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第7波は最もきつかったが、対策如何にかかわらず乗り越えられた印象

 先月は定期的な記事の投稿をお休みさせていただきましたが、1か月でいろいろな動きはありました。東京都の新規感染者数は7月28日に40,395人が最多でしたが、前日のHER-SYS不具合による上乗せがあったので、実際には8月3日の38,940人がピークと推測されます。ただ他県の感染者数が計上されていたり、発生届が出されない事例もあったりで、もはや正確な全数把握にはなってはいません。あくまでトレンドということでは7月上旬から急激に増加し始めて約1か月でピークになったということです。昨年夏の第5波の時も東京五輪のあたりから増え始め、8月13日に5,908人をピークに減少し始めて9月以降は激減しました。7月末に記事にした予測とほぼ一致しています。

これまでの波の特徴(5波は7月中旬から増加して8月中旬にピークアウト6波は年明けから急増して2月初旬にピークアウト)や諸外国の状況(BA5が先行して流行したポルトガルではすでに収束傾向)などから、あと1週間程度で頭打ちになるのではないかとも推測しています。https://comemo.nikkei.com/n/n92fd1a502bee7月30日投稿記事より)

 私もお盆の時期はお休みをいただきましたが、8月第4週あたりから電話の問い合わせも少なくなり、その日ごとの発熱患者さんをお断りすることもなくなりました。さらに今週は問い合わせもほとんどなくなり、発熱患者さんの受診も急に少なくなりました。都内の流行状況が落ち着いてきたのか、医療機関の受診を控えるような提言が広まった影響なのかはわかりませんが、このまま収束していくような印象すら感じます。

 昨年の9月12日に第5波の収束に関する私見を投稿しています(上引用記事)。この時は患者さん自体が減ったというよりも、ワクチン接種歴の有無にかかわらず検査で陽性になる方が急激に減り、学校が始まっても子どもたちの間で増えることもなかったので、病原体の変化があったのではないかと推測しました。

今回の第7波は、1か月の間に第5波の6倍の感染者数が計上された訳ですので、ほとんどの患者さんが最初に受診をするプライマリケアを行う現場では半端ない忙しさであったことは事実です。ただ昨年と異なるのは診療した患者さんは数倍であったにもかかわらず重症化の傾向がほとんどみられなかったことです。第5波の時には自宅療養中に息苦しくなり肺炎の疑いで入院を必要とした患者さんも少なくはありませんでしたが、第7波ではHER-SYSでの管理もできるようになり、少なくとも私が診療した患者さんで経過中に状態が悪くなり入院を必要とした方は一人もいませんでした。

このような背景を踏まえ、最近の過熱しすぎの報道とそれに呼応する一部有識者に対する苦言です。

①制限のない初めてのお盆期間により人が動くのでさらに感染者は増加する    

 5月の連休も行動制限はありませんでしたが、その後増加に転じませんでした。制限がなければ人との接触機会は増えるのでリスクが高まることは否めませんが、最近の傾向からすれば多くの人たちが感染対策を徹底したうえで移動をすることが定着しつつあり、「人流」という先入観だけで注意喚起を促すことはもはや「余計なお世話」になりかねません。しかし多くのメディアはこのような休暇やイベントの前には有識者からの注意喚起を強く望む傾向があるように感じます。私はその都度、角がたたないように断るようにしていますが、いつまでも同じことを仰る方はメディアからは重宝される傾向にあるようです。

②9月に入り学校が始まると子どもたちの間で感染が拡がる 

 学校が始まれば子どもたちが集まる環境が生まれます。だからといって必ずしも感染が拡がるわけではありません。夏休みで人込みに出かけるよりも、限られた環境で限られた仲間と過ごし、先生方が管理をするわけですから、むしろ感染のリスクは低くなるとも考えられます。昨年も学校が始まっても集団発生が散見されたわけでもなく、そのまま減少していきました。しかし一部の有識者はいまだに学校再開=感染拡大という短絡的な喚起を行っています。さらに言えばある自治体の対策である「拡大を抑制するために部活動を中止する」などもってのほかです。制限することばかりに重点を置くのではなく、どうしたら通常の学校生活が送れるのか、建設的な意見を述べるべきであると考えます。私はメディアに対し以下のようなコメントをしました。

夏休み明けの学校の感染対策について感染症に詳しい東京・千代田区にある「グローバルヘルスケアクリニック」の水野泰孝医師に聞きました。
水野医師は、子どもたちの感染状況について、「ことしは行動制限のない夏休みで、いろんなイベントに参加したり旅行に行ったりふだん会わない人との接触の機会があり、感染リスクが高い状況だった」としたうえで、「学校の再開で子どもたちが集まる環境になるが、学校の管理のもとで一日の大半を過ごすので、必ずしも感染が広がる要因にはならないのではないか」としています。そして具体的な感染対策として取り組むべきことについて、教室で冷房を使う際、窓を閉めきることが多いが、声を出す場面などでは適宜、換気すること、部活動の前後に使う更衣室など狭くて換気がしにくいところでは、マスクの着用を徹底することなどをあげています。そのうえで、「感染対策の正解はひとつではなく、リスクに応じて、感染対策を強化したり緩めたりする、あるいは全くしないということがあってもいいと思う。その場面、場面ごとに相談し、学校では子どもたちにしっかり教えてあげるのが重要だ。学校行事などは一律に中止するのではなく、どうしたら感染を広げずに実施できるかという方向で考えてほしい」としています。

③感染拡大に歯止めをかけるためにワクチン接種をする

感染が拡がっている要因の一つとして若者の間でのワクチン3回目接種率が低いことを挙げており、接種を推進させるための根拠として国立感染症研究所が8月17日に公開したデータ「新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第四報)オミクロン株(BA.1/BA.2 および BA.5)流行期における有効性」によれば、以下のような結論となっています。

2 回接種後 5 ヶ月以降では 35% (95%CI -4-60)、3 回接種 14 日-3 ヶ月では 65% (95%CI 42-79)、3 回接種後 3 ヶ月以降では 54% (95%CI 28-71)であった。調整オッズ比を元に 2 回接種と比較した 3 回接種の相対的なワクチン有効率を算出したところ、3 回接種 14 日-3 ヶ月では 46% (95%CI 21-63)、3 回接種後 3 ヶ月以降では 30%(95%CI 3-49)であった。

すなわち、3回接種して3か月までは65%の有効率だがそれ以降では54%、2回接種と比較した相対的な有効率は3か月までで46%、それ以降では30%ということです。決して高くはない発症予防効果であるにもかかわらず「発症予防効果が示された」と報道され「感染拡大を抑えるためにワクチン接種を勧める」という見解が示されたことには賛同しかねます。しかも来月から予定されている2価ワクチン(従来株+BA1)を待たずに4回目接種を急がせる理由も解せません。あたかも発症予防効果のために接種を推進する一部の有識者の発言ぶりは明らかに誤解を招いている印象ですし、忖度や利権が働いていると疑わざるを得ません。ちなみに3回目接種が始まったばかりの頃は少なくとも陽性者で3回接種済の方はおられませんでしたが、今回の流行では4回目接種済の方(接種開始は7月)でも陽性になる方が散見されています。

これらのことはメディアでは公言できないことではありますが、最近の報道振りにはどうしても納得できず、つぶやいてみたところです。

#日経COMEMO #NIKKEI

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