見出し画像

「今守られていない人の保護」のためにも解雇規制の”議論”はすべき

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

今朝、洗濯物を干しにベランダに出るとかなり暑かったので今日は在宅で勤務しています。
こうした日にも在宅勤務はいいですね。

さて、前回、解雇規制について「そもそも“緩和”するほど定めがないのでは」、「重要なのは明確化では」といった内容の投稿を書きました。

私は、解雇規制の議論は、どういう結論をとるにせよ議論を避けるべきではないと考えています。

“出口”は“入口”の議論と連動する

解雇という「出口」の議論は、採用という「入口」の議論と密接に関連しています。
労働経済の学者の方々からは、「解雇が厳格であると、退出が困難であるため、採用を狭める可能性がある」と指摘されています。
確かに、一度採用した場合に、解雇が厳格であるとすると、それだけ多くの人件費を見なければならなくなります。

”雇用保障”と”労働条件の不利益変更”

我が国の就業規則の不利益変更法理は、当事者の合意なく、しかも不利益に契約内容(労働条件)の変更を認めるものであり、契約理論からするとかなり特異な法理といえますが、これは、(本当に解雇が厳格であるかは一旦措くとして)終身雇用制のもとで容易に解雇ができない一方で、雇用期間中の労働条件の変更の余地を認めることでバランスをとっているといえます。

したがって、「労働条件はさげられてもいいので雇用は守ってください」という仕組みといえるでしょう。
しかし、解雇規制の要件化を避けた結果、終身雇用制というのは法律に定めはない慣行である一方で、不利益変更法理は法律に定められており、いびつな形になっています。

“解雇による流動性”と“退職による流動性”

また、解雇の議論でよく出てくる「人材の流動性」ですが、これも大きくは2パターンの流れがあるでしょう。
まずは、使用者側が解雇等によって起こる人材の流動性です。多くの人が「人材の流動性」と聞くと「解雇規制の緩和」を連想するのは、このイメージでしょう。
他方で、労働者が使用者の外に出るのは、必ずしも解雇だけによってもたらされるわけではなく、労働者側からの退職によっても起こります。むしろ、労働法制的には、労働者側からの退職は、有期雇用の場合を除いてかなり自由です。

政府が「流動性」の議論をすると、解雇規制を狙っていると思われがちで、批判も出てきます。
しかし、政府が狙っているのは、むしろ労働者側からの自発的な流動性です。
すなわち、少し前ですが、令和元年度の成長戦略実行計画では、以下のように述べられています。

組織の中に閉じ込められ、固定されている人を解放して、異なる世界で試合をする機会が与えられるよう、真の意味での流動性を高め、個人が組織に 縛られ過ぎず、自由に個性を発揮しながら、付加価値の高い仕事ができる、新たな価値創造社会を実現する必要がある。

令和元年度成長戦略実行計画

ここで狙っているのは、固定的な組織文化によってエンプロイアビリティが高められず、(制度的には可能であっても)労働者側が自ら外に出られない(閉じ込められている)状況を改善し、今の会社以外でも活躍できるようにし、“真の意味での流動性”が高まることです。

“内部労働市場”と“外部労働市場”の雇用保障

雇用保障についても“内部労働市場”、すなわち会社内での雇用保障と、“外部労働市場”での雇用保障があり得ます。
極論を言えば、仮に解雇をされたとしても、即座に別の会社で採用され、賃金も変わらないとすれば、過度に解雇を抑制し内部の労働市場、すなわち一つの会社内での雇用保障にこだわる必要もないでしょう。実際にはそう簡単ではないですが。

したがって、雇用保険制度の充実はリスキル支援等を充実させ、外部労働市場での雇用保障を強化するという方法もあるでしょう。

ちなみに、これは賃上げもしかりであり、今勤めている会社での賃上げだけでなく、転職による賃上げという方法も同じ様に考えられます。

解雇規制の議論を避けることは「今守られていない人の保護」の議論も避けている

なんとなくですが、今では、「解雇規制を緩和することは正しくない」、「人材の流動性は解雇規制につながる」、「雇用保障は会社がなすべき」といった考え方が根強く、これを変えることは「良くないこと」のように評価されているように思われます。
しかし、上記のように、「解雇規制」、「人材の流動性」、「雇用保障」には、いずれも複数の考え方、見方があり、いずれかが必ず正しいというわけではないでしょう。また、これらの要因は複合的に絡み合っており、「解雇規制」という一つのテーマだけを取り上げて評価することは適切ではないと思われます。

むしろ、今の考え方は「今、会社に雇用されている正社員」の雇用は保障するものの、他方で、非正規社員の雇用の不安定化や、失業者、若者の雇用を奪う可能性があります。もっといえば、フリーランスにもしわ寄せがいくでしょう。

解雇無効時の金銭救済制度の議論のなかで、労働者代表からは「このような議論はそもそもすべきでないのだ」というような意見が出されていますが、このようなスタンスは、上記のように労働者の大半を占める正社員の既得権を守る一方で、「今、守られてない人をどう守るか」という議論を避けていることになります。

したがって、最終的な結論はどうあれ、雇用保険制度やリスキル支援などと併せて解雇規制について、少なくとも「議論」はすべきであろうと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?