事業転換をどう実現するか デフレーミングのアウトワード・インワード戦略
高まる事業転換への関心
デジタルトランスフォーメーション(DX)への関心は引き続き高い。それと同時に、単にデジタル化を進めるだけでなく、事業そのものをどう転換していくかということに、関心が高まっているように感じる。
特に、長期にわたるコロナ禍による事業活動の制約、EV化等による技術的優位性の変化、プラットフォームの普及による業界構造の変化など、これまでの事業を継続することが、もはや当たり前ではなくなりつつある。
ボストン大学のヴェンカトラマン教授は、DXについて5段階のフレームワークを示しているが、その最も高いレベルは「Business Scope Redefinition」(ビジネススコープ再定義)とされている。現場でのデジタル活用も重要ではあるが、デジタルを用いてどのように自社のビジネスの範囲や、社会提供できる価値そのものを変革していくかが、新たな焦点になりつつある。
ただし、上記のフレームワークでも、どのように再定義すればよいかということまでは明確ではない。ビジネススコープの再定義について、具体的な方向性と方法論を示しているのが、デフレーミングである。これまでも取り上げてきたが、従来の枠組み(フレーム)をあえて壊し、柔軟に組み替えていくことで、新たな事業ドメインを作っていくことができる。
今回は、その具体的な方法についてより深堀してみたい。
デフレーミングのZ型プロセス
デフレーミングの時代においては、事業の幅を少しづつ広げながらシェアを拡大していく戦略と異なり、一度何かの事業に特化し、一点突破で大量のユーザーを獲得する。そこからデジタル機能の観点で親和性が高く、ユーザーにとってもメリットのある異分野の業務と組み合わせながら、範囲を拡大していく。これがデフレーミングのZ型プロセスである(下図)。
こうしたデフレーミングのプロセスは、アリババやテンセント、LINEなどの成長過程で顕著に見ることができるが、最も先端を走ってきたのはAmazonである。
Amazonは多くの人が知る通り、オンライン書店としてスタートした。このん段階では、他の書店(バーンズ&ノーブルなど)と同じ業界に位置していたが、その後家電・カメラ、パソコン用品、食品など多くの分野の小売業を取り込んで、総合ECサイトとなった。
また、Kindleなどの電子書籍、Prime Videoなど、扱っていたコンテンツのデジタル版のプラットフォームとしても大きく成長した。その結果、以下のようにAmazonの業態は、過去のどのような業界にも区分されないものとなった。
それは、異分野との統合を続けて範囲を拡大していった結果であり、Z型プロセスで言えば右下の最終形態とも言える。
2週目に入ったAmazonのデフレーミング
しかし、Amazonのデフレーミングはこれだけでは終わっていない。今度は今までとは異なる角度から、自社の機能を分解し、それを外部に提供し始めているのである(下図)。
一つは、フルフィルメント by Amazonという事業であり、マーケットプレイスを利用する小売店に対して、Amazonにおける販売で培った共通機能を提供するものだ。
上記の説明の通り、小売店はAmazonに商品を預けておけば、売れた後の業務を全て代行してくれる。もう一つがAmazon Payである。これは、決済サービスを他のECサイトに提供するものである。Amazon以外のサイトでの買い物を支援する形になるためライバルへ機能を提供する形になるが、ユーザーとしては一度登録したクレジットカードや配送先の情報を、サイトごとにいちいち登録しなくてよいのでメリットがある。
このように、Amazonは商品種別(上図における縦のライン)で異分野と統合して範囲を拡大していったあと、今度は共通機能(横のライン)で業務を分解し、外部に提供しはじめている。Amazonのデフレーミングは2週目に入っているのである。
切り出し、取り込む。アウトワード&インワード戦略
デフレーミングについて企業関係者に話をすると、「どう業務を分解し、組み替えて行けばよいのか」と聞かれる。具体的なアイデアは業界ごとに異なるため、個別に相談頂ければと思うが、共通的には以下の考え方が参考になるだろう。
多くの企業が行っているビジネスは、「コンテクスト」「ファンクション」「リソース」の3つのレイヤーに分けることができる。「コンテクスト」は何のために、誰のために行っているのかという文脈を規定するもので、所属している業界や、想定している顧客、あるいは解決しようとしている問題といっても良いだろう。
「ファンクション」はそのためにどのような機能を提供するかである。物品販売の機能、物流の機能、あるいはコンサルティングの機能など、様々なものがあるだろう。
そして、「リソース」はその機能を実現するためにどのような資源を使うかである。人材はもちろんのこと、オフィスなどの空間、倉庫や車両、工場設備やコンピュータなど、様々な資源があり得る。
通常はこれらの3つのレイヤーは互いに固く結びついているが、この関係を一度ほぐし、バラバラにしてみることから考えると良い。すると、Amazonのようにペイメントやフルフィルメントなど、従来は付随的に考えていた機能がビジネス化できることが出てくる。
コロナ禍の中で、タクシーがデリバリーに進出したり、飲食店が店舗の空間を別のところに貸し出したりすることが見られたが、これらもこうした分解的なプロセスから出てきたものだろう。
そして、この分解と組み換えのプロセスには、「内から外へ」というアウトワードの方向と、「外から内へ」というインワードの方向がある。
アウトワードは、Amazonのペイメントやフルフィルメントに見られるように、自社の機能の一部を切り出し、別のコンテクストで活用できるように提供するものだ。既存企業の場合は、この方向が検討しやすいかもしれない。
インワードは、別の企業や業界で行われていることを分解的に解析し、その中から自社と親和性の高いものだけを取り込む。この場合、GoogleがYoutubeを買収したように、既存のビジネスを買収することもあり得るが、他業種の取り組みを概念的に分解したうえで、自分たちでその機能を作り出すこともできる。
そうして取り込む機能は、自社のコンテクストに比較的合うものが選ばれる場合が多いと思われるが、重要なことは(潜在的な顧客を含め)顧客のシームレスな体験や、それを実現する上での機能的な親和性の高さにフォーカスすることである。業界の常識や範囲にとらわれることなく、顧客と機能に焦点を当てることで、今までとは異なるコンテクスト、つまり事業ドメインが生まれてくるだろう。
こうして、冒頭に示した「ビジネススコープの再定義」を行うことができるのである。
事業環境の変化の中で、デジタルを活用しつつ新たな事業へと転換していく必要性は語られていても、どこから手を付けて良いか分からない人も多いかもしれない。
そんな時には、このデフレーミングのアウトワード&インワード戦略を試してみてはいかがだろうか。
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