『アートは自分や社会を知るためのツール』藤幡正樹さん×西村真里子さん×若宮和男さんトークセッション「アート思考×ビジネス #03」レポート
COMEMOの好評シリーズイベント「アート思考×ビジネス」。第3弾のテーマは「アートとイノベーション、気付くチカラをみがく」です。今回もuni'que代表 若宮和男さんプロデュースのもと、東京・原宿のTOT STUDIOで8日、メディアアーティストの藤幡正樹さん、株式会社HEART CATCH代表取締役の西村真里子さんをお招きし、熱いトークが繰り広げられました。その模様をお伝えします。
登壇者の紹介
今回、お呼びした藤幡正樹さん。1956年東京生まれ。80年代初頭からコンピュータ・グラフィックスとアニメーションの制作、その後コンピュータを使った彫刻の制作を経て、90年代からはインタラクティブな作品を次々に発表。
2012年に仏ナントで展開した「Voices of Aliveness」は、自転車に乗りながら参加者の名前を叫んでもらい、それを3D空間にまとめあげた作品。2013年のアルス・エレクトロニカで優秀賞を受賞しました。
なぜ、叫びなのか。「禁止されたことを解放して、記録して、見られるようにすることは意味がある」。もう1つ、生まれたときは、みんな「オギャー」と叫ぶ。違う世界にスイッチするときに叫ぶのだと考えると、この作品に参加して、人生を新しく入れ替えることができるといいます。
続いて、西村真里子さん。日本アイ・ビー・エムでITエンジニアとしてキャリアをスタート。2014年に株式会社HEART CATCH設立。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ「分野を越境するプロデューサー」として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出しています。
昨年よりフランス発アート思考プログラム Art Thinking Improbable を日本のビジネスパーソンを対象に展開されています。詳細は後ほど。
そして、起業家でuni'que代表の若宮和男さん。建築士としてキャリアをスタート。その後、アート研究者、モバイルIT業界を経てuni'queを創業。多くの企業に新規事業やコアバリュー経営のアドバイザリーを行い、複業やコミュニティ関連でもメディア掲載、講師、イベント登壇などでご活躍中です。
若宮さんは「アート思考×ビジネス」シリーズを企画・立案してくださいました。第1弾は「不確実性の時代にアート思考をどう活かすか」、第2弾は「日本流イノベーションの可能性 アート思考と身体」。そして、今回のテーマは「気付きの力」です。
若宮さんから問題提起
「枠組の中にいながら、既存の枠組みでは評価できない、さらにはその枠組み自体を変えてしまうような価値をどうやって生み出したのだろう」。
アーティストはそれをどのように成し遂げているのでしょうか?
自分の足元を掘る
藤幡さん マネじゃなくて、独創的だったりユニークなものがどうやって生まれるかというと、自分の足元を掘るしかないんですよ。足元を掘る作業は、ものすごく孤独なわけよ。それを日本は明治からずっとやらないで来たんですよ。よそからモデルを持って来て、モデルが有効な限り使い続ける。それを変えないと、まずアジアの国々に勝てない。
西村さん 私が昨年からやっているのが、フランスのビジネススクールで始まったアートシンキングのワークショップ。「ビジネススクールで教えることは、もしかしたらアーティストがヒントを持っているのかもしれない」ということで始まった。アーティストがビジネスの現場にやってきて、「あなたのやりたいことは何?」と聞く。ビジネスマンは言葉で説明する。するとアーティストは、目の前にある材料を指して、「これで自分が本当にやりたいことを表現してみて」と言う。
今まで言葉に頼っていたが、プレゼンだ、パワポだ、ピッチだ、っていう道具を使えなくなって、とにかく自分の周りにある材料で、自分のやりたいことを表現する、ということを3日間やる。最終日に、つくった作品をパブリックな場所で発表させるんです。私自身が参加した時、これまで自分のなかに閉じ込めていたものに気づきがあったというか、ぱっと開かれたと感じました。
メタファーが発想を生む
藤幡さん いろんなメタファーが現実世界にはあって、それが何か発想を生むときのきっかけになったりするんですが、みんな見落とすんです。普通の人だったら、「水道は水を取り出すためのもの」としか思っていませんが、アーティストの思考は多くの場合、普通の人が「これはこの目的のためにできている」と考える目的とは合致しない方向にものを使う。これはビジネスでも、ものすごく使えると思います。
どうドリフティングしたらいいか?
西村さん デビエーションというフランスのアプリがある。「水モノを探す」とか「白いものを探す」とか、自分でアイデア出しできないときの、アイデア出しのツールのようなもの。アイデアを自分の中から出したり、難しければそういうものを使いながら、自分が目指す方向に対して、いくつか選択肢を持ってやっていくと、全然違うアプローチで行けるかもしれない。
若宮さん ゴールに至る道筋は無限にある。いろんなバリエーションを思いつけばつくほど「何によって選ぶんだろう」と考えてしまうが、自分にピンとくるものしかないと思う。ブレストっていうと、ポストイットにいっぱい書きだすけれど、その中からいったいどれを選ぶのか、ヒリヒリするし面白い作業。アーティストはずっとそれをやりつづけている感じがする。
藤幡さん 直接、手で触れるようなものでないと。ロジックではなくて、身体的な経験がない限り、新しいものは絶対生まれない。コンセプト、マテリアル、テクノロジーは三位一体。この3つが群れながら変わっていく。この3つの区別がつかないのであれば、スキルが足りない。ロジカルな考え方もできないと、ソリューションは見つからない。
気付きを得るには
西村さん 「アートシンキングコレクティブ」というインスタグラムのアカウントを見てもらうと、アート思考のワークショップで、過去にどういう作品が生まれてきたかが載っている。これは日本のビジネスマンの方が参加した作品。
シェアリングエコノミーは、自分に余剰がある部分を他人と共有しよう、ということで始まったはずなのに、お金儲けの視点で見始めているよね、という作品。アンパンマンをメタファーに使っています。
これは女性の一生を本で表した作品。絵本で始まって、般若心経で終わっています。参加者に効くと「今までにない視点でモノがみられるようになった」とか、「いままで気付かなかったことに気付いた」とかいう行動の変化があります。
藤幡さん 自分を出すことで自分がわかることがある。また、美術館に行けば、人が出したものを読み解く能力が上がる。分からないものがこの世の中にある、ということを発見しに行くところが美術館。自分や社会を知るためのツールとして、アートは重要だと思う。
体を使って気付きを得たいんだったら、公園に行って、地面に寝転がってみたらいいと思う。そういうことしないでしょ。近所を歩いてみて、行ったことがないところに行ってみてください。すごく簡単なことだと思う。
今回のグラレコ担当は、グラフィックカタリスト・ビオトープの山尾美沙季さん。論点を振り返ってもらいます。もやもやしていた考えが一度、すっきりしますね。
早くもイベントレポートが上がっていますのでご紹介しますね。
続いて、第1弾、第2弾のレポートです。
シリーズ3回を通してご登壇いただいた若宮さんをはじめ、7人の登壇者の皆様、本当にありがとうございました。ご参加いただいた皆さんに少しでも得るところがあれば、スタッフ一同心からうれしく思います!(COMEMOスタッフ山田豊)