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「魂を込めて伝える、伝えるために使えるカタチで表現していくことが大事」ー【COMEMO KOLインタビュー】川添隆さん

日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)川添隆さんは、「ECエバンジェリスト」として、ECやオムニチャネルの推進で高い成果を上げ続けています。小売ビジネスの未来に向けて、具体的な取り組みやその可能性を発信することにも積極的に取り組んでいる川添さんに、そこに至る経緯や思いなどをうかがいました。

【COMEMO KOLインタビュー】は、キーオピニオンリーダーの思いやルーツ、人となりを紹介する連載です。取材には、日経とnoteによる学びのコミュニティ「Nサロン」のメンバーを招待。実際の取材現場体験を通してビジネススキル向上の機会を提供しています。


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川添隆さんのプロフィール
メガネスーパーなどのアイケア企業を束ねる株式会社ビジョナリーホールディングスの執行役員を務めながら、「ECエバンジェリスト」として活躍中。アパレル関連企業2社を経験後、クレッジでEC事業の責任者として売上を2年で約2倍、LINE@の成功を収める。その後、メガネスーパーでEC事業、オムニチャネル推進、デジタルに関わるすべてを統括。7年弱でEC関与売上を7倍に、自社ECの月間受注を13倍に拡大させる。O2O・オムニチャネル推進を図る。2018年よりビジョナリーホールディングス 執行役員。また、2017年にエバンを設立し、複数企業のアドバイザーを務める。

▼本日より「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」で川添さんの連載が開始しました。


ーアパレル業界に進もうと思ったきっかけはなんですか?

僕は新卒で総合アパレルのサンエー・インターナショナルに入りましたが、大学では建築を学んでいました。就職活動をしていく中で、リアルな建築の現場の話を聞くうちに、なんとなく自分には違うなと思い始めて。現在は状況が変わっていますが、建築業界は活躍するのに時間がかかる業界だったんです。50、60代まで待てない、そう思って他の業界にいこうと決めました。

僕はものづくりがやりたくて、ファッションにしか興味がなかった。大学3年生の後半くらいから店舗スタッフとしてアルバイトも始めて、それがすごく面白くて、ファッション業界一本に絞って就職活動をしました。

新卒で入った会社では、会社としても市場としても成長している赤文字系のブランド、しかも2番目に売上が大きい店舗に配属されました。勢いに乗っていて店頭には「ライブ感」があって、ほんとに楽しいなと思っていました。売り上げは大きいものの、少人数のチームでやっていたので、その中で自分の役割を見つけていく楽しさなどもありました。

1年後、店頭から本部に異動になったのですが、そのタイミングで担当するブランドも変わることになりました。絶好調のブランドから絶不調のブランドへ(笑)。若かった自分の言い分ですが、私が店頭にいたときのような店頭と本部の一体感が感じられず雰囲気も悪い、僕は自身の成長に焦りを感じ飛び出してしまいました。
今思えば「もう少し耐えろよ」という感じでしたが。

ーその後、ベンチャーで経験を積まれていますが、印象に残っていることなどはありますか?

最初の会社の本部に異動になった後、僕は店舗の現場のためになることをもっとしたいのに、なかなかそれができずにもどかしいという気持ちをずっと抱えていました。「もっと自分が思ったことを現場に反映できないかな」と。

転職した先はクラウンジュエルという、ZOZOUSEDの前身となったベンチャー企業でした。ここでは約3年の間に、ECのコメント書き、ECの企画、リユースバイヤー、PR、アパレルブランドの卸営業、経理資料作成まで、とにかく様々な業務に携わりました。突然「メルマガやってよ」と言われたりして。最初は前任の方の原稿をベースにしていましたが、もう少しやり方を心得たいので、グループ会社のメルマガ担当の方に教わりにいったりもしました。

様々な業務に携わりながら、自分が登録した商品がいくらぐらいで売れているか、メルマガのどんなリンクが一番クリックされているか、システム系の人たちともたくさんコミュニケーションを取っていました。できる、できないなどのシステムに関するコミュニケーションや、数字を見ながら売れる喜びを感じる機会が多くなっていった印象があります。

この会社では僕はそんなに結果を出したわけではありませんでしたが、とにかく何でもやっていたので、学びは多かったです。

ー現在「ECエバンジェリスト」として活躍されていますが、アドバイザーの仕事や情報発信を将来的にやりたいと思っていましたか?

クラウンジュエルを辞めた後、フロント系の職種はもうやりたくないと思っていました。経理とか総務とか、バックオフィスの仕事がいいなと。

クラウンジュエルには3年勤めましたが、終盤はプレッシャーとハードワークなどもあり、その結果、体を壊して3ヶ月ほど実家に帰っていた時期があります。それまで、それなりに築いてきたものはいったんすべてリセットされました。

当時の僕は、失敗するのが大嫌いで。今考えると、カッコつけていたんです。ベンチャーは人手が少ないので、他の人が忙しそうにしているのを見ると、どうせ頼んでもダメだろうなと思ってしまい、一人で抱え込んでしまうことが増えていきました。

頼みもせず、相談もせず、失敗をすごく恐れて、やる前からどうせダメだと諦めてしまって。そこから、全然仕事がうまくいかなくなりました。

改めて転職活動をしようと東京に戻ってから、少しずつ気持ちを立て直していって、最初は一般職で転職活動をしていました。しかし、ビジネスインパクトがでるようなことに貢献したいと思うようになり、そこで気づいたのは「やっぱりフロント系の仕事がしたい」ということと「大好きなファッション業界に貢献したい」ということでした。

今の自分にできることはオンラインの領域であり、2010年当時もこれからEコマースが伸びていくフェーズだったので、Eコマースからアパレルに貢献したいと考えました。そこで、株式会社クレッジという当時で言うマルキュー系ガールズアパレルに入ることにしました。クラウンジュエルでは「何でも屋」のようになっていましたが、この会社にはECの担当者として入社して、ここで一度、ちゃんと腕を磨こうと思いました。

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ークレッジで、EC事業を拡大し、売上げを2倍にして、LINE@の成功事例を作るなど、次々と高い成果を上げることができた一番の要因はなんですか?

最初の1年半くらいは、思うようにEコマースの推進がうまくいきませんでした。私が配属されたのは、卸事業部のWebチームでした。ブランドとの主従関係があり、仕事も受け身な姿勢のチームだったので、僕は単純に「存在感がないな」と感じてしまい、「まずは自分ができることから何かやろう!」と思いました。

そこで、例えば基幹ブランドの販促担当者が書いたものをそのまま配信するだけだったメルマガを、「僕が最適化します!」と言って、リライト、画像撮影・トリミング、コーディング、配信をすべて請け負って工夫してみたり、Google Analyticsを見ながら、自社Eコマースの運営代行会社にバナーの仕様書や、メルマガの本文を書いてPDCAをまわしていったり。代理店経由でのリスティング運用なども始めました。この2010年の時まで、Google Analyticsやリスティング広告のことをほぼ知らなかったのですが、いろいろなことに取り組んでいました。

ところが、基幹ブランドの事業部長からは「ECでそんなに頑張って売らなくていいよ」と。ただただ悔しくて、絶対にいつかこの状況を変えてやると思っていました。自分のチームが評価されないからというより、メルマガの反応などをみて「お客様は待っている」ということを確信していたので、お客様に失礼だと感じたからです。限られた範囲の中でいろいろな挑戦をしていました。僕が1人で葛藤していた一方で、会社の業績は悪くなり、3.11が起こりました。震災後も業績は戻らず、社長が交代することに。

そしてやって来たのが、星﨑尚彦というプロ経営者でした(現メガネスーパー 代表取締役社長)。

最初は「この人を信じていいのだろうか?」と思っていましたが、「EC事業を2倍にしてほしい。そのために必要な武器は全部用意する。その提案をもってきてください。」と言われました。チーム構成も含めて2回ほどプレゼンテーションをやり、何とか通りました。そして早速、欲しいメンバーを社内の中から異動してもらいました。

星﨑社長の就任後、1ヶ月で社内にマーケティング・EC事業部が独立して立ち上がり、僕はそこの事業責任者として、ようやく自分のこれまで考えていたことができる権限をいただきました。そこからは、とにかく猛烈にいろんな矢を打ち続けました。そして、後半で管轄していたEC事業の売り上げを前年の2倍を達成。会社全体としても目標のEBITDAを達成しました。さらにその後、自社ECサイトの内製化、LINE@の成功、EC部門が主導するオンラインが融合した路面店出店などと続いていきました。

星﨑社長の体制で会社はV字回復をして、僕がみていたEC事業は7億から15億に。その後会社自体が売却されて新しいファンド傘下になった直後に星﨑社長は辞任され、次はメガネスーパーに移られることになりました。僕は社長ともう少し一緒に仕事がしたいと思い、メガネスーパーに移ることにしました。

―実店舗とECサイトの両方の経験をもつ川添さんから見て、それぞれの面白さを教えていただけますか?

実店舗では、忙しいときと暇なときがありますが、忙しいときにはアドレナリンが出るような感覚です。お客様はたくさんくるし、物はどんどんなくなるし、売り上げはどんどん上がる。イベントのような感じです。時間がとれるときは、じっくり接客ができて、お客様とコミュニケーションがとれます。すべて「1対1」の中で起こることですが、それが面白いところです。

ECは顧客情報は把握できますが、お客様の表情や雰囲気などの読み取ることはできない。その反面、顔のわからないお客様が、告知した瞬時に1500人が同時に来店されて買いものをしていく、という実店舗ではありえないことが起こります。数字しか見えないのでリアリティがないのですが、そういったダイナミックさがECにはあります。「1対n」で届けられるところが面白いです。

―コロナの影響もあり、ECに強制的に取り組まなければならない環境になったと思うのですが、企業がEC事業を成功させるために一番大切なことはなんですか?

僕が「EC事業の成長に必要なメソッド」として公開しているものがあるのですが、それは「組織力」がベースにあって、その上で「販売手法(サービス設計、訴求、販促活動など)」「在庫・MD」「集客」の掛け算となった方程式です。

この説明をすると「それならまず、土台となるシステムが必要だ」と言う人がいますが、実はシステムがなくてもECを始めることは可能です。Instagramだけで月100〜200万円売っているブランドなんて今はたくさんあります。

テクニックから入ろうとせずに、必要なことは「なんとかやろうとしてみる」ことが大切です。僕も10年前はGoogle Analyticsなんて全然知りませんでしたが、それでもなんとかやろうとした。それが今につながっています。

僕は、Eコマースというのは「自動販売機」ではなく「小売の一部」だと思っています。売る人が気持ちを込めれば、それはちゃんと伝わるものです。僕はこれまでいろいろなサービスや仕組みに取り組んできましたが、その経験から、思いを込めて作ったものがちゃんと伝わることを知っています。

クレッジ時代にアパレルではいち早く、ECサイトの掲載商品がどの店舗に在庫があるか確認できる機能をつくりました。それをリリースした2週間後にとったアンケートでは、「岡山に住んでいて、毎回広島に行くか神戸に行くか迷っていたけど、この機能で事前に在庫がわかるようになったのですごくありがたい」と書いてくれた人がいました。

もう1つ例をご紹介すると、僕がメガネスーパーに入ってからのことです。EC事業を改革するにあたり、見えてきたことは、ECで主力のコンタクトレンズという商材は、買いたくて買うのではなく、必要だから面倒でも買うという人が大部分であり、買うことが煩わしいのだろうということです。さすがに、コンタクトレンズを好きだから買っている人を聞いたことがありません。そこで、「とにかく簡単に買えるようにする」ということに力を注いできました。前回注文したものであれば、約30秒ほどで注文できる機能や、様々な仕組みを導入していきました。そして、「なぜメガネスーパーのサイトを使っているのか?」というアンケートとったところ、「メガネスーパーは信頼があるから」という項目を抜いて「注文が簡単だから」が一位になりました。

ちゃんと伝わるんですよ。「魂を込めて伝える、伝えるために使えるカタチで表現していくことが大事」なんです。どんなにいい商品を作っても、魂を込めて伝えることをしないと、お客様にもわかってしまいます。そういうところが一番の基本のような気がしています。


▼本日より「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」で川添さんの連載が開始しました。

▼「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」は、日経COMEMOのKOL(キー・オピニオン・リーダー)の投稿をもとにした連載企画です。

▼日経COMEMO公式noteでは、KOLへのインタビューを掲載しています。