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「JTC vs これからの組織」の違いとは?

1年前の2023年1月9日に「日本的組織から、スタートアップカルチャーへのアップデートが始まる」という記事を書きました。

あれから1年が経ち、2024年1月の日経新聞には、JTC(=伝統的日本企業)には課題が多く改革が必要だとする記事が出るようになりました。

僕たち日本の組織は、いわゆるJTC的な組織ままではもう立ち行かないということは、一定のコンセンサスが形成されてきたといえます。

今日は、JTCの特徴・課題を踏まえた上で、Startup Culture Lab.の所長としてスタートアップと研究してきた「これからの組織像」が、どうあるべきかについて整理したいと思います。


JTCの組織課題とは?

では、日経が論じるJTCの組織的な課題は何でしょうか?

アンケートにより見えた課題

先の記事には、日本企業で働く人材へのアンケート結果が掲載されていました。

https://www.nikkei.com/telling/DGXZTS00008750R10C24A1000000/#t1

会議を行うことは、関係する人物が集まり必要な論点を洗い出した上で、意思決定して前に進めるために他なりません。
また、人事制度や労働環境などを改善するのは、従業員のパフォーマンスを引き出し組織の成果を最大化するためです。
当然どちらも、経営陣の重要な仕事です。

外資系やスタートアップでの経験が長い私からすると、どちらも当たり前のことなのですが、どうやらJTCでは真逆のことが起こっているようです。

「会議では何も決めず、従業員のパフォーマンスのブロックとなっている」
これが本当だとすると、経営陣はもはやいない方が組織にプラスなのかもしれないと思えるほどです。

記事ではさらに、自由回答の結果も踏まえてこのように結論づけています。

「古い体質」「事なかれ主義」「固定観念に縛られている」。JTCはなぜ変われないのか?への自由回答からは、失敗を恐れ、変化を拒み、現状維持にとどまろうとする企業の姿が見えてきた。年次や勤続年数が出世や給与を左右する硬直的な人事制度が、社員の働きがいと熱意を奪っている。

https://www.nikkei.com/telling/DGXZTS00008750R10C24A1000000/#t1

硬直的な人事制度が、社員の働きがいと熱意を奪っている。と。

JTCは前例踏襲型のカルチャー

なぜ、このようになってしまったのでしょうか?
理由は、JTCのカルチャーが「前例踏襲型」を前提としているからです。

JTCには、Japan as No.1と言われた高度経済成長期の強烈な成功体験があります。経営幹部の多くが60歳以上でその成功体験が働き始めたころの原体験なのですよね。

高度経済成長期は、人口ボーナス期なので前年の延長で同じことをしていれば成長することができました。過去を踏襲していれば安定的に成長できたわけです。失われた30年というのは、これと同じことをしていたけれど、人口増が止まってしまったので、成長が止まったということなんです。

Japan as No.1と言われたころの日本組織の強みは「凝集性」でした
設備に大きく投資し、オペレーション効率を追求しカイゼンを繰り返す。そうすることで、過去より少しずつより良くして、その実行力で世界に勝ってきたといえます。

それを実現するため、新卒で一括採用し、定年まで安定的に働き、年功序列でポストが決まる人事のモデルを確立してきました。そうすることで、過去との連続性を担保しながら、長く働く人材同士のネットワークによる擦り合わせによって、高いオペレーション効率を実現してきたのです。

リスクを避けながら失敗しないように安定的に経営する。実際日本には創業100年や300年を超えるような古い企業が世界で最も多い国です。安定的に維持することには長けていると言えるでしょう。

このように、元々JTCの組織特性は企業の競争優位だったはずです。
しかし、環境が変化する中でもその成功体験に囚われ、失われた30年を経ても変わらずにそのままでいたことにより、今では大きな課題となって顕在化しているのです。

これからの組織とは?

これからの日本社会は人口が減少します。
これは前年と同じことをしていたらマイナスするということを意味します。

トヨタvsテスラ

トヨタはカイゼンを繰り返し、海外の車よりも安全で壊れない優れた車をより安価に提供してきました。それにより、トヨタは世界ナンバーワンの販売台数を誇り、日本を代表する企業となりました。

では、企業価値(株式時価総額)で世界一の自動車メーカーはどこかというと、テスラなんです。
それも、時価総額で4倍の差をつけられています。(7月の記事ですが)

過去の延長でガソリン車でカイゼンを続けてこれほどまでに成長したのに、電気自動車というイノベーションによって一気に抜かれてしまったということです。

スタートアップから学ぶ

このイノベーションを日本も起こしていかないと、成長産業が作れないということになります。そして、過去の延長を積み重ねても人口が減少する限りは大きな成長は見込めないのです。(海外市場もありますが、製造原価も人件費も安い地域には勝てません)

なので、これからは失敗を避けカイゼンを積み重ねる前例踏襲型の組織モデルから、イノベーションを通じ自ら市場に対して変化を起こしにいけるモデルでなければなりません。

僕は、そうしたイノベーションを起こす組織を作るなら、スタートアップから学ぶべきだと考えています。

スタートアップは、イノベーションにより急成長することを前提にしています。そのため、組織づくりにおいても事業の急成長を実現できることを前提に設計します。

イノベーションを起こすためには、ジョブ型により高度な専門家を抱え、多様な人材を集めることによる化学反応が欠かせません。
自律的に変化を起こす優秀な人材に市場価値に見合った報酬を与え、リスキリングしながら事業成長をドライブできる人材を確保する必要あります。
そして、変化に対してスピーディーに対応するためにも、情報はオープンに共有し、権限委譲を通じたフラットな組織でなくてはなりません。

このようにして、人や組織に投資をすることで大きなリターンを得ることこそが、昨今注目されている人的資本経営です。

こうした「自律的に変化を起こし成長し続ける組織」あり続けるためには、それがカルチャーとなって組織に定着している必要があります
そうした、「スタートアップカルチャー」こそがこれからの日本の成長に欠かせないと僕は考えています。

JTC vs これからのカルチャー

JTCとこれからのカルチャーを対比で表した図がこちらです。
(昨年の記事からアップデートしました!)

唐澤作成

昨今HR界隈で注目されてるキーワードが右側に集約されていることがわかると思います。
これらキーワードは部門ごとや担当者ごとにバラバラに渡されて動きがちですが、全てが繋がっており、結果として一貫性のある強いカルチャーを形成するのです。
これらをそれぞれ、別の活動として捉えないことは大事なポイントかなと思います。

これからのカルチャーを作る4Eモデル

スタートアップのようなこれからの組織カルチャーを作るために必要な要素をフレームワークに独自に整理したものが「4E」モデルです。

4Eモデルとは

カルチャーとは組織運営した「結果としての状態」なので、「うちはオープンなカルチャーだ」とコーポレートサイトで宣言しても、急にそうなるわけではありません。
そうした状態にするためには、組織に関するあらゆる観点から施策を打ち込み、それらが一貫している必要があります。

イノベーションを自律的に起こす理想の組織カルチャーを定義したものが下表の4Eモデルです。
12の目指す組織像が定義され、3つずつの塊になってEmpathy, Expertise, Empowerment, Environmentの4つのEを形成します。
12の組織像はそれぞれ、実現するための人事施策に直結しています。

唐澤作成

どのようにモデルを開発したか

この4Eモデルは、唐澤が設計した仮説をベースに、自身が所長を務めるStartup Culture Lab.で、スタートアップとのリアルな実例を踏まえた毎月の研究を踏まえて整理したものです。

仮説の設計は、自身の経験をもとにしています。具体的には、メルカリやSHOWROOMなど異なるスタートアップでの経験、対比となる大規模組織としてマクドナルドや中央省庁(デジタル庁)での経験、そして、40を超える多様な企業での経営・組織コンサルティング経験から総合的に仮説を設計しました。

そこに、スタートアップ30社ほどの経営者や人事責任者など現場の最前線で取り組んでる方々と直接議論し、組織カルチャー診断によるサーベイデータも踏まえて検証をしています。
サーベイで定点的に観測しながら改善を回すことはとても大切で、自分自身にもたくさんの学びがありました。

検証した結果、やはり特効薬となる一つの打ち手があるわけではなく、12の人事施策を一つ一つ丁寧に重ねていくということが欠かせないことも改めてわかりました。

Startup Culture Lab.いよいよ本格始動!

そうしたスタートアップカルチャーを醸成するため、今年コミットして取り組む活動の一つがStartup Culture Lab.です。

(Webサイトができました!!)

Startup Culture Lab.の取組みと学び

Startup Culture Lab.では、4Eモデルにある「12の目指す組織像」をテーマとして設定し、月に1回、全12回でスタートアップカルチャーを学ぶ場です。
2部構成になっていて、前半が講師をお呼びしての公開セッション、後半はスタートアップ人事責任者を中心とした研究メンバーによるクローズドでのワークショップです。

いずれの回も、有識者や先輩スタートアップ、海外テック企業などの先進事例を取り込みながら議論します。
クローズドワークショップでは、NDAを前提に、外では話せないような人事のリアルな話を相談し合い、解決策を出し合います。そして実務に持ち帰って1ヶ月動き、また次のテーマに取り組む。というサイクルになってます。

今年度は仮説をベースにしたパイロットとして実施し、30社ほどのスタートアップが集まってくれています。
毎月実施して強烈に感じていることは、組織運営に正解はないということです。事業モデルにもよって前提が異なりますし、経営陣の過去の経験の影響もあれば、無数のステークホルダーからのインプットもある。
そして、正解がないからこそ、各社それぞれ色々と苦労しながらも独自の手法論を編み出しているということもよくわかりました。

しかしながら、組織的なことや人事的なことというのは、どうしても対外的にオープンにしづらい。そのため、宝のようなノウハウ・事例がスタートアップの内部にたくさん眠っています。一方、スタートアップが直面する課題は類似した傾向があるので、そのノウハウは他の企業でも大いに参考になるのですよね。

Startup Culture Lab.では、外に話しづらいリアルな課題について、各社のノウハウを相互に共有しながら解決策を見出していくプログラムです。
独自な強みを社内に隠すのではなく、相互に共有し合うことで学び合うことこそが、日本のスタートアップの発展に貢献すると信じています。

2024年4月から、新たな研究メンバーを迎えて本格始動します。
多くのフェローたちと協力して取り組んでまして、完全無料でスタートアップで相互に学ぶ機会を提供していければと思います。

2024年2月12日まで、メンバー募集期間ですので、よろしければご一読の上ご応募いただけると嬉しいです!!

総力戦で日本のカルチャーをアップデートする!

さいごに、Startup Culture Lab.での取組みは、スタートアップに限定されたものかというと、そうではないと考えています。

スタートアップと協業することでオープンイノベーションを起こすことを目指す大企業であれば、スタートアップと連携する以上は、スタートアップカルチャーでなくてはならないでしょう。
同様に、VC・CVCなどの投資家や、金融機関などもスタートアップのスピード感を持って動かないと支援がしきれません。
こうしたエコシステムプレイヤーたちも皆、スタートアップカルチャーへと進化していく必要があると考えています。

また、いわゆるJTCも悲観的になる必要はありません。
JTCも、起業した頃はスタートアップだったわけです。その頃のように、熱狂的にイノベーションを起こしスピーディーに価値を市場へと提供していく。そうしたことは決して不可能ではないと思います。

日本の組織のスタートアップカルチャーへのアップデートは、スタートアップだけでも、ましてやStartup Culture Lab.だけでも実現できません。

誰か一人で一気に100メートル大きく変化を生み出せる天才がいたら、イノベーションは起こせるかもしれません。しかし再現性がない。
それよりも、1ミリでも変化を起こす人が、1万人いれば同じ100メートルです。こちらの方が広がりと再現性があると思いませんか?

今年も総力戦で!日本のカルチャーをアップデートしていきましょう!!

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