総論良いんだけど各論でコケる。環境政策にありがちなこと。
温暖化対策は「環境問題」か?いきなり何を言い出すんだと思われるかもしれませんが、例えば日本の出すCO2の9割は、エネルギーの利用に伴うものといえばお分かりいただける通り、温暖化対策はエネルギー・経済の問題としてとらえないとコケます。国連の政府間交渉がまとまりづらいのは、経済活動に伴って必然的に排出されるCO2を政府間交渉で抑制することには限界があるからです。どこの国の政府も、自国の経済発展を制約するような約束はしたくないのは当然。それを批判するより、それを前提として「じゃあどうするか」を考えたほうが建設的だと思う訳です。
こうした中で、いま、気候変動の世界を動かしているのが、金融・投資の流れ。以前書いた「ESG投資ーEUのサステナブル・ファイナンスに隠れる「思惑」 ?」でも述べた通り、ESG投資への注目が高まっています。
私も総論は賛成です。まぁESGと言っても、そもそもガバナンス(企業統治)ができていない会社になんて怖くて投資できないですから、ガバナンスは大前提。そこに加えて、E(環境)とS(ソーシャル)があると理解してますが、E(環境)の本丸は気候変動であり、政府だけではどうにもならない課題を民間の投資や金融のあり方によって解決していこうというのは全くもって正しいと思っています。
んが。総論良くても、各論を疎かにして制度設計間違うと、こけてしまうというのが環境政策には(他もそうかもしれませんが)往々にして起こること。ということで、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が採用した「カーボン・エフィシエント指数」というものに潜む問題点を整理しました。
このカーボン・エフィシエント指数の問題点その1。企業の排出量としてカウントする範囲(スコープ)を、「自社が直接する排出量に加えて、サプライチェーンのFirst Tier(購入したエネルギーとダイレクトサプライヤーの排出量のみ)を対象にする」としています。こうなると、電気は発電所で出るCO2がカウントされるのに対して、ガスは家庭や企業で使用されるときにCO2が出るのでそれはカウントされないということになります。そうなると構造的にエンドユースでの化石燃料利用にインセンティブを与えてしまうことになって、長期的にはカーボン・ロックインを招きかねない、すなわち目的と全く異なる結果をもたらすことになるのです。
本稿(GPIFが採用したS&Pのカーボン・エフィシエント指数にみるESG投資の課題)では、こうした問題点を3つ指摘しています。重たいかもしれませんが、伝えたいことはそれほど難しいことではありませんので、ぜひ読んでみてください。
これまで温暖化問題にあまり馴染みが無かった金融や投資の世界の方には「何を細かいことを」と言われるかもしれませんが、こういうことを疎かにすると、コケるんです。日経の「駆ける投資家魂」の連載でも「ESG投資『良き圧力』に」と題した記事が出てました。記事になっているのは、日本が出遅れている、といういつもの主張でしたが、盛り上がっている諸外国もこういう大事なことを詰め切れてはいません。単に「乗り遅れるな」ではなく、日本から「ちゃんとしたESG投資」の提案をすることこそ、求められていると思うのです。ぜひ、お目通しいただければm(__)m。
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