外国人の門前払いはいつ終わるのか

インバウンド全面解禁はパンデミック脱却の好機
先日の寄稿では岸田首相が訪英の際、資産所得倍増プランを打ち上げたこと、それにまつわるあやうさが為替・金利面からあることを議論しました:

そのタイミングで岸田首相は「鎖国」と揶揄される水際対策を緩和する意向にも言及しました:

但し、観光目的の外国人(いわゆるインバウンド)の新規入国は「少人数のツアー」に限定すると言ってみたり、その後の民放番組のインタビューでは「実証事業」というフレーズを使ったりしており、あくまで完全な正常化は拒む姿勢も滲み出ます。「日本人が海外へ往来するのはOKだが、その逆は駄目」という理屈はもはや水際対策の理屈として破綻しており、諸外国から見れば単なる日本の我侭でしかないでしょう。限定無しに即全解除が常識的な対応だと思います。

また、インバウンド全面解禁は外圧によってガラパゴス化した防疫政策の在り方を見直し、成長率の復元に弾みをつける好機にもなるはずです。炎天下の屋外やスポーツジムでもマスク着用に固執する日本の状況は世界的に見ても異様であり、これを海外から来た人々に強いるのは無理筋です。他ならぬ岸田首相が外遊先でマスクの着用を避けていました。岸田首相はこれに関し「海外出張先・相手国のルールに沿って対応」した結果だと弁明している。もはやマスク脱着議論は国民的関心事になっているように見えます(はっきり言って海外の人から見ると不気味だと思いますが):

いずれにせよ、今の日本ではマスク着用緩和を推奨するのが岸田政権の基本姿勢なので、外国人旅行客に対しこれを強いるところまで既定路線という話になります。まさか空港で「おもてなしマスク」でも配布するのでしょうか。もはや日本社会の防疫意識は自浄作用が働かなくなっているようにも見え、インバウンド全面解禁とセットでこれを修正するのが賢明に思えます。もちろん、日本がコロナで閉じ籠るのは自由ですが、その上で「岸田に投資を(Invest in Kishida)」はあまりにも無理があります。開かれていない国に投資マネーが寄り付く筋合いはありません。
 
円安抑制と景気浮揚というメリット
なお、インバウンド全面解禁はこうした防疫政策の正常化も促すほか、岸田政権の標榜する「新しい資本主義」(具体的には分配)にも貢献する話でしょう。日本に来てくれた外国人旅行客は全国に散らばり、消費・投資をしてくれると思います。拡張財政に依存した「GoTo〇〇」に類する政策よりも、よほど健全に飲食・宿泊・旅行業界をバックアップする効果が見込めるでしょうし、それ自体が地方活性化策にもなるはずだ。分配政策に関心を抱く岸田政権にとって悪い話ではないはずです。

しかし、インバウンド全面解禁に伴い最も期待されるのは円安抑制と景気浮揚にまつわる効果でしょう。この点は議論の余地がありません。仮に円安による輸入物価上昇(それに伴う実質所得環境の悪化)を食い止めたいのならば、インバウンド全面解除に伴う旅行収支黒字の復活は王道です。国内生産拠点が失われ円安でも「財の輸出」が増えなくなった日本が「サービスの輸出」である旅行収支(の受取)で外貨を稼ごうとする。これは普通の話です。稀にこうしたサービス輸出の話を強調すると嫌中感情と結び付けてアレルギーを持つ向きがあるようですが、冷静になって貰いたいと思います。

「悪い円安」というフレーズが跋扈しているのはひとえに多くの国民が円安のメリットを体感できないことに起因しています。通貨安には当該国の競争力を相対的に改善させることで収益機会が増えるというメリットがある一方、輸入財の価格が上昇するというデメリットがあります。現状、メリットは鎖国政策で自ら打ち消し、デメリットだけが残る状況にあるのだから「悪い円安」と呼ぶ世間の胸中も理解できます。このままで良いのでしょうか

日本の旅行収支黒字は2015年に約+1.1兆円と暦年ベースでは初の黒字に転じ、その4年後の2019年には約+2.7兆円と3倍弱まで膨らんでいました。図に示すように、当時の勢いを考えれば、パンデミックさえなければ過去最高の黒字を更新していたはずです:

より具体的な数字を見てみましょう。2021年通年の経常黒字は約+15.5兆円とコロナ直前の5年平均(2014~2019年)の約+19.9兆円と比較すれば4~5兆円ほど下振れています。恐らく2022年はもっと小さくなる可能性があります。下振れの原因は言うまでもなく貿易赤字の拡大であり、それは実際に円売りフローが増えたことを意味します。

過去の実績を踏まえる限り、旅行収支黒字(2019年で約2.7兆円)はその貿易赤字により増えた円売りの小さくない部分を吸収するイメージになります。需給が円売り超過に傾斜していることが円安相場の背景と言われている以上、一定の歯止めとしては期待できるでしょう

ちなみに円安抑止と同時に景気浮揚効果も期待されます。観光庁発表の訪日外国人消費額は2019年時点で約4.8兆円と7年連続で過去最高を更新していました。実質実効ベースで半世紀ぶりの円安になっているということはインバウンドにとってそれだけ日本の物価が「お得」に映っているはずなので、消費額はさらに増える可能性があります。パンデミックを経てインバウンドが日本で発揮する購買力は相当パワーアップしていることも加味したい。

以上を見るだけでも、インバウンド全面解禁には①防疫政策の正常化、②分配の強化、③円安抑止と景気浮揚といったメリットが想定されるように思えます。一方、デメリットは「変異株が持ち込まれる」という感情的で検証の難しい論点です。それが本当に大きなリスクならばなぜ世界的に皆、そうしていないのでしょうか。

本格的に「Invest in Kishida」を成就させたいのであれば、いつまでも日本に入って来ようとしている外国人をばい菌扱いして門前払いする行為は百害あって一利なしであり、1日でも早く取りやめるべきだと考えます。

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