人事制度もDXできる。ヒントは、マーケティング(日本を強靭化するDX #2)
(1) マス・マーケティング時代の終焉
さて、前回から「日本を強靭化するDX(デジタル・トランスフォーメーション)」について考えています。この企画は、デジタル関係者にだけに焦点を当てているものではなく、すべてのビジネス・パーソン向けに議論をしようと思って、展開しています。今回は、少し私の専門領域である「マーケティング」から、デジタル・トランスフォーメーションを考えてみます。
まずは、2020年上期ヒット商品番付をご覧いただきたい。
皆さんは、どれだけの製品・サービスを知っているだろうか。同じ、ヒット番付の、2010年、つまり10年前の記事も、併せてごらんいただきたい。
2010年上期のリストに関して、すでに「大ヒット乏しく」と書かれているが、実は多くの方の実感は、直近、2020年の方が「ヒットに乏しく」感じるのではないだろうか。それは、提供される製品やサービスの問題ではないだろう。私たち自身変化によるところが大きいだろう。私たちが、成熟した、モノやサービスに満ち足りた市場にいるために、以前よりも購買欲は下がり、また絶対的に、誰でも欲しいと思うモノ・サービスに出会う機会が減ったのである。いわゆる、マス・マーケティングの終焉である。
(2) マス・マーケティングの終焉の裏には、DXが
このマス・マーケティングの終焉は、私たちの「生活の変化」、「意識の変化」によるところが大きい。そして、その変化に対応できた理由に、ICT(情報通信技術)の進化、今の言葉で言えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)がある。
工場は、大量生産から、少量多品種生産が可能になった。この裏には、部材のデータ管理、緻密な生産計画、そして工場のラインにも、多数のセンサーやコンピューターの共同作業がある。
物流では、宅急便の進化に見られるように、毎日柔軟な配送が可能になり、しかも1個の箱から商品配送が可能になった。
このように、私たちの生活のまわりでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいたのである。
まさに、車の「テスラ」が、大量生産型の車ではなく、お客様の注文に合わせて、生産・配送を行う。この会社は、ある意味、デジタルトランスフォーメーションを理解した会社である。
つまり、マーケティングの世界では、デジタルトランスフォーメーションにより、1アイテム単位での、生産・配送・販売が行われているのである。
(3) 人事もマス管理していなかったか
そんなことを、自分のマーケティングの考えを整理している時に出会ったテーマがこれである。
そう、なぜ人事の世界では、まだ「制度」という言葉をつかっているのであろうか?これは、マス・マーケティングの世界で言う「定価」という言葉に近いくらい、古い言葉のように感じるのは私だけだろうか?
マーケティングの世界では、1アイテム単位の管理が可能になっている。ならば、会社の従業員、しかも「命」と「人生」のある従業員の管理も、一人ずつ行わないのだろうか。あえて、行えないとは聞かない。実際は、「行えるのだから」。それは、人事におけるデジタルトランスフォーメーションだろう。
つまり、私の考えは、日本の人事制度を、「デジタル・トランスフォーメーション時代」の今に合わせて、根本から見直す時期であること。新卒採用も、中途採用も、会社の経験年数や業績により評価する。そして、退職金が欲しいか、欲しくないかも、入社の契約の段階で決める。つまり、人事管理のデータを、従業員単位で行い、給与や報酬に関しては、人事階級ではなく、もっと細かなデータで管理するのはどうか。という考えである。
今までのように、新卒採用、終身雇用であれば、人事の「制度」というのは有効だった。しかし、これからますます人材の流動性は高くなる。そして、働き方も、「出社」「在宅」など選択肢が増える。もはや、一律の人事制度を従業員に提供することに矛盾が発生しているのではないだろうか。
(4) つまり、人事管理も個別管理時代に
マーケティングでは、商品の「単品管理」、顧客の「ID-POS」や「CRM」の導入による理解が進んでいる。同じことが、人事での世界で起きても不思議ではない。つまり、人事管理・人事制度も、従業員、一人一人に寄り添う、「個別管理時代」に入るのではないだろうか。そう、デジタルトランスフォーメーションとは、どの領域でも起こるのである。