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少しずつ見えてきたボイス・コンピューティングの未来

スマートスピーカーに関して、夏休みの課題図書のつもりで以下の本を読んでみました。今この時期に読むことが出来てよかった、と思える一冊だったので簡単に読後感を共有したいと思います。

先日偶然家電量販店で「アレクサエコー・ショー」の実機に触れたことで何気なく興味が湧いたスマートスピーカー。簡単にテレビ電話に使えそう、という理由で見守り・介護分野で活用の可能性があるのでは、と先日noteに書いてみました

ただ、今回『アレクサ vs シリ ボイスコンピューティングの未来』を読んで強く感じたのは、もっと大きなスケールでコンピューティングの変革が現在進行形で起きている、ということです。

書籍の中ではボイス・コンピューティング、チャットボット、人工知能、機械学習、ニューラルネットワークなどのテクノロジーの歴史から始まり、アップル、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、サムソン各社の音声分野での取り組みがとても丁寧に描かれています。邦訳版のタイトルは「アレクサ対シリ」が目立つ形になっていて、最初は2つのサービスの対決の歴史かな、と思う方も多いかもしれません。原題では以下のように幅広いボイスコンピューティングの過去・現在・未来を包括的に描く内容になっていて、とても読み応えのある内容でした。
Talk to Me: How Voice Computing Will Transform the Way We Live, Work, and Think(私に話して〜いかにボイスコンピューティングが生き方、働き方、考え方に変革をもたらすか)」

冒頭の歴史の部分は少し難しいと感じる部分もありました。中盤ではアップルに搭載されているシリの開発・買収に至るエピソード、その後のアマゾンによるアレクサのサービスの生い立ちなど、各社が音声AI分野のスタートアップ企業を次々と買収することで現在に至っていることがよく分かります。

シリを開発した起業家たちは、アプリをリリースした直後にスティーブ・ジョブズから突然携帯電話に連絡があり、その後37日もの間、毎日買収の説得を受け、その結果買収が成立、iPhoneに導入されたという経緯を知ることが出来ます。その後、そのシリの開発者たちは退社、新しく起業したボイスAI企業がサムソンに買収されたことで、ギャラクシー搭載の音声アシスタント「Bixby(ビクスビー)」が生まれたそうです。

著者はアマゾンのアレクサが現時点では一番有望であるという見立てのようです。大学生を対象にした「アレクサ・プライズ」というAIとの会話を成り立たせるための技術コンテストのこと、また、求めている質問に対して最も適した回答をピンポイントで提供するスタートアップ「Evi(旧社名True Knowledge) 」の買収により、アレクサが誕生した経緯なども知ることが出来ます。

その他、大事なテーマとしてのプライバシー、倫理の問題についての論点も豊富な取材とリサーチに基づいて整理されています。このテーマはすぐに答えが出るものではないものの、今までの経緯を知るにはとても参考になる部分でした。

この本の読後感として一番強烈に残っているのは著者であるジェイムズ・ブラホス氏が、末期がんの父親との対話を記録し、チャットボット〜「Dadbot(父さんボット)」を作成するストーリーです。がんを宣告された後にICレコーダーで父の生い立ち、生き様を音声インタビューで記録し、書き出したテキストをシステムに入力することで、Facebook のメッセンジャー上で稼働するチャットボットが作成されます。以下のWiredの紹介動画、記事を見るとその様子がよく分かります。

Wiredの記事には多くの反響が世界中からあったそうです。倫理的な視点からは賛否両論あったそうですが、際立ったのは大切な人を失った家族、友人から、ぜひ同じようなサービスを手にして故人とのつながりを得たい、という切実な問い合わせが数多くあったそうです。

実はそんな近未来を、ネットフリックスで人気のドラマシリーズ『ブラック・ミラー』のあるエピソード(「ずっと側にいて」(シーズン2第1話〜原題:Be Right Back)で描かれています。愛する人を失った時、故人の過去のデータに基づいたロボットと暮らすことについて深い問題意識が投げかけられます。

亡くなった人を偲ぶためのチャットボットがすぐ実現するかは未知数ですが、高齢者や介護を必要とする人向けの見守りサービスはすぐそこまで来ているようです。書籍の中で紹介されている「ライフボット」というサービスはまだ実験的な試みのようですが、紹介映像にはヒントとなりそうな音声アシスタントの利用例が描かれています。薬を飲む時間のリマインダーをお知らせしたり、具合が悪くなった際に検知してテキストで家族に通知する機能などが描かれています。国内でも東京電力が家の中の家電の使用状況から暮らしぶりをスマホやスマートスピーカーに通知するサービス「遠くても安心プラン」を提供しています。

ボイスコンピューティングや人工知能に対する過度な期待、ディストピア的な批判、嫌悪感は過去何年も繰り返されていて、最近のスマートスピーカーの発展に対する注目もそうした大きな流れの一つであるかもしれません。人形ロボットペッパーが登場したのも、映画『her』を観て不思議な違和感を感じたのも共に2014年、それから5年の月日が経ってます。

とはいえ、現在アマゾンのアレクサチームには1万人以上のスタッフが日々開発に取り組んでいるそうです。プライバシーの問題も依然課題は山積みのようですが、ここからどのような変化がもたらされるのか、少し意識して注目してみたいと思います。

[音声業界の分野ごとのトップリーダー44人  by Boicebot.ai ]


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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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