意味づけをする人がリーダーになるー「東京グローバルイノベーションビザ」に首をかしげる理由。
東京都が国へスタートアップ創出のための提案をしたようです。
そして、ネットを眺めていると、東京版HPIビザの内容が「世界の趨勢を知らない人たちの発想」と指摘する人たちがいます。以下の資料で示している条件が火種になっています。
「大学ランキングの10以内に日本の大学ないじゃない。で、外国人にそれを求めるわけ?」「そんな優秀な人で日本語能力を求めるって何?そういう人が日本に来ると思っているの?」というのが、それなりに日本以外の事情に敏感な人の反応です。
ぼくも、それらの人の意見にまったく同感なのですが、もう一つ別のことも考えました。こうした国への提案をつくる人たちは、「意味づけをする人がリーダー」ということを考えているだろうか?と。さらにいえば「意味づけができる人たちがルールメーカーになるのだ」と認識しているだろうか?と。
この根っこをおさえておかないと、こうした世界を視野に据えたスタートアップ促進の話がとても危ういものになりそうです。
意味付けする人とは?
話の前提として、ダイヤモンドオンラインに連載している『「意味のイノベーション」で社会はどう変わるのか』2回目で書いた内容を紹介します。まず、以下のチャートをみてください。ソーシャルイノベーションにデザインを持ち込んだ第一人者であるミラノ工科大学名誉教授のエツィオ・マンズィーニが、著書'Design, When Everybody Designs'のなかで紹介しているチャートをベースにしています。
この十数年間、デザインの活用が問題解決に比重がおかれ過ぎ、センスメイキング側への適用が不十分であったと指摘するのがストックホルム経済大教授のロベルト・ベルガンティです。チャートの右側への重視し、「意味のイノベーション」を提唱します。
特に彼は経営学者として右上の聴衆に対してものを言いながら、右下をも強く意識しています。他方、マンズィーニは特に下半分に注目する大切さを説いています。今やどのようなビジネスでも、下半分、ことに右下なしに成立しずらくなっています。この視野の転換は必須事項です。
さて、センスメイキングとは自らの動機で目標を決めていくことでしょう。「私のプロジェクト」を起点にしているためオーナーシップを持ちます。結果、この人がおのずとダイナミックに事柄を動かすリーダーシップを発揮することになります。
つまりは意味付けをする存在であるとき、「その人はリーダーシップを担っている」のです。
なぜ、意味付けをする人を視野に入れないといけないのか?
どうして東京都の人たちが、こうしたことを視野に入れないといけないのでしょうか?
ぼく自身の現在の関心でいえば、「小さくても成り立つ経済に夢を感じる」で書いたように、小さな経済圏を拠点に最終的に社会によりインパクトを及ぼす可能性に興味があります。ですから個人としてはこちらにエネルギーと時間を注ぎたいですが、世界の大きな市場で勝負したいと思う人たちが集まる場が日本、あるいは東京にあれば良いなとは、もちろん、思います。
そのとき両者に共通して鍵になるのは、センスメイキング側のウエイトです。欧州の今どきの若い人たちと話していると、気の利いた人ほど、こちらサイドに関わることに関心が高いです。「意味のないことには力を使いたくない」と。なぜなら、新たな意味ある枠組みを提起して、ルールメイキングでもリーダー的な役を担える方が圧倒的に面白いと思う人が少なくないのです。
若い世代の優秀でかつ感性に優れる人は、意味のあることができるならば、どこにでも飛んでいきたいと思うでしょう。
問題解決を無視しろ!ではなく、センスメイキングを視野に入れろ!ということ。
言うまでもなく、問題解決とセンスメイキングを比較してどちらが上かという話ではありません。どちらも大切で、かつ、問題解決とセンスメイキングはお互いに関係をもちながら考えられるものです。
ですから「問題解決を無視しろ!」という話ではなく、ちょっとしつこく説明すれば「センスメイキングを無視した問題解決には魅力を感じない傾向が強まっている現実を見よ!」ということです。
一方、東京都の提案を見ていて、この点を抑えているかどうかが気になります。資料の記述をみる限り分かりませんが、英国の高度人材のためのビザ取得より敷居をあげているところを見ると、東京都はスペック志向が強いです。問題解決にウエイトがあるのでは?と想像するに十分な条件です。
ぼくの杞憂であることを祈りたいです。
写真©Ken Anzai