ったので、本には歴史的な話も書きました。今起きていることを理解するには、歴史を見ればいいからです。開発者だけの話ではなく、経営哲学や科学哲学の話を歴史から紐解くように理解してもらえば、そんなに難しいことではないと私は思っています。

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―(棚橋)2つのDXについてCOMEMOに投稿されていますが、企業がDX化を進めていくためにはどんなことが必要だとお考えでしょうか?

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「デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)」とは、企業がデジタル化して競争優位性を確保していくこと。

私は、技術革新によって起こることは、人間から非人間的なことが取り除かれることだと思っています。例えば今の時代、かまどで米を炊いたり、洗濯板で洗濯をしたりはしません。昔は、家庭を維持するために、女性がずっと家事に張り付いていなければなりませんでした。今の時代から見れば、とても非人間的なことです。炊飯器や洗濯機ができたことは「人間から非人間的なことが取り除かれた」と見ることができます。

炊飯器で炊くご飯には人の温かみがないとか、炊飯器を使って楽しようとするなんてとんでもないとか、実際に言われていた時代もありました。企業がデジタル化をしていくことに、白物家電によって女性が家事から解放された構図と同じものがあると見れば、企業の中から非人間的な仕事が取り除かれていくことが「デジタルトランスフォーメーション」だと言えるということです。

「デベロッパーエクスペリエンス:開発者体験(DX:Developer eXperience)」とは、開発者がスムースに価値創出をしやすい環境とソフトウェア開発の自動的なパイプラインを確保していくこと。

「デジタルトランスフォーメーション」を実現するためには優秀なソフトウェア技術者が必要です。この流れが企業の中に加速すれば、優秀なエンジニアの人材確保は競争が激しくなり、「デベロッパーエクスペリエンス」が低い会社はエンジニアの採用がどんどん難しくなるはずです。

そうなると、なんとかして「デベロッパーエクスペリエンス」を高めようという流れが起こってくるでしょうが、そのためにはシステムによって自動化した人をきちんと評価する体制が会社の中にあることが必要です。私はまず、その認知を広げていきたいと思っています。

「いいエンジニアが集まらない」「採用したエンジニアがすぐにやめてしまう」という問題が起こるのは、会社や管理職に魅力がなかったり、魅力ある仕事や仕事環境を提供できていないからです。システムによって自動化すれば仕事が減りますが、それを「楽すること」「怠けること」と考える価値観の中では、エンジニアはモチベーションを上げて仕事をすることはできません。自動化によって生まれた時間で、より本質的で重要な仕事ができるようになることは「企業の生産性が上がること」だと理解するところから始める必要があるのです。

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技術革新によりデジタル化するということを、何か「悪いこと」として捉えている人が多いとお話ししてくださった広木さん。デジタル化によって起こることは「人間から非人間的なことが取り除かれること」という優しい発想で向き合う姿勢に、とても心を打たれました。今後も広木さんの活躍が広がって、どんどん優しい社会になっていけばいいなと思いました。


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