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強いチームを作るには、感情の共有・幸福感・フラットな関係が重要なキーワード。(篠田真貴子氏×矢野和男氏×仲山進也氏出演 働き方innovation #02 イベントレポート)

新型コロナウイルス感染拡大により、各企業はテレワークを実施しました。十分な準備のないまま急遽やらなければならない、ということが日本全体で起こりました。そこで見えてきたのが、コミュニケーションの問題による生産性の低下です。

リモートワーク時代に、どのようにチームの生産性を高めていけばよいのでしょうか?

マッキンゼー、ノバルティス、ネスレなどの外資系企業、「ほぼ日」CFOを経て、今年ベンチャー企業「エール」に転職された篠田真貴子さん、日立製作所フェローで、今年の7月に新会社「ハピネスプラネット」を設立した矢野和男さん、楽天で唯一、兼業自由・勤怠自由の正社員、そして楽天大学学長も務める仲山進也さんの3名をゲストに迎え、日本経済新聞社の石塚由紀夫編集委員がファシリテーターを務めるオンラインイベント「働き方innovation #02 協業で価値を創るためのチームづくり」を9月7日(月)に開催しました。


■はじめに

ー石塚編集委員
新型コロナウイルス感染拡大の影響でリモートワークが進み、様々なところで「生産性が下がった」という声が聞かれるようになりました。その要因として影響が大きかったことが「コミュニケーションの問題」です。

この先、確実に労働人口が減っていく中で、私たちは多様な人と働かなければなりません。Withコロナ、Afterコロナの世界では、リモートワークの中で多様な人材をどう束ねてチーム力を発揮すればいいのでしょうか?

まずはゲストの皆さんそれぞれから、最近のリモートワークをどうお考えか、ひと言ずついただきたいと思います。

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篠田さん
今年の3月からエール株式会社の取締役になりまして、入社後3週間でフルリモートになりました。私はこれまで様々な規模の会社で働いてきましたが、リモートワークに関しては20年以上前から経験があり、子育て中などもとても助けられました。私のキャリアはリモートワーク抜きには成立しなかったと言ってもいいくらい、欠かせないものです。

矢野さん
私は、今年の7月に新会社を立ち上げて代表になりました。この会社設立の準備のための半年間くらいをほぼリモートで過ごして、10人程度の小さい会社にもかかわらず、会社設立の日まで一度も会ったことがない人がいるという経験をもちました。

実は先週、半年ぶりにリアルな場で講演会を行い、「フィジカルなコミュニケーションとオンラインのコミュニケーションはまったく違うんだ」と初めて気づきました。私の重要な能力がオンラインでは発揮できていなかった、やっぱりフィジカルがいい、と思いました。

そういう意味では、リモートワークにはまだまだ発展の余地があるという、可能性に対する期待ももっています。

仲山さん
コロナ以降、リアルなワークショップで行なっていたファシリテーションを、どうやってオンラインで実現するかということを試行錯誤しています。「早く技術が追いついてほしい」というフラストレーションを抱えながら、ずっと過ごしている感じです。

最近のリモートワークの議論で思うのは、20年前に「ネットショッピングってどうなの?」という議論が出たときのことです。20年以上経った今、「買い物は100%ネット」とはなっていませんし、「やっぱりリアルだよね」ともなっていない。みんな目的に合わせて手段を使い分けていますよね。それと同じように、どちらがいいというわけではなく、目的に応じて強みを生かした使い分けが進んでいくのだと思っています。

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グラフィックレコーダー/サービス企画に携わる会社員/一般社団法人Lean In Tokyo運営。ぱっと分かる、エモーショナルなグラレコが得意。


■リモートワークでのコミュニケーション、参加者の皆さんの声は?

ー石塚編集委員
参加者の方に、いくつかアンケートをとってみましょう。篠田さんはこの結果をどう分析されますか?

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篠田さん
職場でのコミュニケーションがもともとどういう状態にあったか、ということによって受け止め方が変わるのではないかと思います。うちの会社の場合、もともと「リモート気味」な状態でしたから、それを前提としたコミュニケーションをお互いにとっていました。

感情を言葉にして伝え合うことが、日々の業務に習慣として組み込まれていたわけです。その土台がある中でフルリモートになったので、生産性が上がったなという実感がありました。

仲山さん
コミュニケーションが希薄になるパターンにはいろいろあると思いますが、まずは、ツールを使い慣れていないのでお互いがどうしていいかわからずに、みんなで遠慮し合っているという状況があると思います。

そしてもう1つ、「オフィス」というのはチームビルディング的に「いい感じ」に三密を作り出してくれるいい設備なんですよね。だから、無意識でやっていてもチームが「いい感じ」になる。

リモートになって無意識でやっていたことの一部が欠けてしまっているのですが、それが何かを認識できずに手当てができていないと、コミュニケーションはどんどん希薄になっていってしまうと思います。

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■これからの組織は、「物」ではなく「人」の成長に投資していく必要がある。

ー石塚編集委員
ここで矢野さんから「幸せで生産的な集団」というものがどういうものなのか、解説していただきたいと思います。

ー矢野さん
私は、ビジネスにしろ人生にしろ、「変化に向き合う」ということが大切だと思っています。コロナでますますその重要性を万人が認識したのではないでしょうか。

今まで、会社や組織をうまく回す仕組みとして、次のようなことが言われていました。

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もちろん、良かれと思って行われていたことですが、これらは「変化への対応を阻む」ものなので、すべてひっくり返さなければいけない。

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このようなことを実践的にやっていくためには、「物」に投資するのではなく「人」に投資する必要があります。

「投資する」と言うと、資産ができて、それがどれだけお金を生むかという投資判断のもとで行われてしまうのですが、本当に必要なのは「人を成長させること」です。今のように「先が見えない状況」の中でも前に進める人を作ることに、投資しなければならないのです。それができないと、変化に弱くなってしまいます。

そして、このようなことに取り組む上で必要なことが「幸せ」です。どういうときに幸せを感じるかは人それぞれ違うと思いますが、幸せによって人間に起こるバイオケミカルな変化は、客観的に測ることができます。

そこからわかったことが、幸せな集団には明確な特徴がある、ということです。

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幸せが数値化できるようになると、組織の根幹にある人や組織のいい状態の、より本質的な部分を見ることができるようになります。

今までは人を機械の部品のように扱ってきた、それをこれからの時代では、もっと人間を人間として扱い、幸せを感じられているかどうかに注目する必要が出てきたのだと思います。

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質問:「5分間会話が多い」ということが幸せな組織の条件としてあげられていますが、会話の内容はどんなことでもいいのですか?

ー矢野さん
仕事の話でも仕事以外の話でもいいと思います。この考え方の大事なところは、組織の中は常に上下関係があり誰かから評価をされる場所なので、何かを発言することにリスクがあるということです。

仕事をスムーズにするためには、きちんと発言する必要があるわけですが、それを言うか言わないかとなったときに、リスクがあると思うとそれを回避するために「沈黙」してしまう。だから、定例の会議以外などでなかなか会話ができないという状況が起こってしまうということなのです。

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篠田さん 
自分の感情をどう伝えるかということは、リモートかどうかということに関係なく、非常に大切だと思います。

つい最近、ある大企業の方が、エールの社内会議を見学に来たのですが、その会議の冒頭、私たちが行なっている「全員が1分間程度そのときの気分などを話す」というのを見て驚いていたんです。例えば「 今日は朝からだるいです」などという人もいるのですが、その方は、オフィスでは自分の感情は出さないようにと教えられてきたと言っていました。

リアルな場所ではいくら感情を出さないようにしていても、伝わるもの、推し量れるものがありますが、リモートではそのような非言語の部分はまだまだテクノロジーが追いついていない問題もあって伝わりづらい。

「ネガティブな感情も伝えていい」ということがベースの考え方にないと、ビジネス上まずいことが起こったとき、それを言えないという状況にもなりやすくなると思います。

ー石塚編集委員
矢野さんのお話の中で「心理的安全性」という言葉が出ていましたが、リアルな関係がない状況でも「心理的安全性」は築いていけるものなのでしょうか?

仲山さん
「心理的安全性」って誤解されて使われていると思うのですが、相手を脅かすようなこと、厳しいことは言わないぬるい関係という意味の言葉ではありません。そうではなく、空気を読まずに我慢せずに厳しいことを言い合える関係、お互いがそれを言っても大丈夫と思えているという関係のことです。

そのためにはベースとして「心理的柔軟性」が必要で、これは、メンバーの発言をみんながきちんと受け止めて、キャッチボールをし合える、全員が柔らかくなっている状態ということだと思います。

ー矢野さん
立ち話の人たちと、座って話をしている人たちの、話の盛り上がりについての研究結果があるのですが、立ち話の場合は人数が多くなればなるほど体がよく動くようになるんです。逆に座っている状況では、人数が多くなればなるほど体が動かなくなって盛り上がらなくなるんです。

私は、心の柔軟性と身体の柔軟性は、強く関係していると思っています。

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■「いいチーム」作りのために、意識的に「雑談」が生まれる仕組みを作る。

ー石塚編集委員
今日の大きなテーマが「チーム作り」なのですが、それでは今お話しいただいたような環境下で「いいチーム作り」をするために必要なことは、どんなことなのでしょうか?

ー仲山さん
オフィスでもリモートでも基本的には一緒で、「ちょっと今いい?」という声掛けがしやすいかどうかに尽きると思います。そして、声掛けしやすい状況とは「オンライン生体反応」があることだと思います。

例えば、SNSへの投稿があれば、今その人がオンラインだとわかるので、すぐにメッセージを送れば少しそこで話せるかもしれません。チャットでの反応がいいとか、ではこのあと1時間くらい話しましょうとか、すぐに話を進められる人、そういうタイミングが合う人との仕事は、うまく進むものだと思います。

ー篠田さん
意図的に「雑談する時間」をスケジューリングすることも、1つの方法だと思います。例えば、定例会でも最初の10分は「雑談にする!」とか決めるようなやり方もあるし、私の会社では「ざっくばらん」というアジェンダを決めないミーティング時間もあります。そんなふうに、自由度の高い会議時間を設定してみるという方法もあるのではないかと思います。

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ー矢野さん
リモートになると、意識してやらなければならないことがいろいろと出てくるのですが、意識すれば結構できることは多いんですよね。雑談モードで話をすることもコミュニケーションでは大事ですが、例えば意識的にテーマを決めて、メンバーを決めて、それを組織を超えていろいろな組合せのメンバーでやってみる。するとコミュニケーションできるし、仲良くなれる。「こんな人だったのか」と仕事をしてみて初めてわかることもある。

相手を知るには、一緒に仕事をすることが最高にいいと思います。

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■質疑応答

質問:チームビルディングをするとき、「一人でコツコツやりたい」「新入社員として入ったばかり」という人を、どのようにしてうまく巻き込めばいいですか?

ー矢野さん
先程の話と同じですが、今まで一緒に仕事をやったことがない人をアサインして、仕事を一緒にすることだと思います。仕事ではなく雑談でもいいのですが、人の組み合わせを変えてやる、ということはポイントかもしれません。人の組合せが変わると話題の出方も話の流れも、同じ人でも違う人がいると変わります。

すると、仕事の現場での発言の背景に、どのような考えがあるのかも見えてきます。先が見えない中で、1つではない答えを見つけて先へ進まなければならない状況の中では、その背後でその人がどんな考えをもっているのかをわかるように、チームを意識して作っていくことが大切だと思います。

ー石塚編集委員
これまでは、生産性を上げるため、効率化のために「会議で無駄なことをするな」「アジェンダのない会議はするな」という考えが主流だったような気がします。会議では何か答えを見つけなければいけない。そのような部分を、もう一度見直さなければならない時期にきているということでしょうか。

ー篠田さん
アジェンダがないとダメな会議もあれば、アジェンダがあってはダメな会議もある。その峻別をしっかりしましょう、という話のような気がします。仕事にはいろいろな要素が組み合わさっているわけですから、創発的な部分はベテランの人たちが雑談をしながら作っていけばいいし、新人はそのピースとなる部分をリモートワークで分担して作っていけばいい。

要は、チームの中でそれがしっかり峻別して整理され、バランスがとれていることが大事なのだと思います。

質問:矢野さんがおっしゃっていた「人に対して投資する」というのは、具体的にどういうことですか?

ー矢野さん
大きな目的を決めて、実験と学習を繰り返して、道を切り開きながら進む挑戦をさせるということです。そして、うまく目的を達成できることもあると思いますが、失敗を何度も繰り返すかもしれない。しかし、失敗というのは常に学習なので、それを通してその人たちはどんどん成長していくわけです。

その経験をもったことが投資の対象であるということです。先が見えない状況でも前に進める人を作る、それが人を育てるということで、これ以上の投資はないのです。

質問:周りが評価してくれるようになるチャットのスキルというのは、どのようなものですか?チャットをうまく使いこなすコツを教えてほしいです。

ー仲山さん
チャットだけうまく使えない人というのはいないと思うんです。例えば、オフィスは話すことが得意な人が活躍しやすい環境で、リモートはテキストコミュニケーションが得意な人の活躍の場が広い。つまり、オフィスでもリモートでも、自分の得意なコミュニケーションツールを使ってコミュニケーションすればいいということだと思います。

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■まとめ

ー石塚編集委員
最後に「協業で価値を創るためのチームづくり」において、ここだけは押さえておいてほしいというポイントを教えてください。

ー篠田さん
情報の共有の前に、土台となる「感情の共有」がとても大事なのだと思います。今回のイベントで私もそれを改めて教えていただいて、大変勉強になりました。

ー矢野さん
先が見えない変化がどんどん起こるようになって、一番大事なのは「効率化」よりも「幸福化」なのだと思います。幸福で前向きで、先が見えなくても道を見つけて常に前に進んでいく人たちを作ること、これが一番大事だと思います。

ー仲山さん
これからの協業は、フラットに関係性を作れるかどうかがスキルとしては肝になるのではないかと思います。ヒエラルキー型の協業の仕方ではなく、お互いのスキルを持ち寄って、心理的安全性の状態ですり合わせて、新たな価値を生み出していくという働き方ができる人とできない人では、相当変わってくるのではないかと思います。

ー石塚編集委員
組織にいると、今日ここで話されたようなことは、実現するのが難しいと感じるのではないかと思うのですが、やれるところからチャレンジすることで、必ずその先にチャンスがくるような気がしました。

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■登壇者プロフィール


篠田真貴子さん
YeLL 取締役

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1968年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月にほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。取締役CFOを務める。2018年11月に退任し、1年3カ月のジョブレス期間を経て、2020年3月からベンチャーの「YeLL」取締役に。家族は夫と長男(高1)、長女(小6)。趣味は料理。


矢野和男さん
株式会社日立製作所 フェロー
兼 未来投資本部 ハピネスプロジェクトリーダ
株式会社ハピネスプラネット 代表取締役CEO

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東京工業大学 情報理工学院 特定教授。1984 年日立製作所入社。2003 年頃からビッグデータの収集・活用技術で世界を牽引してきた。論文被引用2,500件、特許出願350件。ハーバードビジネスレビュー誌にBusiness Microscope(ビジネス顕微鏡)が歴史に残るウエアラブルデバイスとして紹介されるなど、世界的注目を集める。のべ100 万日を超えるデータを使った企業業績向上の研究と心理学や人工知能からナノテクまでの専門性の広さと深さで知られる。特に、ウエアラブルによるハピネスや充実感の定量化に関する研究で先導的な役割を果たす。著書『データの見えざる手』は2014年のビジネス書ベスト10(book vinegar)に選ばれる。2020年7月、株式会社ハピネスプラネットを設立し代表取締役CEOに就任。博士( 工学)、IEEE Fellow。


仲山進也さん
楽天株式会社 楽天大学 学長
 仲山考材株式会社 代表取締役

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慶應義塾大学法学部卒。シャープを経て、99年に社員20名の楽天へ。楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を00年に設立、商売系・チームビルディング系を中心に50,000社の成長パートナーとして活動中。07年に楽天で唯一、兼業自由・勤怠自由の正社員となり、08年には自らの会社・仲山考材を設立、個と組織の育成プログラムを提供。16年「横浜F・マリノス」とプロ契約、「コーチのコーチ」やジュニアユースの育成を手がける。「自由すぎるサラリーマン」としてメディア掲載多数。著書『組織にいながら、自由に働く。』『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか』『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』など


石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員

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1988年日本経済新聞社入社。女性活躍推進やシニア雇用といったダイバーシティ(人材の多様化)、働き方改革など企業の人事戦略を 30年以上にわたり、取材・執筆。 2015年法政大学大学院MBA(経営学修士)取得。女性面編集長を経て現職。著書に「資生堂インパクト」「味の素『残業ゼロ』改革」(ともに日本経済新聞出版社)など。日経電子版有料会員向けにニューズレター「Workstyle2030」を毎週執筆中。


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