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ますますシェア&コメントされなくなったニュースへの処方箋は? / ロイタージャーナリズム研究所『デジタルニュースリポート』2023より

毎年6月に公開されるデジタルニュース業界における毎年恒例の調査レポート、英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所による「Digital News Report 」の2023年版が公開されました。

若い世代を中心に、TikTokに代表されるソーシャルメディアを通じてニュースに触れる人が更に増え、物価高騰の中で購読者数が伸び悩む既存のメディア組織が苦戦を強いられている状況などが詳しく描かれています。

このレポートは今年で12年目を迎え、世界6大陸46市場、9.3万人を対象にした大規模で包括的な調査という点で、メディア業界の中ではよく知られています。昨年からNHK 放送文化研究所がこの調査 に協力されているとのことで、今年は同研究所により全160ページあるレポートの中の第1章「概要(Executive Summary)と主な調査結果」が日本語で36ページに渡ってまとめられています。とてもありがたいです。

ロイター・デジタルニュースリポート2023 概要(Executive Summary)日本語版(NHK放送文化研究所)

レポートの中では長引くウクライナ侵攻の影響などからもたらされるニュース忌避、その他メディア批判、アルゴリズムの影響、誤情報・偽情報、ポッドキャストの動向、公共サービス放送、ニュースへの信頼等のテーマに関して豊富なデータやグラフと共に詳しい分析が寄せられてます。

低下するニュース参加率とその要因

今回はレポートの中で私が最も興味を持った点、ニュースの共有やニュースについての議論(コメント)への参加が低下していることについて、取り上げてみたいと思います。というのも、日本においても過去に比べ、ニュース記事をTwitter等のソーシャルメディアのシェアを通じた議論や理解が深まるような機会が目に見えて減少していると感じているからです。

この点、レポートの中では以下のように記載されてます。

ニュースの共有やコメントなどオープンな形での参加は各国で減少しており、目立った議論のほとんどは少数の活発なユーザーによるものとなっている。過去を振り返ると、一部の国では2016年から2019年の間が共有行動のピークで、これは主にFacebookの広がりや、アメリカのドナルド・トランプ氏の大統領選出、イギリスのヨーロッパ連合(EU)離脱をめぐる国民投票、スペインのカタルーニャ独立をめぐる住民投票といった、意見が分かれる出来事によって引き起こされたものだった。しかしその後、オンラインでのユーザー参加は一定程度、その場をWhatsApp、Signal、Telegram、Discordなど、有害性の低い環境で、信頼できる友人とプライベートまたは半プライベートな会話ができる、閉じたネットワークの中へと移している。

ロイター・デジタルニュースリポート2023 概要|日本語版(NHK放送文化研究所)
ロイター・デジタルニュースリポート2023 概要|日本語版(NHK放送文化研究所)

ニュースへの参加とオンライン・エンゲージメントを時系列で紐解く』と題した詳細な分析ページにおいて、以下のようにソーシャルメディアでニュースをシェアをすると回答した人が2018年から2023年までの5年間で26%から19%に減少し、ソーシャルメディア上でコメントする人も20%から18%へと、減少の傾向が伺えます。背景にあるものとして、オンライン上の議論を有害なものと認識し、ニュースを公に共有したり、参加したりすることを避ける傾向があるとの指摘がされてます(Mathews et al. 2022)。

Unpacking news participation and online engagement over time

日本における低いニュース参加率

印象的だったのは日本の置かれている状況です。アクティブなニュース参加をしている人は6%と圧倒的に低く(以下グラフの右端)、調査対象の46の国・地域の中で最下位となっています。日本のTwitterユーザー数約4500万のうち、7割超が匿名アカウントとされ(平成26年総務省「情報通信白書」)、複数アカウントを使い分ける10〜20代も少なくないと言われる中、驚くに値することではないかもしれません。

Unpacking news participation and online engagement over time

ニュース忌避が顕著なトピックと課題解決のヒントとは

ニュースを回避する人が避けようとする(そして共有やコメントを避ける傾向がある)話題について、アメリカにおけるテーマが以下のように紹介されています。政治、人種、人権、ジェンダーのような社会的公正に関する話題、そして気候変動や環境に関しては右派層にとって最も避けたいトピックであり、左派との乖離も最も大きくなっていることが印象的です。アメリカと日本では状況は異なるとは思いますが、政治、気候変動等の党派性・信条に依拠しやすいトピックを巡る状況については、類似している点も少なくないのではないかと感じています。

ロイター・デジタルニュースリポート2023 概要|日本語版(NHK放送文化研究所)

レポートの中には、ニュース回避をする人が関心があると答えた話題として、それが「明るい」、「解決方法を提案する」、「複雑な出来事を理解するのに役立つ解説」などが高く評価されていて、ヒントになりそうです。
読むだけで憂鬱になり、気がふさがれるようなニュースではなく、前向きな切り口のニュースにこそ、忌避を減らし、より参加が促されるニュース消費行動をもたらしうるのかもしれません。

ロイター・デジタルニュースリポート2023 概要|日本語版(NHK放送文化研究所)

今後注目すべき3つのニュース・プラットフォーム

今回のレポートを読んでみて意外だったのは、近年ビジネスSNSとして存在感を高めつつあるLinkedinの記述が一切ないことでした。また、Substackを代表とする独立したジャーナリストや個人が配信するニュースレターサービスの動向もほんの一部しか触れられてません。AIを活用したニュースアプリとして注目を集めているArtifactのような新しい試みも触れられておらず、少し残念でした。いずれも欧米地域を中心としたトピックであり46もの国と地域では広く使われてないプラットフォームやアプリということも理由かもしれませんが、個人的には2023年、2024年に向けて、大注目しているプラットフォームです。これらの3つのサービスにおいては、ニュース参加が高まるためのしかけも工夫され、機能実装も頻繁にアップデイトされている点も、注目している理由です。

Digital News Report 2023をより深く学ぶためのコンテンツ

・ニュースメディア業界専門サイトNieman Labが「世界的にオンラインニュースはTikTokのようになり、"共有された記事 "のようにはならなくなっている」と題しレポートの詳細を紹介しています。

・なお、Digital News Reportについてはロイター・ジャーナリズム研究所が運営するPodcastにおいて、今後6回に渡って詳しく解説がされるとのことです。

・また、アジア地域を対象としたローンチイベントがオンラインで6月19日に開催されます。ご興味ある方は参加してみてはいかがでしょうか?[詳細・申込]

詳細・申し込みページ@ロイター・ジャーナリズム研究所 

cover image: Canva


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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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