中国のC2Mで加速するデフレーミング プラットフォームが仲介する個別最適化
コロナでめっきり海外出張の機会が無くなり、世界のイノベーションの状況を把握することが難しくなったと感じている人もいるのではないだろうか。
こうした状況の中だからこそ、世界の最先端で何が起こっているかをできるだけ把握できる機会を作るべく、私の研究室(東京大学大学院情報学環・学際情報学府 高木研究室)では、「デジタルイノベーション・トークシリーズ」というイベントを新たにスタートした。
これは、各界のデジタルイノベーションの識者の皆さんにご講演頂くとともに、研究室のメンバー、一般参加者も含めてできるだけ議論の時間を多く取りながら、双方向のスタイルで学んでいこうという試みである。
(ちなみに、セミナーや講演会がオンライン化する中で、従来の講演+Q&Aという形式を打破できないかという試みでもある。)
そして、その記念すべき第1回は『チャイナテック: 中国デジタル革命の衝撃』の著者で、伊藤忠総研の趙瑋琳さんをお迎えして開催された。
イベントの内容はその場限りのものであるが、多くは『チャイナテック: 中国デジタル革命の衝撃』の内容に即して議論されたため、今回は本書の内容を参照しながら、重要な点をピックアップして紹介したい。
C2Mとは何か
AI、ブロックチェーン、ニューリテール/EC、5Gなど幅広い分野で猛烈な勢いでイノベーションが進んでいる。本書ではそれらのけん引役を「ABCD5G」(AI、Blockchain、Cloud、Big Data、5G)という言葉でまとめているが、特に私が興味を惹いたのはC2Mの展開である。
C2MとはConsumer to Marketの略で、「消費者ニーズを的確に把握した事業者が仲介役を果たし、消費者と製造業者をつなぐビジネスモデル」(p.51)である。より具体的には、以下のように特徴づけられている。
プラットフォーマーである事業者は、ビッグデータなどを基に消費者ニーズを的確に把握して製品を企画したり、色やデザインを選べる準オーダーメイドの商品を消費者から直接受注したりして、完全買い取りの方式で製造業者に発注します。(p.51)
つまり、その特徴は①消費者のニーズを基に製造のフローが始まることと、②メーカー直結ではなく、間にプラットフォーマーが介在するという点である。
その事例として、本書ではカスタマイズできる商品を多数扱うECサイトである「必要商城」や、アパレル分野のマス・カスタマイゼーションと得意とする「酷特智能」、そして「ハイアール」による家電のパーソナライズなどの事例が取り上げられているので、詳しくは同書をご覧いただきたい。
デフレーミングの第2要素、個別最適化
こうした製造業のパーソナライズは、筆者が「デフレーミング」の第2の要素、個別最適化として取り上げてきたものだ。
第二の要素は「個別最適化」です。これは、画一的なものを大量に生産して販売するのではなく、ユーザーによって細かくカスタマイズしながら届けることです。例えば、ナイキ社による「Nike By You」のような製造業におけるマス・カスタマイゼーションのサービスや、様々なウェブサイトで導入されているパーソナライゼーションの機能が挙げられます。ビッグデータとAIの時代になったことで、膨大なユーザーのニーズを形式知化し、オーダーメイドのサービスへとつなげることが容易になりました。しかも、既製品と比べて大したコストアップをせずに、カスタマイズすることが可能になったのです。(過去のNoteより)
化粧水を日々のお肌の状態に合わせてパーソナライズできる資生堂の「Optune」や、同様にフェイスパックを個人の肌状態に合わせて作って提供するJohnson & Johnsonの「Neutrogena MaskiD」などがある。
また、ZOZO Suitsに続き、肌の色を診断してファウンデーションをお勧めするZOZO Glassなど、実験的な取組も含めて、個別最適化は少しづつ進んできてきた。
しかし、上記の中国の事例を見ると、予想を上回るスピードで個別最適化が進み、新たな製造業の姿として定着しつつあることが分かる。
プラットフォームの位置づけ
ただし、デフレーミングで当初想定していなかったのは、中国のC2Mではメーカーと消費者の間にプラットフォーム企業が入ることだ。その要因の一つとして、同書では中国にはOEMメーカーが多く、自社ブランド力が弱いため、それを補完するためにもプラットフォーム企業が重要である点を指摘している。
ここで思い出すのは、日本各地の衣服工場をつないで小ロットのアパレル生産に対応している「シタテル」である。
中国のC2Mの特徴は、こうしたプラットフォーム的な取り組みをさらにデジタル化しつつ、「工場-プラットフォームー顧客」の3階層に整理している点かもしれない。
また、プラットフォーム企業は、衣類だけでなく様々な商品・サービスについて顧客との接点になるため、顧客ニーズを把握し、パーソナライズされた商品を企画する上で良い立場にあるということもあるだろう。
様々な分野でデジタルイノベーションが進む中国の状況は、参考になる部分も多い。冒頭に紹介したトークシリーズでは、今後も継続して世界のイノベーションについて議論していきたいと考えている。関心のある方のご参加をお待ちしています。