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「転職」という言葉の裏側にあるもの ー 問題解決からセンスメイキングへのルート。

まだ日本に滞在中です。

この日曜日、以下の記事を書きました。問題解決は短時間である必要があり、他方、センスメイキングには「時間がかかる」。後者をタイパの対象にしない覚悟が求められ、ビジネスとしてはラグジュアリー領域がその一つである、と言及しました。

今回の滞在中、何人かの20-30代前半の方たちと別々にお会いする機会があり、その際、「転職を考えているが、どのような転職が良いか?」との共通の問いをうけました。

その声の底にあるのは、問題解決を効率よくこなすのには自信が持ててきたが、センスメイキングの経験の持ち方がよく分からない、ということです。そこで、このテーマでも一つ記事を書いておこうと思いました。

センスメイキングは問題解決を起点とする

まず、ソーシャルイノベーションをデザインから論じ、実践してきたエツィオ・マンズィーニの著書 Design, When Everybody Designs にある次のチャートからはじめます。これはデザインという手法が「誰の手にも渡る」、即ちチャートの下半分を示すためのものです。

問題解決とセンスメイキング

その一方、デザインは問題解決(左)とセンスメイキング(右)の大きく2つに分類されることも指摘しています(というか、デザインに限らず、ですけどね)。この20年ほど、問題解決に多くの関心が、またはエネルギーが注力されてきたが、右側の方が疎かになっていた。それが新しい方向探しに苦労する要因になっている、ということです。

このチャートのなかで、特に右上の1,ビジネスとセンスメイキングの領域に声を大にしているのが、『突破するデザイン』を書いたストックホルム経済大でリーダーシップを教えるロベルト・ベルガンティです。

注意しなければいけないのは、上図にある4つの領域はそれぞれに独立しているわけでもなく、当然、相互に作用しながら往復しているという点です。

つまり、問題解決とセンスメイキングも各々が独自にあるのではない、と認識しないといけません。かつ、実践アプローチとして、センスメイキング領域のなかで「浮遊する」ように意味を探るのではなく、問題解決にどっぷりとつかりながらセンスメイキングを見据えるのが適切です。

それでないと、センスメイキングが「机上の空論」として空回りします。

いつ、センスメイキングの所在を意識するか?

前述しましたが、20-30代前半の人たちが問題解決には自信をもち、センスメイキングに行きたいけど敷居の高さを感じています。それはセンスメイキングのありかは、いくつかの問題解決の結果を俯瞰的にみることで得られる、ということを知らないからでしょう。

別の言い方をすれば、数々の問題解決に関与しないとみえてこない。だからセンスメイキングには絶対的な量の時間を要するわけです。「石の上にも3年」という古い言い方があり、それはある期間我慢すれば次の展開が見られるよ、との文脈で使われます。スキルの熟練があって、次が見られる、との意味も含むかもしれません。

ただ、ぼくがここで別の解釈を示したいのは、3年やればあるセンスメイキング領域を眺めるポイントに立てる可能性がある、ということです。実際にそれができるのは、自分で起業して経験を積んだ人で、大きな組織のなかで働いているとさらに時間はかかるでしょう。

それでも、問題解決の先にセンスメイキングの眺望が開けると知っているかどうかで、実際にセンスメイキングの契機を得た時に「きたぞ!」と思えるかどうかの分岐点にたてます

「きたぞ!」と思えれば、問題解決とは違うレベルで新しい方向を探索してみようと考えるものです。そこから試行錯誤がはじまります。前回の記事でいえば、クラフトの道です。

「転職」に期待してはいけないこと

往々にして20-30代前半の方たちがもつ転職願望の一つは、問題解決からセンスメイキングへの乗り換えです。それも一気に。ぼく自身、大企業をやめてイタリアに行った人間ですから、転職について否定する意見は一切もちません。

しかし、ここで言いたいのは、「転職」という言葉を選択肢の最初にもってきてはいけない、ということです。

「ああいう人と働きたい」「こういうことをしている人の傍で学びたい」「あの人と一緒に、こういうことを実現してみたい」・・・ロールモデルでもプロジェクトでも何でも良いですが、なんらかの具体的に見える世界のなかに入る決意が最初に来るのが良いのです。

その後に、前述を実現するには、副業なのか?ボランティアなのか?はたまた転職なのか?との選択肢が出てくるのです。つまり、「転職」の言葉が先頭に来ている限り、まだ尻に火がつかない状態なのです。

よって、ぼくに相談してくる方たちには、なるべく「ああいう人」を見つけ、リアルに話し、「そこから浮かび上がってくる次」に一歩を踏み出すことを勧めています。

「3人の誰か」を見つけよう

前回の記事でも紹介したように、『人文知の視点から考える 新しいラグジュアリー オンラインプログラム』という講座をやっています。

これは、参加者が世の中に浸透させていきたいモノやコトをご自分で選び、それから日本の外にいる協力者を3人選び、実際にコンタクトする術を考えるようにタスクとして出します。そして、実行に移してもらいます。上手く返事をもらえないこともあるでしょう。そしたらやり方を再考しないといけません。

これが、何度も書いた、問題解決からはじまるセンスメイキングの実践編なんですね。これをすることによって、「空回りしない」動き方が分かってくるはずです。「空振り」と「空回り」は違い、何度も空振りするのは仕方ないですが、空回りはできるだけ避けた方が良いーーー往々にして、問題解決とは無縁のところにセンスメイキングを求めるから、空回りするのです。

ですから、違った視点を提供してくれそうな3人を探し出すこと、これが第一になります。1人ではだめです。1人だと自分が入れ込み過ぎる確率が高くなり、広い眺望からセンスメイキングをみるとのアプローチと合わないのですね。3人です、みつけるべき人たちは。

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冒頭の写真は、京セラ美術館で開催中の村上隆展で展示されている「洛中洛外図」です。村上さん自身は問題解決という表現を使わないでしょうが、十分にリアルな具体から発想している印象をもちます。


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