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Society 5.0時代の都市の集積とは

前回、アフターコロナの都市をデフレーミングから検討し、雑談や芸術、エンターテイメントなど、今後は仕事と直接関係のないものが、今後都市に住み続けるための大きな理由になるのではないかということを示した。

今回は、前回とは少し異なる観点から、都市の集積が今後どうなっていくのかとうことについて考えてみたい。その手がかりとして、政府が掲げるSociety 5.0、すなわちサイバーとフィジカルが高度に融合するというビジョンを参照しつつ、技術革新と都市の集積の問題を考えることとする。照らし、それが都市にどのような影響を与えるかという観点で考えることとする。

技術革新と都市の集積

歴史的に見れば、技術革新によって物理空間の集積・分散、すなわち都市の姿は大きな影響を受けてきた。産業革命によってモノの大量生産や遠方への輸送が可能になれば、物理的に密集して生産活動を行うことが合理性を持つ。農業の生産性が飛躍的に高まれば、農地の周辺に住む人は減少する。技術革新によって、産業構造が大きく変わり、その結果として地理的な集積の方向や度合いが規定されてきた。

図1

1990年代以降、東京圏への一極集中が進んできたことは前回示した通りだが、問題は今後のSociety 5.0が実現するとすれば、それは都市にどのような影響を与えるだろうか、ということである。

これまでの産業構造と集積の方向性

それを考えるために、まずSociety 5.0に至る4つの時代(狩猟時代、農耕時代、工業時代)を振り返ってみたい。それぞれの時代において重要な資源は異なっており、その資源の違いによって、人口の集積メカニズムは大きく変わってきたと考えられる。

図2

狩猟時代には重要な資源は言うまでもなく食料となる獲物ということになるが、同じ場所に全員が住んでいては、すぐに獲物を取りつくしてしまうため、分散して住む必要がある。従ってこの時代には都市への集積は進まない。

農耕時代も重要な資源は農地であるが、労働生産性が低い状態であれば、一人で管理できる農地が小さいこともあり、それぞれの農地に近いところに分散して住む必要がある。

工業時代になると、工業用地や物流へのアクセスが重要であるが、工場には一定の土地が必要で、全国で一か所に密集してに作るわけにもいかないため、ある程度分散する必要があるが、工場で働く人は一定の距離の中に集中的に住む必要がある。そのため、中核を伴った分散という方向で集積が進むことになる。

Society 5.0における「情報時代」はまだ歴史が浅く、十分に振り返ることは難しいが、ここでは業務を「情報化」することにより、効率化してきた時代であると整理することとする。この時代においては情報そのものも重要ではあるが、むしろ業務要件や効率化のポイントなど、人に聞かなければわからない情報が重要な資源であったのではないだろうか。そのため、直接人に会って聞き、ノウハウを取得することが重要であり、集中化のメカニズムが強く働いてきたと考えることができる。

Society 5.0における重要な資源

それでは、この4つの時代に続くSociety 5.0の時代には、集中と分散はどのようになるだろうか。

Society 5.0とは、日本政府が提唱している未来社会のコンセプトであり、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とされている

フィジカル空間で生成されたデータをサイバー空間で統合的に分析し、最適化された結果をフィードバックすることで、様々な社会的課題を解決しようというアイデアだ。フィジカル空間で生じていることをサイバー空間でそっくり再現して、緻密な分析を行おうとすることは「デジタルツイン」とも呼ばれている。

このSociety 5.0時代に重要な資源は何だろうか。一つには、サイバー空間で行われる分析力であり、インサイトを生み出す能力である。仮説をもとにモデルを作り、絶えず検証して更新する能力であったり、そもそも重要な仮説や目的を設定する能力が含まれるだろう。

もう一つはフィジカル空間から出てくるデータということになるだろう。このデータは、都市空間に埋め込まれた多種多様なデバイスから生成されるものであるため、こうしたデバイスにアクセスする技術力が必要になる。あるいは、自らアプリやデバイスを開発することで、必要なデータを生成することもできる。そのため、データという資源は、技術へのアクセスと言い換えることができる。ここには、データを利用するだけでなく、分析結果をもとにフィードバックする技術も含まれる。

データとインサイトはどちらが重要か

Society 5.0時代に重要な資源が分析力と技術へのアクセスであるとした場合、集積はどのような方向に働くだろうか。データはあくまでも人の行動に付随して生成される面が大きい。そのため、大都市からはより大量で密度の高いデータが生成される。データの価値から考えれば、人がより多く密集して住むほど、大きな価値を生み出すと言えるかもしれない。これは集中化の方向をもたらす可能性がある。

その一方で、分析力や、技術へのアクセスは、その都市に住んでいなくても発揮することができる。分析力と技術アクセスさえあれば、地方都市にいても東京のデータを分析し、インサイトを生み出すことができる。希少な資源を発揮しつつ、生活環境の豊かさやコストの安さを享受するということができるかもしれない。これは分散化の方向をもたらすものである。

現時点では、Society 5.0には不確定な部分が多く、集中と分散化のどちらに進むか明示することはできない。しかし技術と産業構造の転換点において、集積のメカニズムが変わる可能性があることは一慮の価値がある。その際には、Society 5.0時代における重要な資源は何か、という問いに答えることが検討の手掛かりとなるだろう。


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東京大学大学院情報学環准教授。既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などを研究しています。詳細はhttps://soichirotakagi.wordpress.com/をご覧ください。

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