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実はあたり前ではない非正規での雇用契約
以下の記事のように少子高齢化と非正規雇用は密接に関連しています。
働き方改革実行計画で「非正規雇用の処遇改善」として掲げられた「同一労働同一賃金」の政策も、少子高齢化が進み労働生産年齢人口の減少が進む我が国において、無期・フルタイムで仕事をすることが難しい働き手にも労働参加する意欲を高め、労働市場に参画してもらおうという狙いの政策です。
上記の記事のように、私としては、パート・有期労働者、派遣労働者も公正な処遇を受け、「非正規」という言葉が早期に一掃されることを願っています。
実は当たり前ではない有期雇用契約の締結
私が弁護士として同一労働同一賃金関係の相談を受けたときにしばしば聞かれるのは、「非正規なので●●手当はありません」といった説明です。
上記の記事でも書いたとおり、今後の労働人口減少を見据えると、「正社員が上、非正規雇用が下」というように、雇用形態のみを理由とした序列をつけているどころではなくなってきます。現にスポットワークの流行は「単発でもいいから人手が欲しい」というニーズの現れともいえると思います。
こうした企業の考え方は、「非正規雇用契約の締結が当たり前」ということが前提にあるように思います。
しかし、実は、有期雇用契約を自由に締結することができる我が国のような仕組みは、海外において普遍的な制度ではありません。
大きく入口規制と出口規制がある
日本のパート・有期労働法、その他労働関係法令上は、有期雇用に関する各種規制を設けているものの、有期雇用契約を締結すること自体は自由です。また、その更新についても、各種規制があるものの更新回数の上限があったり、更新自体に特定の理由を求める規制はありません。
しかし、有期雇用契約の更新に合理的期待が生じている場合等に雇止めをする場合には、客観的合理的理由・社会的相当性を要します(労契法19条)。
つまり、日本は入口規制ではなく出口規制を採用しています。
他方で、ドイツやフランスでは、そもそも有期雇用契約の締結自体に一定の制限を設ける入口規制が(も)採用されています。
例えば、フランスでは、欠勤労働者等の特定の労働者の代替や事業活動の一時的増加等、法律に定められた事由がない限り、そもそも有期労働契約を締結することができないとされています。
また、勤続年数を最長18か月、更新は1回のみ可能といった勤続年数、更新上限の規制が存在しています。
(古い資料ではあるものの一覧化されている以下の資料は参考となります)
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/05/dl/s0527-4f.pdf
パート・有期労働者等を含めた人材活用の在り方を本格的に検討
さて、上記のように、有期雇用契約を自由に締結することができるという制度は、諸外国を見ると必ずしも普遍の制度ではないということになります。
今、多くの企業では、「安い労働力としてとりあえず非正規雇用を採用しておく」という発想が強いように思われますが、仮に入口規制が存在していた場合、「なぜ有期労働契約を締結するのか」を慎重に検討することになるのではないかと思われます。
こうした「人材活用の在り方」の再検討は、同一労働同一賃金の狙いの一つでもあります。
しかし、「正規雇用が上、非正規雇用が下」という考え方がなかなか払拭できず、雇用形態のみを理由とする待遇差が改善しない場合には我が国においても入口規制という選択肢が生じる可能性も否定できないのではないでしょうか。
実際、入口規制の議論は、これまでもないわけではありません。
こうした強行的な規制が必要になる前に、「非正規」という言葉が一層され、公正な処遇がなされることに期待したいところです。