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広告会社における競合プレゼンの勝ち方。

広告会社にいると避けて通れないのが「競合プレゼン(通称:競合)」というイベント。

競合プレゼンとは文字通り、複数の会社が同じお題で競い合うこと。

似た概念で「入札」もあるが、提案内容で競い合うのが競合で、受注金額で競い合うのが入札と理解するといい。

私は17年間電通という広告会社にいたが、競合プレゼンという行為があまり好きではなく、その理由は以前も日経COMEMOに書いた。

ただいくら「好きではない」と言っても、避けては通れないのが競合プレゼン。17年間で何度も経験した。

もちろん勝ったことも、負けたこともあるが、キャリアの後半の勝率はかなり良かったと思う。

それは提案内容が磨かれたというより「勝ち方がわかってきた」と表現した方が正しい気がする。

キーワードは「アイデアじゃんけんからの脱出」だ。

今日はそんな話。

◾️勝つ確率を少しずつ上げる方法

広告会社における競合プレゼンと言うと「アイデア勝負」という印象が強い。

より秀逸なアイデアを出した方が勝つ。

そう思われがちだし、その要素はもちろんある。しかし「アイデアで勝つ」のは実際、不確実性が高すぎる。

アイデアは一定のレベルを超えると「好みの問題」になりがちだからだ。いいアイデアでも、相手の好みに合わなければ採用されない。何が採用されるかは、手を出してみないとわからない。

これを仮に「アイデアじゃんけん」と呼ぶ。

じゃんけんで勝つのに必要なのは運だ。つまりアイデア勝負だけにしてしまうと、結局競合は運任せになってしまう。

そうしないために細かい工夫を重ねる。これらは「勝つ方法」ではないが「勝つ確率を上げる方法」ではある。感覚値で言えば、これらを重ねることで3〜5%程度ずつ勝つ確率があがっていく。

均等に割り振られたじゃんけんの確率から、ひとつずつ頭を抜け出すことができれば、全体の勝率も大きく変わってくるだろう。

そんな細かい工夫を7つほど紹介する。

まずはこちら。

1.相手の話を(個別で)ちゃんと聞く


何を当たり前のことを…と思った人もいるかもしれない。でもこれ、意外とやっていない場合が多い。

競合プレゼンの場合、複数社が合同で呼び出されてオリエンテーションが行われる。そして大抵の場合「追加で質問がある場合は言ってください」とプレゼンまで相手の門戸は開かれている。

この際にメールなどで質問を投げるのではなく「⚪︎⚪︎について追加で30分ほどでいいので、ヒアリングしたいのですがダメでしょうか?」と訪問を打診してみるといい。

「公平性の観点からNG」と言われる場合もあるが「それで提案の精度が上がるなら…」と応じてくれる場合もある。少なくとも、私がオリエンをする側だったら30分でプレゼンの精度が上がるなら応じたいと思う。

ここで追加のヒアリングができればアドバンテージは大きい。オリエンで聞き出せなかった情報を聞き出すことができる。

同じく公平性の観点から、質問に対する回答が他社にも共有されたとしても「私の話を聞いてくれた人がプレゼンしてくれている」という心理的なアドバンテージは大きい。(それ故に追加のヒアリングはプレゼンする予定の人が行った方がいい)

人は自分の話を聞いてくれた人の話は、聞こうとしてくれるものだから。

続いてはこちら。

2.プレゼンする人の「人となり」がわかる自己紹介をする

プレゼンの冒頭で恒例の「プレゼンテーターの自己紹介」だが、つい仕事の実績ばかりを書き連ねてしまう場合が多い。

「こんなすごい人が担当しますよ」と言いたいのはわかる。しかしそれでは不十分な気がする。

プレゼンに勝った相手は自社のパートナーになる。

パートナーとして安心感を持って依頼するには「人となり」も重要だ。どんな仕事を成功させてきたかだけでなく、

・新人の頃はどんな失敗をしてきたのか
・最近はどんなことに悩んでいるのか
・何に喜びを感じるのか
・プライベートではどんな趣味があるのか

など、成功事例だけでない「人となりの奥行き」がちゃんと見えることで、安心して頼めると思ってもらえる。

相手が選ぶのは「アイデア」でなく「パートナー」であるということを忘れてはいけない。

3.競合が出しそうなアイデアは(あえて)紹介する

これは実際よく使う。私が初めて使ったのは十数年前、はじめて受賞した販促コンペだった。

お題は「若者を車のショールームに呼ぶアイデア」だったと思う。

当時の企画書がコチラだ。

企画書の冒頭で「競合はこういうアイデア出しそうだな」という案を書き連ねて、それらを自分たちが採用しなかった理由を述べている。

これをするとで、前後に見るであろう競合のアイデアに「既視感を与える」ことができる。

些か性格が悪い手法ではあるが「自分たちはここまで考えている」というアピールにもなるし、実際「よくあるアイデア」のハードルを超えなければ採用基準には至らない。

自分たちの目線を引き上げるためにも、必要なテクニックだ。

4.アイデアではなく「アイデアフレーム」を提案する

これは「アイデアじゃんけん」にしないために最も重要なポイントかもしれない。

先ほども紹介したが、相手は「アイデア」を選ぶのではなく「パートナー」を選んでいる。つまりアイデアにお金を払うわけではなく「そんなアイデアを考えらるチーム」にお金を払うのだ。

場合によっては、プレゼンで勝ったアイデアが何かしらの制約で実現できないこともあるだろう。その場合「このアイデアではないなら、このチームではない」と判断されてはいけない。アイデアと心中してはいけないのだ。

それであればプレゼンで提案すべきはアイデアだけでなく「こういうフレームで考えれば、こんなアイデアになります」という部分なのだ。

もちろんフレームだけの提案は論外だ。それでは中身のないコンサルっぽいプレゼンになってしまう。

5.ターゲットに(勝手に)ヒアリングする

続いてはコチラ。これは私がキャリアの後半になってやり出した手法だ。

と言うのも、私は電通若者研究部としてチームに入ることが多くなっていたが、自らは30代後半になっていた。

プレゼンのお題は「若者に⚪️⚪︎してもらうためにどうすればいいか?」と言う内容が多かったが、私自身はもう若者ではなくなっていた。

しかしそれはプレゼン相手も同じだった。

若者の気持ちがわかっているなら、わざわざ広告会社に頼む必要はない。それがわからないから、外注している。

つまりアイデアを提案したとしても「ターゲットにとってアイデアがいいかどうか」相手にも判断がつかないのだ。

しかし、一般的にアイデアの需要性調査は競合プレゼンが終わった後に実施される場合が多い。だったらプレゼンの段階で「気が早いようですが、ターゲットに聞いてみました」とその結果を提示してしまえばいい。

「もし若者に批判されたらどうしよう…」などと臆して実施しない場合が多いが、その場合はアイデアを考え直せばいいだけだ。

シンプルに、やらないよりやった方がいい。

6.成功した時のイメージを解像度高く共有する

続いてはコチラ。

具体的には「このアイデアが世の中に出たら、こうなるかもしれません」という事象を紹介すること。

例えば、

・こんなタイトルでYahoo!ニュースに出るかもしれません
・こんな報道特集が組まれるかもしれません

という事象だ。これらの画像や映像を合成や加工でもいいから高い解像度で共有することが重要だ。

と言うのも、人の想像力は差異が大きい。

特にアイデアを作っている側は十分そのイメージができているかもしれないが、初めてアイデアを見せられた相手にはそれができないことが多い。

なるべく高い解像度で成功イメージを共有することで、チームとしての夢も膨らむというものだ。

さて、次が最後のポイントになる。

7.プレゼントを贈る気持ちで臨む

これはプレゼンという言葉の語源に由来する。

「広告はラブレター」と言われた時代があったが、それで言うなら「プレゼンはプレゼント」だ。

つまり相手は「プレゼントをもらう気持ちでいる」ということを忘れてはいけない。つまり「何をもらえるだろう」とワクワクしているのだ。

そんな気持ちでいたのに、プレゼンで相手が自分のPRばかりしてきたらどう思うだろうか?きっと興醒めだろう。

自分たちのプレゼンは、相手に気づきを与えたり、驚いてもらえる「贈り物」になっているだろうか。

そんな気持ちでつくりあげることが、プレゼンを成功させるためにもっとも重要なポイントだろう。

◾️選ばれる立場から、共に選ぶパートナーへ

いかがだったろうか。

こうやって書き連ねてみるとどれも「当たり前」に思えるポイントだったかもしれない。

しかし実際の現場でこれらを全て満たしているプレゼンを私はあまり見たことがない。

広告会社の強みは間違いなくアイデアやクリエーティブの力だ。しかし広告会社とコンサル企業が競合している昨今、そればかりに頼っていては生き残ることはできない。

こうした細かい工夫を積み重ねて信頼されることが「アイデアを選ばれる立場」から「共にアイデアを選ぶパートナー」になるため、広告会社にとって必要な変革なのかもしれない。

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小島 雄一郎
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