低空飛行の労働生産性、変化はしているが世界についていけない日本の現状
日本の労働生産性は1970年以降で最も低い順位になった
労働生産性を上げることは、近年、多くの日本企業にとって重要な経営課題となっている。2015年から官民が一体となって取り組まれてきた働き方改革やDXのように、労働生産性を高めるための施策が講じられてきた。WEB会議システムやタレントマネジメント・システム、クラウドの活用など、個人レベルでも実感できた大きな変化がいくつもある。このような取り組みの成果があってか、日本の(名目)労働生産性はコロナ禍で一時的にマイナスになったものの、全体的には2009年から増加傾向にある。
しかし、世界との関係でみると日本の労働生産性は厳しい状態にある。2021年の労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国中27位だった。十数年前までは、労働生産性の高かった製造業も見る影はない。2000年には先進国でトップを走っていたが、2015年以降は16~19位と低迷し、2021年は18位だった。
世界の変化スピードについていけない厳しい状況
OECDの中で低迷しているとはいえ、労働生産性を高めるための取り組みを日本企業が怠ってきたわけではない。企業レベルでは、できる範囲でできることを取り組んできた。ただ、世界の方が変化のスピードが早く、日本企業や日本経済のスピードが環境変化に対して後手に回っている感がある。
例えば、日本生産性本部は2021年の日本の順位が下がった理由を「コロナ禍における経済立て直しの遅れ」にあると述べている。検査網の構築や感染経路を特定するためのテクノロジーの活用など、経済と感染対策を両立させるための取り組みは諸外国と比べて動きが鈍かった。
また、労働生産性の上がらない主な理由として長年語られているのは、世界レベルのイノベーションが生まれないことと雇用の流動性が鈍いことだ。
前者に関しては、ユニコーン企業の数に如実に表れている。米国はおろか、フランスやドイツと比べても日本のユニコーン企業は数が少ない。2022年に新たにユニコーン・リスト入りとなった日本企業は1社だが、この1社はタイで創業し、東南アジアを主な拠点としている「Opn」だ。括りとしては日本企業だが、東南アジアのスピード感で事業を行い成功を収めている。尚、2022年にユニコーン企業となったのは238社あり、ドイツとフランスが5社、イタリアとスペインが2社だ。アジアだけをみても、韓国の5社はおろか、インドネシアの2社にも及ばない。
後者に関しては、日経の記事に対する「Think!」で学習院大学の滝沢美帆教授がコメントを残している。米国では雇用をレイオフするなどで柔軟に調整していたが、解雇の難しい日本では同様の手段がとれずにいると指摘している。また、日本は従業員が賃金交渉をしないなどの要因も賃金を低く抑えている。これらの指摘は、特にアングロサクソン系の国家との比較では的を得ていると言えるだろう。
反面、日本は何も世界で最も雇用規制の厳しい国というわけではない。このことは、サイボウスの髙木 一史氏も疑義を呈している。ただ、雇用システムとして流動性が高めにくく、流動性の低い雇用の調整弁として非正規雇用が用いられているために平均的な賃金が抑えられる。同時に、勤続年数が長く、賃金が高止まりしている中間層が多いために管理職層の賃金水準も低く抑えられている。いまや日本の経営幹部の報酬はタイ・フィリピン以下だ。
雇用の流動性と賃金の問題は、従来の日本型の雇用システムとどれだけ決別し、グローバル化できるかにかかってくる。しかし、急激な変化を受け入れることができる企業がどれほどあるのかは難しいところだ。
労働生産性が低いことに対して、日本政府も日本企業も何もしていないわけではない。現在のシステムと折り合いをつけながら、できるかぎりのことをしている。ただ、既存の発展延長では海外ほど劇的な変化を生むことができない。それで環境変化についていけず、後手に回っている状況だ。
バブル崩壊以来、脱日本的経営が重大事象として繰り返し強調されてきた。しかし、30余年が経過しても、未だに脱日本的経営が課題のまま残っている。この30年来の課題解決ができるかどうかが、グローバルビジネスの競争の中で日本の存在感を示すのに重要な鍵となる。