気候変動・脱炭素がもたらすキャリアシフト〜求められるロールモデルと新産業創出の未来予想図
再エネ技師、EV技術者、その他あらゆる業界・職種で今後求められるグリーンなキャリア像と未来予想図
先日、日本経済新聞の『脱炭素、いざリスキリング 欧州で進む「公正な移行」』というタイトルの記事を目にし、いろいろなことを考えさせられました。
脱炭素化が進むことで産業構造転換が余儀なくされている状況で、その過程で大量に失業が起きること、その上で欧州の先端的な事例が紹介されていて、日本でも対応が求められていることが描かれています。特に「公正な移行」(温暖化ガス削減という政策目的の犠牲となって職を失う労働者に新たな仕事を確保すること)の重要性が指摘されてます。
また、記事の中で指摘されているように、技術開発偏重、個別企業まかせとなっている雇用対策の現状を見ると、不安な気持ちにさせられます。
経済産業省が今年の5月末に公開した「未来人材ビジョン」という100ページを超えるレポートが7月上旬にSNS上で話題になっていましたが、「脱炭素化による雇用創出と喪失効果」(page 7)と、「企業は人に投資せず、個人も学ばない」(p.40)と題されたデータを思い出しながら、「公正な移行」がどのように実施されるのか、とても厳しい現実があることを改めて感じます。
日本人の「勤め先に期待しない割合」は世界最悪…経産省が「これはヤバい」と顔面蒼白になった衝撃データ 〜 渾身の提言「未来人材ビジョン」が訴えること [6/30/2022 プレジデント]
2050年までにカーボンニュートラルを実現させるためには、上記左の図で雇用創出が見込まれている太陽光・風力事業、原子力等のエネルギー関連の雇用、そしてよく話題になるEV技術者の育成のみならず、海外でClimate Techと呼ばれているような、今までになかったような、様々な業種を横断する形で起きている新産業創出も必要になることと思われます。
現状「新しい資本主義」という名のもとにリスキリング、リカレント教育の重要性は指摘されつつあるものの、具体的な脱炭素分野での人材育成の方向性、事例はまだあまり目にする機会がないように感じています。本日、萩生田経済産業相が新設の脱炭素を進めるGX(グリーントランスフォーメーション)実行推進担当相に兼務就任と報じられ、今後に期待したいところですが、今回は2つの視点をご紹介したいと思います。
【1】既に数多く誕生し、メディア等でも紹介され始めている気候変動分野に異動しつつあるClimate Tech分野の人材、事例に対する注目
昨年頃から少しずつ感じている傾向として、脱炭素、気候変動分野での転職、或いはスタートアップの創業に関する報道がじわじわと増加傾向にあることを感じます(特に英語圏において)。
例えば以下のCNBCの記事では「テックワーカーが気候変動対策に取り組むために、なぜグーグルのような企業での素晴らしい仕事を辞めるのか」と題し、5人の転職に至るストーリーが紹介されてます。
どのような理由で好条件のテック企業を辞め、どのような経緯を経て転職や創業に至ったかが紹介されてます。また、キャリアシフトを支援するための「Terra.do」のような教育プログラム、1万人以上が参加してSlackコミュニティ内で情報交換やネットワーキングが行われている「Work on Climate」、そして2年半前にスタートし、気候変動分野で活躍している人のそれぞれの「気候の旅」をポッドキャストを通じて紹介している人気番組『My Climate Journey』のような、このキャリアシフトを加速している定番のプログラム、組織、メディアについても触れられています。
本日投稿され、Twitter上で話題になっているのがこちらのブルームバーグの気候変動担当のジャーナリストであるAkshat Rathi氏によるツイートです。
Rathi氏がスレッドで紹介しているのは、科学者、テック人材、科学者、ジャーナリスト、哲学者、弁護士、エンジニア、金融、石油企業コンサルタント、広報等のキャリアシフトについての記事ですが、数多くの人が自分の体験談や追記的な事例をコメントで書き込んでいます。執筆時点(7/27 20:00)で既に1,600人以上からいいねがされ、600人以上の人にリツイートされてます。
【2】新しい産業分野として形成され、成長を続けるClimate Tech分野の業界データ、マッピングに対する注目
もう1点、是非今回ご紹介したいのが気候変動分野で日々新しく生まれ、成長を続けている気候変動分野のスタートアップ企業群が存在すること、そしてその業界の成長の様子が日々報道され、解像度高く全体像が見えやすくなっていることです。
こうしたトレンドを詳細に報じている人気無料ニュースレターの一つに、「Climate Tech VC」があります。2020年始めにスタートして、現在は週に2本、3万人の読者にClimate Tech業界のトレンドを掘り下げて届けています。7月中旬には、2022年上半期の中間報告として、Climate Tech分野の資金調達の動向が業界ごとのデータやチャートとともに紹介されてます。
資金調達額としては前年比でやや減少しているものの(以下右上のチャート)、大型の調達が減ったからであって、資金調達を行うスタートアップ企業のディールの数そのものは着実に右肩上がりで成長が続いていること(以下右下のチャート)が指摘されてます。
レポートでは、Climate Techのカテゴリーとして7つの大きなカテゴリーが存在し、更に細分化した合計63の分野に分類されてます。分類対象となった企業だけでも既に1,140社のスタートアップが存在し、今後も増加していくことが予想されます。国内ではVC投資環境やスタートアップのエコシステムそのものが海外と規模も裾野の広さも異なるため、単純比較はできないとは思うものの、今後の新産業創出を考える際にはヒントとして得られる視点が何かきっとあるのではないかと感じています。
以上、あくまで英語圏での情報の一部を切り出しただけではありますが、個人としての脱炭素、気候変動分野へのキャリアシフトのイメージ、そして転職先となっているClimate Techの業界イメージがだいぶ鮮明に見えるようになりつつあることを感じます。1年後、2年後、グローバルのこうした機運がどのように進化しているのか、定点観測的に見つめていくつもりです。そして更に解像度高く、こうしたトレンドを今後も発信していきたいと思ってます。
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▶2021年夏以降気候変動・脱炭素・クライメートテックについてCOMEMO記事として公開した記事のリスト(計18本)