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ボトムアップのコロナ対策には高次元の透明性が必要

新型コロナウイルスへの対策で浮かび上がってきている問題の一つは、政府のリーダーシップとガバナンスのあり方である。日本では、フランスやドイツ、ニューヨークのように強力なロックダウンや外出制限措置は取られていない。外出自粛や休業要請はあくまでもお願いベースであり、強制力や罰金を伴ったものではない。こうした諸外国に比べて緩やかな対策は、良し悪しは別として、日本型対応の特徴となっている。

緊急事態下においては、短期的には強力なリーダーシップで、罰則付きの外出制限などを講じることは感染拡大防止の面からは一定の効果が期待できるものの、結果的に日本ではそのような形のガバナンスは採用されてこなかった。むしろ国民全員の意識改革と協力によって望ましい状況を実現しようとしてきたわけである。

より強力な措置に転じる可能性も無いわけではないが、コロナとの戦いが長期にわたる可能性が出てきている中、いつまでそのような強力な措置を取り続けるかという出口戦略の問題もあるだろう。また、政府への強権的な権限を付与し続けることは、「全体主義的監視社会」につながるというユヴァル・ノア・ハラリの指摘もある。

日本式の緩やかな対策の是非はともかく、現状のボトムアップ型の対策を有効に機能させていくためには、今までとは別次元の透明性と情報・データ共有が必要である。

これを検討する際には組織と情報の観点から考えることが参考になる。前回紹介した「デフレーミング」概念の要素の一つである『個人化』は、個人が組織の枠を超えて経済主体としての自律性を高めることだ。この『個人化』は、実は情報の民主化によって実現するものである。伝統的なヒエラルキー型の組織では、社員から情報を吸い上げ、階層の上位に行くに従って情報の全体像が見えてくる。全体を見渡せるのは階層の上位の人しかいなかったからこそ、意思決定の権限を上位者に委譲することが正当化されてきたのである。

しかし、インターネットの力で誰もが最新情報にアクセスでき、スキルも情報も手に入れたことで、この階層型組織が揺らぎ、より現場に近いところに情報と意思決定の権限が分散化されていく。これが『個人化』の要因の一つである。逆に言えば、個人個人が十分に情報にアクセスできないようであれば、現場現場で最適な判断を行うことは難しい

この組織と情報という観点から見ると、ボトムアップ型のコロナ対応においては、情報共有の徹底は極めて重要である。各現場現場においてどのような行動をとることが合理的であるか、自ら判断し、納得感を持つ必要があるが、その根拠となるのは共有された、精緻で最新のデータである

新型コロナウイルスに関する情報共有という点で評価されるのが、東京都公式の新型コロナウイルス感染症対策サイトとして開発された「StopCovid19」である。これはオープンソースとして公開されており、国内外68か所(2020年4月8日時点)へ展開している。そこには、有志のボランティアを含めた市民エンジニアの活躍、すなわちシビックテックの力がある。

さらに、このStopCovid19を使って対策サイトを立ち上げる際に必要な、データの形式等についての手引きも提供されている。こうしたサイトが横展開することによって、情報の可視化、自治体間の比較等が容易になり、市民が自分たちの地域の状況を把握する上で貴重な情報となっている。こうしたデータが、オープンデータとして公開されることで、誰もがサイトを立ち上げたり、分析に使用したりすることができるようになる

ただ、StopCovid19は感染状況のトレンドはわかるものの、ボトムアップで対策を講じていくにはさらに精緻で多分野の情報が必要だろう。例えば、細かい場所ごとの混雑度合いがすぐにデータで見られれば、そこを避ける行動も取れるだろう。ティッシュペーパーやマスクの在庫状況がわかれば、買い占めを防ぐことができるかもしれないし、代替の手段を考えることもできる。スーパーの混み具合が分かれば、空いている時間を選んで行くことができる。また、飲食店の売り上げの減少度合いがわかれば、今のうちに前売りクーポンを買っておくという行動につながるかもしれない。また、コロナ対応にあたる病院の状況がもっと分かれば、危機感を強く持てるだろう。

このように、情報があってこそ国民は判断し、行動を変えることができる。国民の自発的な取り組みで危機を乗り切るのであれば、情報の透明性は重要である。また、国民の側にも情報を分析し、判断し、自ら行動する力を高める必要が求められるだろう。そして、逆説的に、国民がそうしたリテラシーを高めることがリーダーシップの質を高めることにも繋がるはずだ。

日本は未曽有の危機にボトムアップで対応しようとしている。未曽有の危機であるだけに、情報公開も今までとは異なる次元で行う必要があるだろう。プライバシーに配慮しつつ、データを市民が共有し、市民が分析することで、「全体主義的監視社会」とは異なる、新時代の「民主的協調社会」ができるのではないだろうか


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東京大学大学院情報学環准教授。既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などを研究しています。詳細はhttps://soichirotakagi.wordpress.com/をご覧ください。

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