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アフター・コロナの雇用と労働:2つのシナリオ

以前、今後のデジタル・トランスフォーメーションの本質を理解する鍵として『デフレーミング』の概念を紹介したが、その3つの要素のうちのひとつは『個人化』である。デジタル技術によって取引コストがあらゆる場面で削減された結果、階層型組織という枠組みから個人が徐々に独立性・自律性を増し、フリーランスや個人事業主など、個人が自律的に働く形態が存在感を増している。また、雇用労働者であっても、兼業・副業といった形で自らの関心や能力を活かす場面も増えてきた。

このような中で発生した新型コロナの問題は、このフリーランスや個人事業主に大きな影響を与えている。クラウドワークスの調査では、フリーランスの65%が収入が減少したと回答しており、30%の人が月額5万円以上の減少を経験している。

もちろん、雇用労働者であっても、今後、経済への影響が大きくなれば倒産や解雇といった場面が増えてくる可能性がある。しかしフリーランスと比べれば、収入への影響は多少のタイムラグを置いてからとなるだろう。雇用契約が経済の変動に対するクッションとしての役割を果たすからだ。

コロナのような問題が顕在化した以上、今後数十年にわたって「不確実性」は経済における重要な視点となる。今回のような急激で大規模な経済への影響を経験した今、フリーランスや個人事業主、起業家の増加といった形で見られた『個人化』の流れは、今後どう動いていくのだろうか。そして、働き方や企業の雇用はどのように変わっていくのだろうか。ここでは、以下の2つのシナリオを考えてみたい。

シナリオ1:社会民主主義への志向

第一のシナリオは、自律性や柔軟性よりも安定性を重視し、雇用労働者へ回帰するというものである。これまでフリーランスや個人事業主として働いていた人も、今回のコロナで経済的な困難に直面した結果、より安定した正社員への転換を希望するということもあるだろう。

もちろん正社員だからといって安定が確保されるわけではない。日本経済新聞によるとコロナを原因として解雇された人は、4月24日時点で全国で3,076人に上るとされる。

こうした中で、政府の側からもできるだけ解雇を避けるよう、中長期的に解雇規制を厳しくしたり、定年を延長してできるだけ長く企業に雇用させるような政策を取るかもしれない。

その一方、雇用のハードルを上げすぎると、そもそも企業が採用を手控える可能性が出てくるため、かえって失業者が増えるリスクがある。この場合、米国の第二次ニューディール政策のように、政府が雇用主となるという選択肢もあるだろう。あるいは、窮地に陥った企業を政府が国有化して雇用を維持するということもあり得る。

この第一のシナリオは社会民主主義的な思想に基づくものであり、規制による雇用の確保と安定性を重視する。最終的には政府の政策的介入を必要とするが、介入の是非は、国民が正社員としての雇用の安定性をどの程度強く求めるかによって決まってくるだろう。

シナリオ2:セーフティーネットを拡充した分散型社会

もう一つのシナリオは、個人化による自律性やフレキシビリティは活かしつつ、不確実性に対する社会的な備えをできるだけ拡充するというものだ。

民間でできることとしては、フリーランス向けの就業保険の拡充という方法がある。これまでも就業不能保険という形で提供されてきたものがあるが、支給要件には入院などの場合に限られるものが多い。これをもう少し経済的な変動にも対応できるよう拡張するという方法がある。今回のような大規模なパンデミックだと保険自体が破綻してしまう可能性があるため、支給額に上限を設けたり、支給額の一部は後で本人が返済する融資と組み合わせるなど様々な工夫が必要だろう。

また、セーフティネットとしてよく議論されるのがベーシックインカムである。ただし、基本的にベーシックインカムの構想は、一律に支給することによって生活保護の認定等にかかる事務コストが下がることを前提としているため、他の社会保障制度からベーシックインカムに一気に切り替えることができるか、また支給される金額で本当に現在必要な生活費が賄われるかは検討が必要だろう。

一方、フリーランス化が進んでいる米国では、フリーランスや個人事業主へのセーフティネットについて早くから議論されてきた。New York Timesでは、今回のコロナの影響を受けて、現時点で個人事業主が得られるセーフティーネットを紹介している。これによると、10日間までの収入減少に対する税額控除や、通常は対象となっていない失業保険の個人事業主への拡充個人事業主の給与税の減免が行われている。

第三の道:ハイブリッド

上記の二つの方法のほかに、これらの中間にあるハイブリッド型の働き方もあり得る。すなわち、一定の基盤的な収入をもたらす組織に所属して組織の仕事をしつつ、プロジェクト的に他の収入をもたらす仕事にも従事するという働き方である。

これを実現するには、企業が社員の拘束時間を5割にする代わりに給料も5割とし、残りの時間は社員が自由に他の仕事をするといった働き方もある。これは従来の企業による雇用契約から減らしていくアプローチであるが、もう一方でコワーキングスペースやクラウドソーシング企業などが、一定の対価を保証して仕事を融通し、あとは自由に仕事を獲得する「追加」型のアプローチもある。

現在は緊急時であり、生活の安定性に最重点が置かれるべきであろう。その一方で、フリーランスや個人事業主、起業家等はリスクを取って挑戦している人々であり、経済全体の活力を生む存在でもある。その意味で、社会全体で彼ら・彼女らの生活を支えていく必要があるだろう。今後の経済的な発展を考えても、柔軟性や自律性と、生活の安定性を両立させる方法を考えるべきタイミングではないだろうか。



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東京大学大学院情報学環准教授。既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などを研究しています。詳細はhttps://soichirotakagi.wordpress.com/をご覧ください。

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