これからのビジネス戦略に必須な「分解と組み換え」が加速している ~デフレーミングの最新展開~
私が『デフレーミング戦略 アフター・プラットフォーム時代のデジタル経済の原則』を出版したのは2019年7月のことだ。パンデミックの前であり、本書の構想が練られたのはさらに数年前に遡る。
しかし、パンデミックの状況になり、デフレーミング戦略に沿ったビジネスの「分解と組み換え」が顕著になっている。今回は、デフレーミングの第一の要素、「分解と組み換え」に着目して、最新動向を紹介したいと思う。
デフレーミングのおさらい
デフレーミングは、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の中身を具体的に示すビジョンであり、フレーム(枠組み)が無くなるという意味の造語である。もともとDXといっても「それでどう変わるの?」「どういう方向でデジタルを活用すればいいの?」ということが明らかでなかったことから、生み出したコンセプトだ。
その定義は『伝統的なサービスや組織の「枠組み」を越えて、内部要素を組み合わせたり、カスタマイズすることで、ユーザーのニーズに応えるサービスを提供すること』であり、既存ビジネスを分解して組み替えていく「分解と組み換え」、マス・カスタマイゼーションなどの「個別最適化」、そして働き方の「個人化」から構成される。
図 デフレーミングの3つの要素
その中で、今回は第一の要素、「分解と組み換え」に着目して最新動向を見ていく。「分解と組み換え」は、従来の業界や事業の枠組みを超えて、その内部要素を分解し、柔軟に組み合わせ直すことであり、企業にとっては事業ドメインの見直しを意味する。近年では広く見られるようになった送金とメッセージングの融合、SNSとコマースの融合といった形で見られる。
この「分解と組み換え」で最近気になった事例をいくつか取り上げていきたい。
小売と物流の融合
まず目に留まったのは、クイックゲット社が手掛ける「デジタルコンビニ」だ。
以前からネットスーパー事業は既存のスーパー等を中心に取り組まれてきたが、この事業は最初から30分以内に届けることを中心に据えて事業が作られている。多様な商品を、定額の配送料で届けることを実現している。
上記の記事によると、これを実現するためにいくつかの「特化」や「絞り込み」が見られる。例えば一つのエリアに対して配送拠点を一つに絞ることで、配送を最適化してコストを下げる。またカテゴリーごとに商品を絞り込むことで、逆にカテゴリーの多様性を持たせて幅広い顧客のニーズに対応する。
こうした小売りの配送サービスで先頭を走っているのは中国の「美団点評」である。今やBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)に次ぐ大企業として押しも押されぬ存在となっているが、クーポンサイトからデリバリーに進出し、総合eコマースサービスへと成長した、デフレーミング戦略を体現する企業だ。
ただ、美団点評は食事や小売をはじめ、ありとあらゆる商取引をカバーし、ライドシェアやバイクシェアなどまで手広く手掛けているため、「デジタルコンビニ」とは規模が全く異なる。
美団がここまで大きくなれたのは、配送員にギグワーク的な仕組みを取り入れることで、物流網を丁寧に整備することなく一気に規模を拡大できたこともあるだろう。第三者のリソースをプル的に使うことで規模を一気に拡大するのはプラットフォーム戦略の代表的な要素である。
デジタルコンビニがこのようなスケーリングを目指すかどうかは分からないが、特化してユーザーを獲得し、データを蓄積することで次の成長機会につなげていくことは可能であろう。
オンラインフィットネスからの展開
次に目についたのは、中国のフィットネスアプリ、「Keep」のニュースである。オンラインフィットネスは「Peloton」や、以前このNoteでも紹介した「Zwift」などがあり、特にコロナ禍の中で注目されている領域である。
上記の記事によると元々は動画レッスンやトレーニング計画をサポートするアプリとしてスタートしたKeepであるが、利用者の増加に伴い、事業を様々に拡大しており、フィットネスデバイス、フィットネスバイクなどの機器の開発・販売や、健康補助食品へと進出しているとされる。
既存の事業ドメインの枠組みで考えると、フィットネス用のアプリからスタートした企業が、エレクトロニクスや健康器具、食品の事業まで含めて事業展開しているともいえる。
デフレーミングには事業展開の「パターン」が存在する。まず既存の事業ドメインを分解して一つの領域に特化し、デジタルファーストで再構築する。それをもとに一点突破でユーザーベースを獲得し、そのユーザーをテコにしながら、異分野と組み合わせて範囲の経済を実現していくというものだ(下図)。
図 デフレーミングのZ型戦略
上記の図に見るように「Z型」に表現できるため、私はこれを「デフレーミングのZ型戦略」と呼んでいる。このZ型戦略についてはまた機会があれば詳しく取り上げたいが、Keepの事例もまさにこのZ型戦略に則ったものであり、新たな事業ドメインが生み出される過程にあると言えるだろう。
組み合わせは社内事情ではなくユーザー目線で
異分野の要素との融合を行っていく際に気を付けなければならない点が一つある。それは、社内事情で構想しないということである。社内に抱えている事業のシナジーを活かす、という発想は一見もっともらしく見えるが、それはユーザーにとっては重要ではない。
あくまでもユーザー体験として何が望ましいのかが重要である。どういう機能やサービスがそこに加わるとユーザの利便性や体験価値が上がるのかというところから出発し、そのために必要なリソースはどこからでも調達すればよい。偶然社内にあればそれを使っても良いが、外部により良いリソースがあるのであれば、委託であれM&Aであれ、新たに獲得する方が良い成果を生む可能性がある。
それを考える際に参考になる記事が、ソニーに関する以下の記事である。
そこには、社内のリソースのシナジーを活かそうとして苦闘してきた歴史と、革新を生むためには社外のリソースであっても柔軟に組む姿勢への転換が垣間見えている。
デフレーミングの時代は、デジタルであらゆる業務が抜本的に見直される中で、ユーザーにとって利便性のあるサービスをいかに早く構築できるかが重要である。そのためには既存の枠組みに捉われない「分解と組み換え」が必要であり、社内目線からユーザー目線への転換が必要であろう。