私がデザインを学びながらサステナビリティと出会って徳島・上勝町で働き始めた理由
自分が夢に描いた職業や進みたいと思った業界が、社会的・環境的に負荷の大きい「サステナブルじゃない」ことで利益を上げていると知ったら、どうしますか?
昨今、ビジネスと切り離せない言葉になりつつある「サスティナビリティ(持続可能性)」。これからのビジネスでは、サステナブルを「自分ごと」として捉え取り組めるかどうかが、カギを握っているように思います。
現在の「利益・売上優先」のビジネス現場において、サステナブルをどのように自分ごと化していけばいいのか、さらに、社会の大きな仕組みの中でサステナブルを実践することの難しさや課題について、篠田真貴子さん(マキコさん)と一緒に考えてみたいと思います。
この企画は、日経COMEMOとNIKKEI STYLE U22が連動で行なっているシリーズ「マキコの部屋」です。毎回、篠田さんが次世代のリーダーに話を聞きます。
今回は、小さい頃からファッションデザイナーを夢見て、多くのトップデザイナーを輩出した世界的な芸術大学への留学をきっかけに、「サスティナビリティ」と出会い大きな方向転換を遂げた、大塚桃奈さんにお話を伺います。
大塚さんは現在、徳島県にある「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」でゼロウェイスト(ごみゼロ)に取り組んでいます。上勝町は日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を出し、サステナブルの町として注目を集めています。人口1500人の小さな町のゴミステーションでは、ゴミの45分別が行われ、リサイクル率80%を達成しています。
◇ ◇ ◇
■夢だったファッション業界が抱えていた労働問題や環境問題を知って大変身!
ーマキコさん(篠田さん)
「サステナビリティ」に出会う前のお話から伺いたいのですが、大塚さんはファッションデザイナーになりたいという夢をもっていたんですよね。
ー大塚さん
はい。小さい頃からファッションが好きで、小学生の頃は、自分で服をデザインするキットが付いている本で遊んだりしていました。
中学1年生のときに、職業体験ができるアミューズメントパーク「キッザニア」が主催するデザイン画コンテストでグランプリをいただきました。実際に自分のデザインした服が製品化して、世界に1つだけの服になりました。
それがとてもうれしくて、本格的にデザインの道に進みたいと思うようになりました。
高校生のときに「トビタテ!留学JAPAN」に応募して、6週間ロンドン芸術大学に留学しました。ファッションの勉強をしながら実際にミシンで服を作ったりもしました。
ーマキコさん
その頃までは、デザイナーへの道を一直線に進んでいるという感じだったんですね。ロンドン芸術大学は、世界で一番古い芸術系の大学ですよね?
ー大塚さん
そうです。トップデザイナーを多く輩出している学校で、才能のある学生が世界中から集まってきていました。
ーマキコさん
その留学が「サステナビリティ」に興味をもつようになったきっかけなんですよね?
ー大塚さん
「トビタテ!留学JAPAN」のプログラムでは、「学んだことをどうやって社会に還元できるかを考えた上で勉強する」ということが問われました。
それを問われたことが、ただ好きでデザインをするのではなく、服が作られる過程や環境を考えるきっかけになりました。
いろいろ調べていくうちに、それまで「ポジティブなもの」だと思っていた自分の好きなファッション、例えば「ファストファッション」が実は労働問題や環境問題、日本の繊維産業にも影響を与えているということを知りました。
「こんなに社会課題があるなら、デザインを学ぶ前に社会のことを知らなければいけない」と思いました。このときから、サステナビリティやエシカル消費に興味をもち始めました。
ーマキコさん
好きなファッションを通してサステナビリティと出会った大塚さんが、さらにそこから上勝町でお仕事をするようになるには、大きなジャンプがあったと思うのですが、分岐点になるようなことがあったのですか?
ー大塚さん
私が今働いている「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」を設計した中村拓志さんが私の母の同級生で、「上勝っていうゼロウェイストに取り組んでいる山の中の町があるらしい」ということを大学1年生のときに知りました。
なんだか面白いことが始まりそうだと感じて、1人で徳島空港からバスを3つ乗り継いで行きました。1人で行ったので、町の人たちと交流することができて、そこでいろいろな人とのつながりができました。
大学3年生で1年間スウェーデン留学していたときに、上勝のプロジェクトメンバーの方から「ヨーロッパの視察ツアーをコーディネートしてほしい」という依頼を受けて、アムステルダム、ブリュッセル、ベルリンを巡りながら、サーキュラーのビジネスやコミュニティーを見る機会がありました。
大量生産・大量消費・大量廃棄とは違う、「今ある資源をどう活用していくのか」を考えている人たちが世界にはいることを知りました。
その後、「上勝でも新しいプロジェクトが始まるから、よかったら一緒にやってみない」と声をかけていただいて、町にやってきました。
上勝町ゼロ・ウェイストセンター
(C)Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO
■ゴミを出さずに循環させるための具体的な方法とは?
ーマキコさん
上勝町では「ゼロウェイスト(ごみゼロ)」の取り組みをされていますが、具体的にゴミをゼロにする(ゴミが出ない)というのはどういうことなのでしょうか?
ー大塚さん
上勝は、2003年に日本の自治体で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を出した町ですが、このゼロウェイストの意味は「焼却ゴミ・埋め立てゴミをなるべくゼロに近づけよう」ということです。
ーマキコさん
「ゴミを45種類に分別している」など、キャッチーな文言も目にしますが、それはおうちにゴミ箱を45個用意しなくちゃいけないということなのかな、とか(笑)そんな想像もしてしまったのですが、どういう仕組みになっているか教えていただけますか。
ー大塚さん
例えば、私が働いているゼロウェイストセンター併設の宿泊施設「ゼロ・ウェイストアクションホテル HOTEL WHY」では、宿泊者の方に、滞在中に自分が出したゴミを6分別してもらいます。
生ゴミ、紙ゴミ、その他のゴミ、きれいな容器・包装のプラスティック、汚れているプラスティック、缶・瓶・ペットボトルです。
それをさらにチェックアウトのときに、町のゴミステーションに行ってスタッフのヘルプを受けながら、さらに分けてもらいます。
HOTEL WHY
(C)Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO
ーマキコさん
分別されたゴミはどうやって焼却ゴミや埋め立てゴミにせず、処理するのですか?
ー大塚さん
まず、上勝では各家庭に電動生ゴミ処理機があるので、生ゴミの回収をしていません。生ゴミは家庭の3〜4割を占めるので、それを処理するにはコストもエネルギーもかかります。分けることで処分しなくて済む方法もとっています。
それから、上勝ではゴミをなるべく素材ごとに分けています。例えば、紙は9種類。内側が白のもの、内側が銀のもの、紙カップ、シュレッタークズのゴミ、雑紙、新聞、ダンボール、その他の紙、硬い紙芯です。
こうすると、これらは資源に変えることができます。
一般的にゴミは「可燃ゴミ・不燃ゴミ」で分けると思いますが、上勝では「リサイクルできる・できない」で分けています。出ているゴミをなるべく資源に変えていこう、という発想から始まっています。
ーマキコさん
上勝町のリサイクル率は現在80%を達成しているそうですが、残りの2割にはどんなものがあるのですか?
ー大塚さん
例えば、使い捨ての紙おむつや使い捨てのカイロなどのように、素材が密着しているゴミです。どうしても燃やさなければならないゴミ、埋めなければならないゴミになっていて、これが今、町の課題になっています。
上勝のゴミステーションには「そのゴミがどこに行って何になるのか?」が明記されています。可視化されることが課題解決の第一歩として、非常に大事だと思います。
ーマキコさん
自治体がゴミの行方やリサイクル先を可視化してくれると、「何を買うか?」ということにも意識が向きますよね。
ー大塚さん
消費行動も変わってくると思います。例えば、お菓子なら「2分別のチップス」と「4分別のチップス」があります。
アルミ缶はリサイクル業者さんが1kgあたり90円で買い取ってくれますが、瓶やペットボトルはリサイクルには費用がかかります。リサイクルの観点からは、缶は資源としての価値が高いということになります。
ーマキコさん
確かに、そういうことを知っていると、自分がゴミを捨てるときにどちらが楽かとか、金額的にどちらのコストが高いかとか、いろいろ考えながら買うようになりますね。
ー大塚さん
そのゴミがその後どうなるのかを知ることが、ローウェイストを理解する上での最初の一歩だと思います。
■サスティナブルとビジネスを両立させてゼロウェイストを実現するために
ーマキコさん
「リサイクルにはコスト」がかかるという点が、リサイクルがなかなか広まらない、特に企業がなかなか前向きになれない要因の1つだと思います。上勝町の皆さんは、コストがかかることについてはどう考えているのですか。
ー大塚さん
上勝のゴミの総量は300トンくらいです。これをすべて焼却埋め立て処分すると1000万円以上のお金がかかります。でもそれを、細かく分別することによって600万円くらいに抑えています。
町のゴミステーションは役場が管理しているので、そこには他の自治体同様、税金がかかっていますが、例えば「ちりつもポイントキャンペーン」という、資源物を分別することでもらえるポイントを発行して、それを町で使える商品券に交換できるようにして還元したりもしています。
リサイクルに協力することで、地域の経済が回るような仕組みも作っています。
ーマキコさん
総コストを考えた場合、必ずしもリサイクルはコストがかかるわけではないということですね。
コラボレーティブラボラトリ
(C)Transit General Office Inc. SATOSHI MATSUO
ー大塚さん
大きい都市では高性能な焼却炉が導入されていて、それを維持するために焼却ゴミが必要というような、負のスパイラルも起こっているようです。ゴミを燃やすことを前提とする方法を変えていかないと、コストもエネルギーもたくさんかけなければならないと思います。
ーマキコさん
一方で、リサイクルには需給のバランスが重要だと思います。再生プラスティックを使って運搬用のパレットを作っていた業者が、コロナの影響で大量運送業自体が減少したことで生産数が減り、廃プラを引き取れないということも起こっているようです。
リサイクル業者さんは、資源となるゴミが上勝町のようなところからくる量と、再生して需要される(売れる)量のバランスが取れているから、事業として成り立つわけです。
経済の状況が変わってバランスが崩れたとき、再生できる資源ゴミを集めても、それが再生されないということも起こり得るのではないかと思いますが、大塚さんはどうお考えですか?
ー大塚さん
「リサイクルだけでゼロウェイストを実現するのは難しいだろう」ということは、17年間取り組んでくる中で、上勝が出した1つの答えだと思います。
やはりものを作る段階で、それがどのように回収されて廃棄されるのかを踏まえて生産しないと、変わらないと思います。
これまでのビジネスでは、売り上げが一番の目標で、環境や社会のことはその次だったと思います。でもこれからは、売ることよりも、作ったものがどう循環するかに意識を向けていかないと、ビジネスとして継続していかないと感じています。
ーマキコさん
先ほど、上勝町でリサイクルできない残り2割のゴミの例として、紙おむつをあげてくれましたが、じゃあ「布おむつにしますか?」と言われると、それは難しいことですよね。環境負荷があるとわかっていても、お母さんの労力や赤ちゃんの衛生面を考えれば、いい面もありますし。
そこでメーカーが、リサイクルできる紙おむつを作ってくれれば、それは利用してみたい、となると思います。
ー大塚さん
無理してやると続かないと思うので、「生きやすさ」は非常に重要だと思います。上勝は高齢者が多い町なので、45分別は実はとても大変です。
ある程度の労力が伴ってくる分別作業が難しく、燃やさなければならないゴミが増えてしまったり、廃プラが増えたり、そういうことは実際に上勝でも起こっています。それをどうやってみんなが取り組めるユニバーサルなものにできるか考えることが、今、課題に感じているところです。
ーマキコさん
生きている以上ゴミは出ますし、ゴミを出さないために何かを我慢することも、別の意味でサステナブルじゃない気がします。
「お互い助け合っていかないと無理だよね」ということだと思います。
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■皆さんから募集した投稿「あなたが変身した話」
大塚桃奈さんがファッション分野からゴミゼロ活動者へ大きく変身した点に注目し、今回のイベントに先立ち、「あなたが変身した話」と題してみなさんから投稿を募集しました。ご投稿いただいた方々、本当にありがとうございました。いくつか最後にご紹介したいと思います。
■「未来」=「ピンチ」×「変身」(若宮和男さん)
物事がうまくいっているときは、人は変われないと言い、「変身」は「ピンチ」によって起こり、「未来」をつくると定義しています。アメリカの心理学者ダグラス・ホールによって提唱されたキャリア理論と、ご自身の経験談をもとに主張されています。
■変わりたいなら、変わらない軸を持つこと(河原あずささん)
変わろうとして、昨日と違うことをいくらやっても、軸なしでは根本的に変われないことを、ご自身の体験をもとに主張されています。この考え方は個人にも組織にも共通しているとも。
ここではご紹介しきれませんが、ほかにも体験談盛りだくさんの変身した話をお寄せいただきました。ありがとうございます。こちらからご覧ください。
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ゼロウェイストを学びたい方におすすめの参考図書とサイトをご紹介します。
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この記事は2月16日(火)に開催した、オンラインイベント「ファッションからごみゼロへ ~私が変身した理由~」の内容をもとに作成しました。
篠田真貴子さん
株式会社YeLL 取締役
【篠田さんのプロフィール】
1968年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月にほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。取締役CFOを務める。2018年11月に退任し、1年3カ月のジョブレス期間を経て、2020年3月からベンチャーの「YeLL」取締役に。
・note:https://note.com/hoshinomaki
大塚桃奈さん
株式会社BIG EYE COMPANY CEO
【大塚さんのプロフィール】
1997年生まれ、湘南育ち。「トビタテ!留学JAPAN」のファッション留学で渡英したことをきっかけに、服を取り巻く社会問題に課題意識を持ち、長く続く服作りとは何か見つめ直すようになる。 国際基督教大学卒業後、徳島県・上勝町へ移住し、2020年5月にオープンした「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」に就職。現在、山あいにある人口1,500人ほどの小さな町で暮らし、ごみ問題を通じて循環型社会の実現を目指して同施設の運営に携わる。 併設するHOTEL WHYでは、宿泊を通じて上勝での暮らしを体験でき、チェックイン時にはスタディツアーを開催している。
・上勝町ゼロウェイストセンター"WHY"
・上勝町役場ゼロ・ウェイストポータルサイト
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【日経COMEMO】
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【NIKKEI STYLE U22】
連動企画開催中!
日経COMEMOでは、NIKKEI STYLE U22との連動企画として、投稿募集およびオンラインイベントを毎月開催しています。次回もぜひご参加ください。
【マキコの部屋#04 SDGs経営を救う科学者(仮)】
日時:3月23日(火) 20:00〜21:00
参加費:1,500円(※日経電子版有料会員は無料)
定員:200名
主催:日経COMEMO
※Zoomウェビナーで開催します。
お申込み受付開始次第、日経COMEMO公式ツイッターアカウントでお知らせします。ぜひフォローしてチェックしてください!
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